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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第二章 梅とネックレス

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第12話 霊の願い

 (みなと)が左目のコンタクトレンズを外して、絵画に視線を落とす。


 霊の気配は昨日と同じように感じられるが、湊の目でもその姿は見えない。どうやら、まだ姿を現していないらしい。


 姿勢を正すと、思い切って絵画に声をかけてみることにした。もちろん恐る恐るではあるが。


「こ、こんにちは……。ちょっと話したいことがあるんですけど、いいですか……?」


 湊の発した小さな声は震えていたような気もするが、それはどうでもいいことだろう。


 気配は相変わらずで、やはり姿を現さないし、返事もない。


 これはどうしたものかと、隣に座っている紫呉(しぐれ)の指示を仰ごうとした時だった。


『……あなたは誰?』


 女性のか細い、(はかな)げな声に、はっとする。

 湊は慌てて絵画に視線を戻すと、正直に名乗った。


「あの、おれは古賀(こが)湊っていいます。あなたと話がしたいんで、少しだけ姿を見せてもらえませんか?」


 そう告げた次の瞬間、湊の目の前にわずかに透き通った女性の姿が現れる。明らかに絵画から出てきた霊だった。


 セミロングの髪に、色白な肌。可愛いというよりも、綺麗系の美人である。霊ではあるが、きっと生前の姿とほぼ変わりないだろう。


 突然のことに、湊が思わず息を呑む。本当に会話が成り立ったことに、少々驚いた。


 霊と簡単な会話ができることはわかっていたが、自分から進んで声をかけたのは今回が初めてである。

 霊が反応してくれたことが、ほんのわずかではあるが嬉しいと思った。


 そんな湊の様子を見守っていた紫呉が目を見開いて、声を上げる。


「おお、ホントに霊が出てきやがった。会話できるってすげーな!」


 今の紫呉には、きっと真っ白なワンピース姿の霊が見えているだろう。


 湊が紫呉の方に顔を向けて、苦笑してみせる。


「まだ、まともな会話にはなってませんけどね。霊が一言だけ反応してくれたんですよ」

「それでも話が通じるってすげーと思うけどな。とりあえず、何が望みなのか聞いてみてくれ」

「わかりました。聞いてみます」


 紫呉に言われて、湊はしっかりと(うなず)いた。


 ここからが本番だ。霊の願いを聞かないことには、これ以上先には進めない。田中(たなか)の依頼も解決できないだろう。


 絵画の上に立っているような状態の霊を見上げ、改めて口を開く。


「おれたちはあなたの願いを叶えたいんです。何か望んでることがあって、この絵に宿ってるんですよね?」

『……叶えてくれるの?』

「はい。そのためにおれたちがいるんです。まずは名前を聞かせてもらえませんか?」


 さすがに『幽霊さん』や『霊さん』などと呼ぶわけにもいかないだろう。

 それに名前を聞けば、田中の恋人だったのかも判明するはずだ。


『……わたしは、エリカ』

「エリカさんですね、わかりました。紫呉さん、名前合ってます?」


 湊が紫呉に聞くと、紫呉はいつの間にか出していた書類に素早く目を通す。


「ああ、田中さんの恋人の名前で間違いねーな。見た目も聞いてた通りだ」


 紫呉が頷いたのを確認して、湊はエリカにまた話しかけた。


「さっきも言いましたけど、おれたちはエリカさんの願いを叶えたいんです。詳しく話してもらえませんか? きっと力になれると思います」


 湊の言葉に、エリカはわずかに逡巡(しゅんじゅん)するような様子をみせてから、おもむろに唇を動かし始める。


『……見つけたいものがあるの』

「探しものってことですか?」


 湊が問うと、エリカは素直に頷いた。


 どうやら、今回は『探しものを見つけたい』というのが願いらしい。


『……そう。探したいんだけど、ここから離れられないから探せないの』

「なるほど、絵から離れられないから探しに行けないんですね」

『……ええ』


 ここまでは順調に会話ができていて、湊はほっとする。


 あとは願いごとの詳しい内容が、自分たちに叶えられるものであれば問題ないだろう。


「それってどんなものなんですか?」

『……ネックレス』


 エリカはそう答えると、今にも泣き出しそうに両手で顔を覆ったのだった。



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