番外編V.同盟の話と想い人 スウェート視点
かなり先になるであろう、次の作品での登場人物が出てきます……。
キードゥル93年9月
「おかえり、アダルベルト、スウェート」
『只今戻りました、父上』
馬車から降りてきたアダルベルトとスウェートに笑って声をかけたのはレーニアティータ皇国のインディバナ領主だった。アダルベルトとスウェートの父である。
(一週間ぶりだな)
自室に入ると、どっと疲れが押し寄せた。
留守番をしていた側近たちに出迎えられ、スウェートは椅子に座り、ため息をつく。
だが、ここで長々と休憩をしてしまうわけにはいかない。夕食時には、父たちに同盟の件を話さなければならないのだ。
スウェートは同盟の書類を見返す。
(本当に、信じられないくらいの好条件だな)
同盟に関しての話し合いでは、ヒサミトラール領主、レトルート様、領主夫人のアイリス様。そして、皇太子であるフェルカッティルトが同席していた。
(貴族学院にすら入学していない私が同席してもよいのか、とは何度も思ったものだ……。だが、あの方にご報告できるだろうな。それならば、この程度の苦労など、楽なものだ)
そうして、スウェートは夕食のため、食堂に向かった。食堂にはスウェートの母以外は揃っている。今日は上級貴族たちとの食事会らしい。
「あら、スウェートお兄様。ごきげんよう、それから、おかえりなさいませ」
「あぁ、レスカ。ただいま」
「長旅、お疲れ様ですわ」
ニコリと微笑んだのは第三領女、レスカ・インディバナ。スウェートの妹だ。八歳になる。
「スウェートも揃ったことだ。さぁ、食べようか」
インディバナ領主の声掛けで、全員が食べ始めた。
早速、アダルベルトとスウェートは父に報告を始める。
「……かなりいい条件をもぎ取ってきたな」
インディバナ領主はかなり驚いた様子だった。
子供だけでの外交だったのだ。驚くのも無理はないだろう。
「かなり頑張ったのですよ、父上」
アダルベルトはニヤッと誇るような笑みを浮かべる。珍しく、インディバナ領主は素直にアダルベルトたちを褒めた。
「あぁ、二人とも頑張ったのだな。陛下も、リーゼ様も喜んでくださるだろう」
「……はい」
領主が珍しく父親としての顔で微笑むと、スウェートはむず痒い気持ちで頷いた。
「それで、陛下への報告はどちらが行くのですか?いつも通り、スウェートお兄様ですか?」
「今回は私でも良いのではないかい、スウェート?」
「駄目ですよ。それに、兄上はまだまだ陛下やリーゼ様との関係値が低いです。あちらも面倒でしょう」
「そんなことを言って、其方が陛下に会いたいだけだろう?」
「もちろんではないですか」
スウェートは煽るような笑みを向ける。家族には既に想い人がバレているのだ。今更、恥ずかしがっても意味はない。からかわれる材料を増やすだけだろう。
アダルベルトは大人しく引き下がり、女帝のいる中央部への報告はスウェートが行くことに決まった。
◇◆◇
「スウェート!お久しぶりですね。無事で何よりです。……お出迎えが出来ず、申し訳ありません」
「ごきげんよう、スウェート」
書類から顔を上げて、スウェートに満面の笑みを向けたのは、ネモフィラ・ロード・レーニアティータ。女帝だ。
そして、書類にペンを走らせつつ、挨拶をしたのは、リーゼ・レーニアティータ。
今年の春。皇帝、皇后、皇太子が暗殺されたことは、記憶に新しい。
戦争が始まったのは一年前のことだった。ランツァルト皇国が宣戦布告をしてきたのだ。昔から敵対状態にはあったが、急なものだった。
そうして、残った皇族は皇女、ネモフィラ。それから、既に隠居中の皇太后、リーゼ。ネモフィラの祖母だ。
直系の皇族でなければ皇帝にはなれない。そんな法律のせいで、ネモフィラは七歳という若さで女帝の座についた。リーゼは摂政としてネモフィラを補佐している。
(本当に、私より年下なのにご立派だ。それに、守ってあげたくなるような感じがする)
スウェートは想い人――ネモフィラに微笑んだ。
「お久しぶりです。陛下、リーゼ様」
「同盟の話でしょう?こちらにはいつまで滞在するので?」
「一週間ですね。……父上より、こき使えとのことです」
「まぁ、嬉しい。存分にこき使わせていただきますわね。……では、これを」
書類から目を離すことなく、抑揚のない声で話すリーゼはスウェートに書類を差し出した。こき使え、という父の話は煩わしいが、本来ならば貴族学院に入学するまで会えないはずの想い人とこうやって仕事ができるのだ。
「かしこまりました」
スウェートは書類を受けとり、いつも通りの場所に座った。
◇◆◇
特に何もないまま、日常を過ごし、次の日。
「仕事は基本的に、昨日終わらせたことですし、同盟の話を伺っても?」
「そうですね。昨日はとっても頑張りました!」
ネモフィラはホクホクと嬉しそうに微笑んだ。いつも通り隈があるのは変わりないのだが。
スウェートは書類を取り出し、リーゼに渡す。
「え?」「は?」
二人の声が重なった。
この二人、性格も容姿もそこまで似ていないのだが、こういうときの表情は似るものである。
「こ、こここ、っこんな好条件、ど、どうやって!?」
「……貴方たちにも驚かされますね」
リーゼはブツブツと呟きながら書類の細かいところまで目を通していく。
「最悪、不平等条約を無理矢理結ばれてしまうケースも想定していたのに……。これは想定外だわ」
「でも、おばあ様、とっても、いいこと、ですよね」
「そうね。でも、呼び方は良くないですわよね、陛下?」
あ、と小さくネモフィラは声を零す。いつも女帝として相応しくあろうとはしているものの、こういうところは年相応に抜けている。
「申し訳ありません、リーゼ」
「よろしい。それで、同盟の話に戻るけれど……」
「何故こんないい条件を?何か裏があるのでは?ということですよね、リーゼ様」
「……貴方の聡明さにはかなり脅かされましてよ、スウェート。ご名答です。理由は分かっていて?」
スウェートはミカエルの言葉を思い出した。
――レーニアティータ皇国は一部を除き、他国から憐れみの目を向けられているんですよ。支援の話だってある。
「とのことです」
「そう、なんですか?」
「信憑性はともかく、国内にいては、知りえることのない情報でしょうね。まだまだ、ランツァルト派も多いことですし」
リーゼはそう呟く。
まだまだ敵の芽は多い。だが、レーニアティータ皇国を発展させていくことが、残されたスウェートやネモフィラ、リーゼ――全員の責務なのだ。諦めるわけにはいかない。
「リーゼ、スウェート。同盟のお話、進めていきましょう」
ネモフィラの真剣な瑠璃色の瞳がリーゼとスウェートを見上げる。
その言葉に、二人は頷いた。
今後いるかもしれない豆知識
言語のお話ですが。だいたい四つのグループに分けられています。
レッフィルシュット皇国とレーニアティータ皇国は同じグループの言語なので、多少の発音の違いはあれども、普通に話せます。




