LVIII.第一領子と第二領女VS武官団長
キードゥル93年9月
『ではっ……せーの。始めっ!!』
リュードゥライナとローゼリアの声を揃えた可愛らしい合図から、クリスティーネとミカエル対ディーリトの魔法戦が始まった。
先程の作戦会議では、大まかにクリスティーネが防御、ミカエルが攻撃をすることになっている。
合図と同時に、ディーリトとミカエルは杖を剣に変えた。クリスティーネは二人をよく見て、杖を構える。
それから、ディーリトが走り出し、ミカエルも同じように走り出した。
(ディーリトが警戒するのはお兄様のはず。だったら、わたくしはお兄様の防御に専念した方がいい。ただ、ディーリトの視線には注意。時々、ついで程度に魔法を撃ってくることがある)
新技を編み出したとは言えど、クリスティーネはまだ一年生。しかもまだ体の小さい少女だ。警戒は薄れる。
クリスティーネは二人の動きをよく見る。一見、どちらも攻撃に向かっているように見えるが、ミカエルは受けるつもりだ。
クリスティーネは魔力を集め、剣同士がぶつかり合う直前、魔法を使った。
「マジェディ」
魔法特化の防御魔法だ。ディーリトが振り下ろした剣は一度、防御の壁に阻まれる。
「……っ!?」
予想外の防御魔法だったのにも関わらず、ディーリトは力と魔力で押し切り、防御の壁はガラスのごとく、粉々に砕け散った。
そこから、ディーリトはまた剣を振り下ろす。
ミカエルはそれを受け流した。ディーリトは強い。普段鍛えているし、何より大人だ。だから、防御の壁で阻み、威力を和らげた。
(でも、この手、何度も通用しないのよね……)
次はどうするべきか。
「どうやら、甘く見てはいけないようだ」
ディーリトはコリスリウトと似た、挑発するような笑みを浮かべた。
「甘く見られていたとは、心外だね」
ミカエルも同じように笑い、ディーリトに向かって走っていった。――ついでに、剣を地面に擦って。
(レスツィメーアの合図……。命中率はまだまだだけど……!)
クリスティーネは杖を構えた。ディーリトの属性は火と風だったはず。ならば、水か雷が妥当だろう。でも水は速度が落ちるから――
ディーリトは臨戦態勢で、ミカエルの剣を受ける。
(このタイミング!)
「レスツィメーア」
杖の頭上に、電気を纏った黄色の矢が出てくる。クリスティーネが杖を一振りすると、その矢はディーリトを目掛け、飛んで行った。
(お願いっ、当たって!)
その頃ミカエルはやった矢が飛んできたことを察知し、ギリギリまでディーリトの視線を引き付けつつ、矢を体で隠していた。
矢が届く直前。ミカエルはその場をサッと離れる。
「……っが」
運良く、矢はディーリトの右腕に刺さった。ビリビリと電流が走ったような痛みが走る。そんな中でも、ディーリトはまだ立っている。それから、矢を自身の腕から抜き、投げ捨てた。役目を終えた矢は霧のように消えていく。
だが、ディーリトの体には麻痺が残っているようだ。先ほどよりも若干、動きが鈍い。
そんな体ながら、ディーリトはクリスティーネに向かって走った。
「……!?クリスティーネ!」
ミカエルは大声をあげ、こちらに向かおうとした。だが、麻痺しているのにも関わらず、ディーリトの方が速い。クリスティーネはジッとその場に留まった。
(杖で受けるのは良くない。最悪の場合は折れてしまう。なら……!)
ディーリトが剣を振りかぶる直前、クリスティーネは飛行魔法を行使した。
「ヴォラーレル」
「……マーギッシュカフ」
「……!?お兄様!」
剣を振ると思われた剣は――ミカエルの方を向いていた。
(変形魔法を使った杖は、魔法を使うのが難しいはずなのにっ)
ディーリトはその攻撃に、それなりの魔力を込めていたらしく、ミカエルの身体を覆っていた結界は壊れていた。
「ええと、ミカエル様の結界破壊、ですっ」
(どうしよう、どうしよう。一対一じゃ、かなりこちらが不利っ!)
ローゼリアの声に、クリスティーネは必死に考えた。
(あ、そうだ。コリスリウトに使った手!あれなら……何とか……なるかな?ううん、もうこれくらいしか手段がない。やるしかない!)
「カルス・レスツィメーア」
属性の違う矢を八本、つくる。
水の矢と雷の矢に追跡魔法を組み込んだ。魔力は多くとられるが、仕方ない。
(いけ)
ディーリトは向かってきた矢を全て切り裂いた。
「……面白い。貴女はやはり、レトルートと似ている」
「……お父様と?」
「えぇ、戦法がそっくりそのままですよ」
ディーリトは懐かしむように微笑む。そして、一つ瞬きをした瞬間だった。ディーリトは動く。飛行魔法を使い、真っ直ぐ飛ばした。
(速いっ!麻痺の効果、もう切れてる!)
「フェンネム!」
クリスティーネは咄嗟に、波を出した。だが、それに気づいたディーリトは飛行魔法で、少しだけ高度を上げて波を避けた。
「ヒェーログラシ!」
クリスティーネは氷を出した。魔力量に任せて、どんどん出しては打っていく。
「……っ!」
空中で浮きながらも、剣で一つ一つを切り裂いていたディーリトは小さな氷の塊に気づくことなく、接近を許してしまった。そして、その氷はディーリトの体に当たり、気づけなかったディーリトは飛行魔法への魔力供給が止まったことで、残っていた波に落ちた。
(……何とか……なった、かな?)
そう思った次の瞬間、ずぶ濡れのディーリトは槍でクリスティーネの腕を攻撃した。
クリスティーネが油断した、一瞬の隙である。
「あ……」
魔力を多めに使っていたクリスティーネは、自身を覆う結界に使う魔力がもうなかった。結界は割れてしまう。
「クリスティーネ様、結界破壊です」
「ディーリトの勝ちっ!」
(負けたかぁ……。流石武官団長ね)
「クリスティーネ、大丈夫かい?」
「はい。お兄様は?」
「私も大丈夫。ディーリトは大丈夫?」
クリスティーネとミカエルはディーリトに視線を向ける。
「大丈夫ですよ。水も乾きましたし」
「良かったです」
「クリスティーネ様もミカエル様も本当にお強い。本当に危なかった。とても良き戦いをさせていただきました」
ディーリトとクリスティーネ、ミカエルは目を合わせて微笑んだ。
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