LXV.同じ学年の領主一族たち
キードゥル93年11月
「お久しぶりですわね、皆様」
貴族学院の後期が始まった。
今日は魔法の試験日。とは言っても、属性と魔力量を測るだけだ。本当の試験は別日に行われる。
前に立って、説明をしているのは担当のティルツィアだ。ティルツィアは一年生の全ての科目を担当している。
(全科目を教えられるってことよね。すごすぎるわ)
今回は身分別に分かれて、それぞれで講義が行われている。
一年生の領主一族が集まったのは、これが初だろう。
ここにいるのは、先生を除くと七名。
第二領女、ツォルアン・アードリスディッテ。
第二領女、クリスティーネ・ヒサミトラール。
第一領子、レイ・ミーティリジア。
第二領女、ファミリア・メリアティード。
第二領子、ヴァレンス・ノルシュットル。
第五領子、サカリアス・サンディトルズ。
第三領女、リア・ウェートス。
「では、ツォルアン様から始めましょうか」
立ち上がったツォルアンから、順に魔力測定をしていく。
特に何もなく、ツォルアンは終了し、次はクリスティーネの番だ。
「クリスティーネ様」
ティルツィアに名を呼ばれ、クリスティーネは測定器まで歩く。
測定器は抱えられるくらいの大きさだ。手を入れる場所があって、そこに魔力を込めると測定される。数値と八色に分けられた色が発光するかどうか、で選別される。
「では、魔力を込めてくださいませ」
ティルツィアの言葉にクリスティーネは頷き、少しだけ魔力を込めた。
「まぁ」
少しだけ驚いたような声が聞こえる。
当り前だろう。クリスティーネは幼い頃から魔法の訓練をしているのだ。加えて、理由は分からないが、全属性でもある。
測定器は八色に輝き、表示された数値は694。成人した領主一族と比べても多い方に分類されるレベルだ。ここから成長期が来れば、最高値レベルに達する可能性もある。
「魔力量も属性も……多いだろうとは思っていましたが、かなり多いですね。見たことがありません」
「恐れ入ります」
特に何も言わず、ニコリと微笑んで、クリスティーネは席に戻った。
「なぁ、アンタ」
そんな声が、肩を叩かれる感覚と共に聞こえた。驚いて、クリスティーネは振り向く。
そこにいたのは――ヴァレンス・ノルシュットル。ジェラルドの弟だった。
「な、何か御用でしょうか、ヴァレンス様?」
「アンタだろ? アイツとよく一緒にいる領主一族って」
「あいつ……とは?」
クリスティーネが首を傾げると、ヴァレンスは「ジェラルドのことさ」と素直に答えてくれる。
(兄君のことをアイツ呼ばわりしていいのかしら……)
「よく……という程度は分かりませんが、何度かお茶会をさせていただいております」
「ふぅん? アンタはアイツのこと、好きなわけ?」
(はっ?)
思わず声に出さなかったのは幸いだった。
(……好きって、何なのだろう)
「次、ヴァレンス様」
ティルツィアの声が聞こえる。ヴァレンスは「じゃあな」と言って去って行った。
ヴァレンスと入れ違いで終了したファミリアが帰って来る。
「クリスティーネ様、ごきげんよう」
「ファミリア様! ごきげんよう」
「ヴァレンス様とは、何をお話していたのです?」
ファミリアは首を傾げた。ファミリアによると、ヴァレンスはあまり人との交流がなく、言い噂がないらしい。
(まぁ確かに、口は悪かったですけど)
「兄君である、ジェラルド様のことです」
「ジェラルド様……ですか?」
逆に、兄であるジェラルドには噂自体が少ないそうだ。
「皆様、座ってくださいませ」
全員の魔力測定が終了したらしく、ティルツィアがそう言った。
ファミリアは「ではまた」と微笑んで自席に戻っていく。
「本日の講義は終了です。明日は魔石が必要ですので、持参してくださいませ」
そうして、講義は終了した。
「クリスティーネ様!」
ここに側近はいないので、椅子を丁寧に戻して部屋を出ようとしたとき、名を呼ばれた。ファミリアの声だ。
どうしたのか、と振り向けば領女の三人が集まっている
「どうかしましたか?」
クリスティーネがニコリと微笑むと、ツォルアンが口を開く。
「同じ学年同士、仲良くしようと思って。四人でお茶会をしようと思うのです。クリスティーネ様もお誘いしてもよろしいかしら?」
「まぁ、楽しそうです。是非」
「良かった。では、また招待状を出しますね。ごきげんよう」
ツォルアンはそう言って、微笑み、部屋を出て行った。ファミリアも続いて出ていく。
(流石。アードリスディッテは影響力の高い土地だものね。人をまとめる力があります)
「リア様、ご挨拶が遅れました。ヒサミトラールが第二領女、クリスティーネ・ヒサミトラールと申します」
「こちらこそ。わたくしはリア・ウェートスです。よろしくお願いいたします、クリスティーネ様」
リアはゆったりと微笑んだ。彼女は領主一族の集いで出会ったラルミアの妹だ。ラルミアとはまた違った魅力のある女の子である。
長く伸びた夜空のような紺色の髪、蜂蜜のような金の瞳に唇の近くにある黒子。凛とした顔立ち。それから、ラルミアと似て、とても背が高い。十か十一という年で、150cmくらいはあるのではないだろうか。
前回測ったとき126cmだったクリスティーネと並ぶと、二歳くらい差があるように見える。
「うぅ……」
「ど、どうなさいました?」
クリスティーネが身長差に悶え、リアがオロオロしていた。
それを見たティルツィアは(何をしているんだろう)と思った。
全属性の珍しさ――ほぼいないけど、物語や英雄譚に出てくることが多いので、珍しく思えない。数は国に両手の数いるくらい。




