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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第二章 梅とネックレス

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第10話 霊の気配を探る

 (みなと)の前には、霊が宿っているらしい小さな絵画が一つ置かれている。先ほど来た客──田中(たなか)紫呉(しぐれ)に預けていったものだ。


 それを一度ちらりと見やったあと、湊は顔を紫呉の方へと向けた。


「紫呉さん、どうあってもおれに霊と会話させるつもりですよね?」

「それの何が悪い」


 湊の低められた声を意に(かい)すことなく、紫呉はそう答えてふんぞり返る。

 その態度に湊が肩を(すく)めながら、(あき)れた様子でさらに続けた。


「もし、これに悪霊が取り()いてたらどうするんですか」

「そん時はすぐに(はら)い屋を呼んでやるから安心しろ」

「それって、絶対間に合わないやつじゃないんですか……?」


 明らかに胡散(うさん)臭いとしか言いようのない紫呉の言葉に、じとりとした視線を投げつける。


「大丈夫だ。俺は貴重な人材を失わせるようなことはしねぇ」

「貴重な人材って、今聞くと何だか嫌な言葉にしか聞こえませんね」


 湊が仰々(ぎょうぎょう)しく長嘆しながら、がっくりとうなだれた。

 しかし、紫呉にはそれを気に留める様子はまったくない。


「とにかく、俺の目に見えてねーってことは絵の中に隠れてんだろ。それか実際は宿ってないか。気配を感じるだけなら問題ないだろ?」

「本当ですか……?」


 紫呉の言うことにも一理あるような気もしなくはないが、湊はまだその気になれていなかった。

 今までずっと霊に関わることを避けてきたのだから、当然ともいえるだろう。


 まさかこんな事態になるとは、一体誰が想像できたのか。


 湊としては、ただ単に『つきしろ骨董店(こっとうてん)』という骨董屋のアルバイトとして雇われたつもりだった。


 それがどうして、今は霊が宿っているかもしれない絵画なんてものを、目の前に置かれているのか。


「お前はこの俺を信じられないってーのか?」

「信じてもらえるような行動、これまでしてました?」

「当然だろ」


 腕を組んだ紫呉がまたも胸を張ると、湊はもう何度目かもわからない溜息をついた。そのままうつむいて、諦めたように首を左右に振る。


 これ以上はもう何を言っても無駄だ。


 アルバイトとして雇われて数日、紫呉の性格はすべてとまでは言わないが、だいたいはわかってきている。


 だから、今の湊に言える言葉はこれしかなかった。


「はぁ……わかりました。やるだけやってみます」



  ※※※



 湊が(まぶた)を伏せ、レジカウンターの上に置かれた絵画に意識を集中させる。


 これまでずっと霊を避けてきた湊が、自ら霊の気配を探るなど初めてのことだ。


 もちろん、コンタクトレンズをつけていても霊の気配を感じることはあった。しかし普段はそれを徹底的にスルーしていたのである。


 少し緊張しながらも懸命に集中していると、ふと何かの気配を感じた。特に悪いものは感じなかったので、おそらく悪霊ではないのだろう。


 そこまで確認した湊は、ほっとしながらゆっくりと瞳を開く。


「今はコンタクトつけてるんで見えないですけど、何となく気配は感じます」

「やっぱそうか。性別はわかるか?」


 紫呉は顎に手を当ててわずかに考える素振りをみせると、次には前のめりになってそう聞いてきた。


「うーん、ふわりと柔らかい感じだったんで、多分女性だと思いますけど……」

「てことは田中さんの言った通りか。なるほどな」


 湊の答えに納得するように数回(うなず)くと、腕と足を同時に組んで椅子の背もたれに背中を預ける。


「紫呉さんには見えてないんですか?」

「やっぱり今は姿を隠してるみたいだな。俺にはまったく見えねぇ。お前みたいに気配に敏感でもねーからな」

「そうなんですか」


 紫呉のよこした返事に、湊は「それなら仕方ないな」などと思う。


 やはり気配の感じ方などは人によって様々らしい。


 しかし、気配を感じて霊が宿っていることまではわかったが、このあとはどうするつもりなのか。


(さっき、紫呉さんは『霊の願いを叶える』とか言ってたけど、ホントにそんなことできるのかな)


 湊が視線を紫呉の方に向けると、紫呉は腕を組んだままで天井を(にら)み、何かを考えているようだった。


 さすがに考え事の邪魔をするわけにもいかないだろうと、湊はしばらく黙っていることにする。


 少しして、顔を戻した紫呉が何かを思いついた様子で口を開いた。


「よし。湊、明日もバイトな」


 さも当たり前であるかのように出てきた言葉に、湊は目を丸くする。


「ええ、明日は休みのはず……」

「うっせーよ。これは店長命令だ。それとも何か予定でも入ってんのか?」

「別に入ってないですけど、めちゃくちゃ横暴じゃないですか……」


『店長命令』と言われてしまっては、湊にはもうどうすることもできない。それに、必死に断った結果、アルバイト三日目にしてクビになるのはさすがに避けたかった。


 そんな考えを瞬時に巡らせた湊は、大げさな仕草で溜息を漏らすのが精一杯だったのである。



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