LXII.お目覚めは後始末の後です
短めです。
キードゥル93年10月
ん、と少しだけ声が漏れて、クリスティーネは目を覚ます。
「クリスティーネ様……!」
泣きそうな顔で、クリスティーネを覗いたのは、ファミリアだ。
「ふぁ、みり、あ様……?」
「はい、ファミリアです」
ファミリアは涙を流し、ふわりと笑った。
クリスティーネはゆっくりと起き上がる。かなり体と頭が痛い。
(わたくし、どれくらいの間眠っていたのかしら……)
「クリスティーネ様、無理に起き上がっては……」
「……大丈夫、ですよ、ファミリア様」
「クリスティーネ様、危ない橋を渡るのは、おやめくださいましね。お兄様やミカエル様からお話を聞いて……本当に、心臓が止まるかと思いましたもの」
「……そう、ですね。ご心配をおかけしてしまいましたわ」
クリスティーネは眉を下げて微笑み、ファミリアはクリスティーネを見つめる。
「そういえば、わたくしの側近たちは?」
「昼食時なので、丁度皆様休憩しているのです。側近を呼んで参りますわね」
ファミリアは眉を下げて微笑み、部屋を出て行こうとした。
(もしかしたら、ずっと待っていてくださったのかもしれない)
「ファミリア様、ありがとう存じます!」
「…………わたくし、何もしておりませんわ。……何も、できなかったのです」
「でも、後始末に奮闘してくださったのではないですか?」
泣きそうな顔だったファミリアがハッと顔を上げる。
「本当に、ありがとう存じます。領主様もいらっしゃらなかったでしょうし、本当に大変だったでしょう。……それと、目覚めてすぐに、ファミリア様にお会いできて良かったです。とても、嬉しかったのですよ」
ファミリアは、泣きながらはにかむように笑った。
「ありがとう存じます、クリスティーネ様」
そう言って、部屋から出て行った。
そうして、部屋に戻って来た側近たち。メリアティードに長居する予定はなかったので、側近は多くはない。コリスリウト、イディエッテ、シリウス、リーゼロッテ、フィリアーネだ。
「グリズディーネさぁまぁ……っ!」
泣きながらクリスティーネに抱き着いているのはフィリアーネだ。
(こんなフィリアーネは初めて見たわ)
「本当に、本当に良かったです」
少しだけ声が涙ぐんでいるリーゼロッテ。感情を出しにくいリーゼロッテが珍しい。
「ご心配おかけました。わたくしが眠っていた間の報告を伺っても?」
側近たちの報告によると、クリスティーネが眠っていたのは二週間。
その間に、亡くなってしまった者たちの葬儀は終了していたらしい。魔族騒ぎによって、すぐに帰ってきたメリアティード領主と、ヒサミトラール領主であるレトルートは連携して、クリスティーネとミカエルが滞在できるようにはしてくれていたそうだ。
(……ということは、ローザとイリスのお茶会と、フィーネ皇女殿下とのお茶会をすっぽかしているのでは??)
本来ならば、もう貴族学院に行って、お茶会をしている時期。
シリウスの母、ローザと姉のイリスとのお茶会に加えて、貴族学院で行われる予定だったフィーネとのお茶会の時期を過ぎている。
(どうしましょうっ、どうしましょうっ? 殿下は許してくださるかしら……。どうせなら、アランとのお茶会をすっぽかしたかった!)
そうして、報告会は終了し、クリスティーネは領主たちから招待され、食堂に向かった。いつもの旗が掛かっている場所に、青緑色ではなく空色なのが、変な感じだ
ちなみに、衣装はファミリアのものを借りている。大変申し訳ない。
途中で、ミカエルと合流する。
「クリスティーネっ、目覚めたんだね……!」
「はい。ご心配をおかけしました」
「ううん、私も皆もクリスティーネに助けられたんだ。妹に守られるなんて、不甲斐ない兄で申し訳ないな」
そう言って、ミカエルは眉を下げた。
「そんなことはありません。皆様の力あってこそですもの」
「……クリスティーネのそういうところ、とてもいいと思うけどね。でも、無理はしないように。次は、私が守るから」
クリスティーネのオッドアイを、ミカエルの緑の瞳が見つめる。クリスティーネはふわりと嬉しそうに笑った。
「ありがとう存じます、お兄様」
そうして、食堂につき、中に入る。
「失礼いたします。ミカエルとクリスティーネです」
「どうぞ」
そう声が掛けられ、クリスティーネとミカエルは中に入る。
「ミカエル殿、クリスティーネ嬢」
そこにいたのは、メリアティード領主、ファーラレンス、ファミリアだった。
Q.イディエッテが折った杖はどうなりましたか?
A.イディエッテが持っていた方はちゃんと生えてきました。かなり気持ち悪い生え方ですが。イディエッテ本人はのほほんとしていましたが、他の側近たちは嫌な顔をしていたらしいです。
クリスティーネが持っていた方はイディエッテの方が生えるにつれて、徐々に縮んで、最終的には消えました。
イディエッテの杖は次折れたらもう生えてこないです。危ない橋を渡ったね、イディエッテさん。




