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LXVIII.婚約話

 キードゥル94年3月


 クリスティーネたちが領地に帰って来てから数日。

 クリスティーネは、もう数十分は一枚の書類と睨めっこしていた。


「クリスティーネ様、何の書類だったんですか?」

「……見る、フィリアーネ?」


 クリスティーネはため息をつきつつ、フィリアーネに書類を渡した。

 フィリアーネは書類に目を通すと、目を見開いた。


「えぇっ!? ど、どういうことです? アラン様が……?」


 そう。アラン・エミリエールが、クリスティーネ・ヒサミトラールに対して、婚約を申し込んだのだ。


「いやいやっ、六歳差……は離れすぎって程でもないのかもしれませんが、まだ一年生を終えたばかりのクリスティーネ様に婚約話など……」


 フィリアーネが言うように、婚約が決まり出すのは、四年生辺りからだ。早くても三年生。それを一年生に申し込むなど、早すぎる。

 ちなみに、レーニアティータ皇国のアダルベルトやスウェートとの間に出た婚約話は既に破談となっている。国を越えた結婚は危険なことが多いため、というのが表向きの理由だ。そもそも、話の流れで出た婚約話で、正式に申し込まれたわけではない。




 そうして、昼食の時間、クリスティーネは家族に相談することにした。今日はリュードゥライナが昼食会で欠席だ。


「絶対に断るべきだよ」


 アランとの婚約のお話について説明すると、ミカエルは厳しい顔でそう言った。


(お兄様は反対するとは思っていましたけどね……)


「ヒサミトラールとエミリエールの敵対関係の改善というのは表向きの理由でしょう。……クリスティーネと結婚した後、虐げられるのは目に見えている。それに、〈聖女〉と名高い領主夫人のマリナ様は、一部から〈聖女〉と呼ばれるクリスティーネを目の敵にしているとも聞きますし」


 ミカエルはクリスティーネのことを本当に心配してくれているらしい。そう思うと、クリスティーネは少し微笑んだ。

 だが、逆にクリスティーネがアイシェの転生者であったことを知らないアイリスやレトルートはミカエルの強固な反対に少し首を傾げていた。


「そうね……。エミリエールが何を考えているのか、よく分からない以上、今のところは保留が無難かしら」

「クリスティーネは社交期間中、あちらの領主夫妻と話したのだろう? どんな様子だった?」


 アイリスの言葉にレトルートは頷いて、クリスティーネに問うた。


「そうですね……。特に変わった様子はありませんでした。領主が途中で退室されたので、お茶会は短時間で終わってしまいましたけれど」

「途中退室? どうして?」

「それが、よく分からないのです。お詫びの手紙にも詳しい理由は書かれていませんでしたので」

「そっか……」


 ミカエルは考えるように俯く。


「とりあえず、この件は保留としよう」


 レトルートの言葉で、昼食は終了した。




「クリスティーネ様、城に届いていた書類だそうです」


 そう言って、ラナから手渡されたのは何枚かの紙や木札だった。


「えぇっと、アラン様との婚約話のための会合……。フィーネ殿下とのお茶会……。それから、フィレンツェ様とのお茶会ね」

「エミリエールとの会合に関しては、わたくしも同行いたしますわ」


 クリスティーネを安心させるように、ラナは微笑んだ。

 その力強い笑みにクリスティーネの頬も緩んだ。


「そうね……ありがとう。少し一人にさせてくれる? いろいろ考えたいから」

「かしこまりました。もうアフタヌーンティーの時間ですが、どうなさいます?」

「運ぶだけ運んでほしいわ」


 そう言うと、ラナは少し驚いた様子で「かしこまりました」と頷いた。

 クリスティーネはいつもアフタヌーンティーを側近の誰かと一緒に食べることが多いからだろう。



「ミア……ミア……!」


 人の気配がなくなったことを確認すると、クリスティーネは必死に呼びかけた。

 どうしても婚約のことを、アイシェの人生を知る人物に話したかった。相談したかった。


「……出て、こない……」


 クリスティーネは眉を下げた。何度か呼びかけているのだが、反応がないのだ。


(お仕事が忙しいのかしら……)


 流石に時間をかけすぎて、人払いをしたままだと、側近たちは心配するだろう。


「……明日でも、いいかな」


 エミリエールとの会合まで、まだ何日かある。今日中に相談しなければならないことでもない。


「一人で食べるのはクリスティーネになってからは初めてね」


 アイシェのときはヤドハロートと食べることもあったけれど、一人で食べることの方が多かった。まず、残り物ばかりだったので、食べた回数が少ないのだが。

 一人で黙々と食べる。


(……今日のは少し苦いわね……)


 苦い食べ物はあまり好きではない。チョコレートの苦さくらいならば食べられるが。




 食べ終わり、クリスティーネは側近たちを呼びに行こうと立ち上がった。


「へ……」


 正確には、立ち上がれなかった。足に力が入らず、ガクリと体が倒れたのだ。


(ど、く……?)


 そう、毒だった。

次回、エピローグです!

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