LXI.蜘蛛 後編
久しぶりに更新できました!!!
キードゥル93年10月
クリスティーネはバッと振り向いて、杖を向けた。
「あー、反応速い。流石上物だぁ」
「……誰! 何者!?」
クリスティーネは相手を睨んだ。
少女は白い髪はまるで雪か絹のよう。千草色の瞳は瞳孔が猫のようで異質だった。
そして、頭から生えている二本の赤い角。存在感が大きい。
(魔族……!)
「私はエドゥルネ。どうぞよろしく、クリスティーネちゃん」
にんまりとエドゥルネは笑った。そのとき、ミカエルとファーラレンスがやって来る。
「クリスティーネ!」
「お兄様……!」
「大丈夫ですか、クリスティーネ嬢?」
ファーラレンスの問いにクリスティーネは頷く。近くにいたけれど、本当に何もされなかった。何となく、匂いを嗅がれたような気はするが。
「あー、来たんだ?遅かったね、まあまあさんたち」
ミカエルとファーラレンスを見て、エドゥルネは少しどうでも良さそうな顔をするが、クリスティーネを見ると、パッと元の笑顔に戻る。
「ねぇねぇ、クリスティーネちゃん、クリスティーネちゃん。すっごくいい匂いがするよね。とっても甘くて、魔族――ううん、〈魔王〉様みたいな匂い。なんで? なんで? ――ねぇ、教えてよ」
狂気に満ちた笑顔だ。クリスティーネはゾクリと鳥肌が立った。
「なんの、こと……」
「とぼけないでよぉ。とってもとぉってもいい匂いなんだもん。……あー、そっか。人間には分かんない匂いかも」
(いい匂い……? 魔族にしか分からない匂い……? 意味が分からないわ)
「あっ、そういえば、クリスティーネちゃんはさっき、まあまあ1のこと『お兄様』って呼んでたよね? どうして? ……確かに、半分は血が繋がってるんだねぇ。じゃあ、同じなのはどっち? 父親? 母親かな? ――ねぇ、教えてよ」
「……」
「あっ、ねぇ。まあまあ1もちょっとだけいい匂いがするー! あっ、そうそう! 転生者だとね、いい匂いがするんだって。〈魔王〉様が言ってたの。クリスティーネちゃんの方は、また違う匂いもあるけど……。ねぇねぇ、二人は記憶持ちの転生者?どっちかなぁ?――ねぇ、教えてよ」
「……」
「あ、名前聞いてなかったよね。私は名乗ったのに、そっちは名乗らないなんて不公平じゃあい? まあまあ1はどうかな? まあまあ2は? どんな名前なの?まあまあ1はクリスティーネちゃんと似た名前だったりする? ――ねぇ、教えてよ」
「……言わない」
ミカエルはエドゥルネを睨みつけた。
すると、エドゥルネは無表情にぼんやりとこちらを見つめた。
「あー、そっか。君たちもそんななんだ」
次の瞬間。バッと手を振りかざす。
指先から高速で糸がでてきた。そのまま、真っ直ぐクリスティーネたちを狙う。
クリスティーネたち全員は飛行魔法で回避した。
(この糸……エドゥルネの力で動いていたのね。どうやったら対処できるのかしら。流石に防御魔法では壊れるだろうし……)
「もういっちょ!」
エドゥルネは指先を細かく動かし、糸を操作した。
(試す価値はある、よね……?)
「フォーマカードゥ」
業火が糸に向かう。すると、糸は形を崩して灰になった。
(できた! これなら防げるっ!)
「あーああ、バレちゃった。こんなに早い段階でバレるの? …………やっぱりぃ、上物は違うねぇ」
エドゥルネは狂気に満ちた笑みをクリスティーネに向ける。指を高速で動かす。
「カルス・フォーマカードゥ!」
クリスティーネが叫び、ミカエルたちも防御魔法の代わりとして、火魔法を使って防いだ。
「ねぇ?」
千草色の瞳は、こちらを見ている。
エドゥルネは糸を増やし、複雑に操った。それだけ、長い年数を生きているのだろう。
(そして、たくさんの人を殺してきたんだ)
そうでなければ、こんな緻密な動きはできまい。
「……グッ」
クリスティーネたちが必死に避けたり、火魔法で燃やしたりしても、一向に糸は減らない。
すると、疲れてしまったのか、ファーラレンスが糸に右腕を擦られてしまう。ちらりとしか見えなかったが、かなり深い傷だ。
「ファーラレンス様っ!!」
思わず、クリスティーネは叫んだ。
「あはぁっ、名前覚えとくね、ファーラレンスくん? まぁ、これから死ぬんだけどっ!」
エドゥルネは無慈悲に糸を振り下ろした。ファーラレンスは死を覚悟し、俯く。
「マジェディ」
ミカエルが、防いだ。防御魔法で。
クリスティーネは思わず呟く。
「どういう、ことっ……」
先入観だ。木すら簡単に切ってしまう糸を、防御魔法で防げられるわけがない、という。
考えてみれば、エドゥルネは防御魔法の括りでもある結界を壊せていないのだ。
「……あー、こっちも気づくのかよ。早すぎんだろ、クソが」
エドゥルネは乱暴な口調で呟いた。
「お兄様、ファーラレンス様を結界の中へ」
「……何をするつもり、クリスティーネ?」
「とても危ないですから」
クリスティーネがニコリと微笑むと、ミカエルは心配するような顔をしながらも、頷いた。
「お兄様たちが戻るまでは、わたくしが守りますので」
「あれっ、そうなの? じゃあ……頑張ってみてよっ!」
エドゥルネは、ファーラレンスを抱えて飛行魔法を行使するミカエルを狙う。
「マジェディ」
糸のくる位置に、クリスティーネは正確に防御魔法を行使する。普通の人間にできることではないが、クリスティーネは目がいいのだ。ついでに、怒っているのもある。
クリスティーネはミカエルとファーラレンスを結界まで送ると、エドゥルネにオッドアイを向ける。
「あーあ、殺せなかった。まぁ、いいか。ねぇ、クリスティーネちゃん、何をするつもりなの? ――ねぇ、教えてよ」
「……殺すよ、貴女をね、エドゥルネ」
クリスティーネの言葉は無視して、エドゥルネは名前を呼んでもらったことにパァと喜ぶ。
「わーい。三百年くらい生きてきたけど、初めて名前呼ばれたぁ。嬉しいねぇっ」
「……話、聞いてたの?」
「聞いてたよ、クリスティーネちゃん。……嬉しいねぇ、嬉しいねぇ。かあいいお友達っ」
全く聞いていない。一応、殺伐とした雰囲気だったはずなのだが、エドゥルネの周りだけが違う。キャッキャッと喜んで、まるで子供みたいだ。
「殺すよ……ちゃんと、後悔して、反省して。次はちゃんと、生きて」
クリスティーネは深呼吸をして、杖を振り上げた。
「カルス・レスツィメーア!!」
大きな魔法陣だ。そこから、大量の光る金の矢がエドゥルネに降り注ぐ。
(これで……!!)
クリスティーネは魔力を出し続けた。矢を小さめにして、魔力消費は下げたはずなのだが、魔力はどんどん減っていく。少し目眩がしてきた。
「クリスティーネっ!!」
ふらりと倒れた身体を、誰かに支えられた。
この声は――
「おにい、さま……?」
「大丈夫。もう、大丈夫だから……」
よく見ると、ミカエルの右腕には剣が握られている。そして、エドゥルネがいた場所を見ると、ボコボコに穴が空いて、見るも無惨な様子だった。心臓には剣の痕が残っている。
(あれでも、殺せなかったんだ……)
少し気落ちするが、殺せたんだから良い、とクリスティーネは微笑む。
そして、ミカエルに抱えられたままクリスティーネの意識はなくなった。
よければ並行で更新している『〈英雄〉の光と影』も読んでみてください!!『シャ・ルーフェ シリーズ』よりお読みいただけます!!




