第13話 探しものと梅の絵
「探しもの?」
湊がエリカと話した内容を説明すると、紫呉はそう言って首を傾げた。
「エリカさんにとって、すごく大切なものみたいです。生前、田中さんからもらったらしいんですけど」
「ネックレスねぇ……。どこでなくしたのかはわかんねーのか?」
「病気で入院する前なのは確からしいんですけど、どこでなくしたのかまでははっきりとした記憶がないみたいです。で、この絵から離れられないせいで探せなくて困ってるって」
さらにエリカから聞き取った情報を紫呉に伝える。
「つまり、それが未練になってるってことか。まあ霊がモノから離れられないのはよくあることだからな。地縛霊に近いやつだ」
なるほど、と一つ頷いた紫呉は、腕を組むとそのまま宙を睨んだ。何かを考えるような素振りである。
その姿を見守る湊だが、少しして紫呉が顔を戻したタイミングで声をかけた。
「何とかできそうですか?」
紫呉の顔を覗き込むようにして、不安そうに問う。
せっかく願いが聞けたのに、叶えてあげられないのでは申し訳なさすぎる。
しかし、紫呉はそんな湊の不安を吹き飛ばすような笑みを浮かべた。
「願いを持った霊ってのは、無意識にその願いと関係のあるモノに宿ることが多いんだよ」
「てことは、願いがこの絵に関係あるかもしれないってことですか?」
湊がレジカウンターに置かれた絵画に改めて目を落とす。それから確認するようにさらに問えば、紫呉はしっかりと頷いてみせた。
「ああ。その可能性は高いな」
「うーん、これって梅の絵ですよね。梅とネックレス……ですか。梅の花がモチーフになったネックレスとか?」
「梅に関係のある場所って可能性もあるんじゃねーの」
「あ、この絵を描いたのもエリカさんですもんね。梅の絵を描きに行ったのかもしれないですね」
確かに関係ありそうですよね、と湊が両手を合わせながら、納得したように頷く。
「まあ、詳しい話はそこのエリカさんに聞いてみた方が早いだろ。今回はかなり性格のいい霊みたいだから、素直に教えてくれるんじゃね?」
紫呉が絵画を指差すと、湊は「そうですよね」と明るい表情で、その上にいるエリカを見上げた。
「エリカさん、梅に関係のある場所とか記憶にないですか? 亡くなる前に行ったとか。何でもいいんで情報が欲しいんです」
湊の言葉に、エリカは少し間を置いてから首を縦に振る。
『……そうね。入院前に、梅公園には行ったことがあるわ』
エリカの答えに、湊の顔がさらに華やいだ。
やはり、梅に関係のある場所の可能性が高そうである。
「梅公園に行ったことがあるそうです」
「その梅公園って、もしかして平岡公園のことか?」
湊が紫呉の方に顔を向けて通訳すると、紫呉は悩むことなく、すぐにそう返してきた。
それを受けて、湊はエリカに改めて聞き直す。
「梅公園って、平岡公園ですか?」
『……そう』
エリカは小さく頷いた。
「平岡公園で合ってるみたいです」
「よし、わかった。ここからわりと近いし、明日そこに行ってみるか」
紫呉がわかりやすく口角を上げると、それを見ていたのかエリカも嬉しそうに微笑んだ。




