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LXVII.宿敵

キードゥル94年3月


今日は卒業式。


恙なく、卒業式は進行した。クリスティーネには知人や側近に卒業する者がいないのだ。


卒業式では、在学期間七年間の成績から最優秀、優秀者が発表される。総合成績、領主一族(皇族含め)、介添え、武官、文官――と分けられるのだ。


そして、子供たちの卒業を見送るため、領地の子供たちの門出を祝うため、領主、領主夫人も集まっている。流石に全校生徒と保護者、そして、領主一族が集まるのは不可能なので、卒業生、その保護者と兄弟姉妹、領主一族のみが集まる。



卒業式が終わると、クリスティーネたち卒業生以外の者は寮で出迎える。


「卒業おめでとう存じます」


そう言いながら、泣いている卒業生を出迎えるのだ。



それが終わると、卒業生と関係者だけのパーティーが開かれる。


関係のないクリスティーネはすぐに部屋に戻った。側近はクリスティーネの寝る準備だけして、その後はパーティーに行ってしまった。準備をしてもらって、とても申し訳ない。

残っているのは、部屋の外で護衛をしているイディエッテだけだ。


(暇ね)


パーティーは陰八の刻からの開始だ。流石にこんな時間から眠るのは無理があった。


「どうしようかしら。本でも借りてこれば良かったわ……」


クリスティーネはポツリと呟く。


「お暇ですか?」


急に声をかけられ、バッとクリスティーネは顔を上げる。

そこにいたのは、クリスティーネの専属精霊、ミアだ。


「ミア!」

「はい、クリスティーネ様の専属精霊、ミアです」


ミアは浮いたまま、綺麗に礼をした。


「今日は寮のお部屋辺りが静かですね。何かあるのですか?」

「卒業後のパーティーよ。わたくしは参加していないから」

「そうなんですねぇ」


ミアは寮の一階――パーティーが行われている方をぼんやりと見つめた。

それから、クリスティーネの方を真剣な眼差しで見た。クリスティーネはそれを見て、背筋を整える。


「クリスティーネ様……その、嫌な予感がするのです」

「嫌な、予感……?」

「はい」


ミアは神妙に頷く。


「でも、まだ何かは分かってなくて……。精霊の勘は主のものであることが多いんです。だから、お気を付けください」

「……そう、分かったわ。ありがとう」


それから、ミアとは他愛もない話をして、クリスティーネは就寝した。



◇◆◇



(あぁ、帰りたいなぁ……)


クリスティーネはそう思いつつ、目の前の女性と男性を見る。


金髪の女性はエミリエールの領主夫人、マリナ・リエ・エミリエール。そして、隣にいるのは、エミリエールの領主、トール・ロード・エミリエール。



復讐する相手。アランのときとは違って、流石に断ろうとしたのだが――断れなかった。領主や領主夫人に対して、第二領女の権力などちっぽけだから。


現在、卒業式後、数日間ある社交期間最終日。社交期間では、卒業式にやって来る領主一族や、その保護者ともお茶会ができるのだ。滅多に会えない他領の方でも。


(在学時期がかぶっていないからと、油断していたのよね……)


卒業式の会場は円形になっていて、真ん中になるほど位置が低くなっていく。ヒサミトラールは扉の近くで、クリスティーネが前の座席を譲り、後ろの席になったことでマリナやトールと鉢合わせてしまったのだ。


(ミアの嫌な予感――というのはこれだったのかしらね。あのときは、エミリエールと敵対しているヒサミトラールに招待状が来るなんて、思ってもみなかったもの)


「来てくださって、ありがとう存じます、クリスティーネ様」


ふふ、と楽しそうにマリナは笑う。成長したせいか、〈聖女〉というより聖母のようだ。だが、老けているようには見えず、若々しい。まだ二十代なので、そんなものだろうが。


「こちらこそ、ご招待ありがとう存じます」


マリナに席を勧められ、クリスティーネは席につく。教育不足が目立つアランとは違って、完璧なマナーだ。〈聖女〉と呼ばれる彼女には、教育にも力が入るものなのだろう。


「貴族学院では、アランと仲良くしてくださったと聞いておりますわ。あの子は貴女にどんなお話をしたのかしら?」


(いきなり踏み込んだ質問だなぁ)


「そうですね……。アラン様は、マリナ様のことがお好きなのですね。マリナ様のことを熱く語っていらっしゃいました」

「まぁ、お恥ずかしいわ……。アランったら」


金髪を揺らし、恥ずかしそうに眉を伏せるマリナ。


(本当に、誰から見ても〈聖女〉なのね)


「アランはね、お勉強が本当に苦手なんですの。クリスティーネ様には、是非あの子に教えていただきたいわ」

「まぁ……ご冗談を。わたくし如きが、アラン様にお教えできるわけがありませんもの」


クリスティーネはニコリと微笑んで、そう言った。少し気弱な笑みになってしまったかもしれない。


「……っ」


ふと、トールの方に目を向ける。トールは、驚愕の表情をしていた。


「おま、えは……」


そう言ってから、トールは言葉を飲み込む。


(何……? わたくし、何かしたかしら)


「あら、トール様? どうか……なさいましたの?」


マリナは微笑んで、トールを見つめる。


「……っ!」


トールはマリナを見て一瞬、顔を歪め、その後目を向けた。


「……大丈夫だ。クリスティーネ嬢、申し訳ないが、この茶会は終了とさせてもらおう」


それだけ言って、トールは退室していった。


(……何だったのよ)


マリナはすぐさま追いかけるわけでもなく、ゆったりと立ち上がった。


「では、クリスティーネ様。申し訳ないのですけれど、わたくしも退室させていただきますね。旦那様が心配ですので」

「問題ありませんわ。きっと、()()()()()()()()()()お疲れなのでしょう」


クリスティーネは少し踏み込んだ発言をする。「領主としてのお仕事で」と限定するのはあまりよくないのだ。


マリナは全く気にした素振りも見せず、ニコリと微笑んだ。


「……えぇ、ご心配ありがとう存じます」


側近たちが退出の準備を終えるのを見て、クリスティーネはゆったり礼をした。


「ごきげんよう」

「ごきげんよう、クリスティーネ様。……くれぐれも、ご健康にはお気をつけくださいますように」

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