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XLV.ポリマ・バーリは一等星にはなれない

最後にあわーい同性愛表現があります。苦手な方はお気を付けください。

キードゥル85年5月


……あぁ、嫌になる。


わたくしの名はポリマ・バーリ。正直言って、自分の名は好きではない。

今、隣にいるのはスピカ・バーリ。義妹であり、実の従妹。

姿勢を正し、貴族らしい笑みを浮かべている。


……この子がいる度に思い知らされる。


その時、扉が開いた。


「ポリマ、いらっしゃい」


リュネールナがこちらを見てそう言った。


◇◆◇


わたくしには、母がいなかった。そんな母を父は語ろうとはしない。

屋敷にいるのは父、わたくし、少人数の使用人だけ。だが、ある日見てしまったのだ。

父が、母の妹と寝台にいるところを。


「ふふ、いいの?貴方にはお姉様がいらっしゃったというのに」

「そういうお前だって。亡き旦那様がいたのにな、くくっ」


父は、浮気をしていたのだ。


正直、どうでもよかった。「そんなことしてたんだ」「最近部屋にこもったり、外出が増えたりしたのはそのせいか」といった感想しか浮かばない。それだけ、父に興味がなかったのだろう。

まず、浮気といってもいいのか。事実、母は死んだ。父が誰と何をしようとも、浮気にはならないのかもしれない。だが、わたくしは知っていたのだ。父は、母が生きていたときから浮気をしていたのだ、と。どれだけ巧妙に隠そうが、使用人たちの噂は家の娘であるわたくしにも多少聞こえてくるもの。

自分はそんな不誠実な人間にはなりたくない。そう決めた、父のような人間にはならないのだ、と。


「ポリマ、この家はバーリ家と統合することになった」

「……は」


バーリ家。母の実家だった。最近、母の兄が死んだので、あの妹が当主になったばかり。


……それに、あの家にはスピカがいる。


だが、自分に「嫌だ」と言う選択肢はない。答えは「はい」のみなのだ。


「……承知いたしました、お父様」


そうして、ついにバーリ家へ向かう日がやってきた。わたくしたちの家は取り壊され、周辺の土地はバーリ家のものとなる。


「ようこそ、ポリマ従姉様(ねえさま)、伯父様。お会いできるのを楽しみにしていましたの」


そう言って、スピカは自分たちを出迎えた。いつも通り、ふわふわと微笑んでいる余裕が、わたくしには腹立たしくて仕方がなかった。


「……君のお母様は?」

「お母様はお屋敷で待たれていますわ。ご案内いたしますね」


スピカは父にも大人の対応をして、踵を返す。

自分たちはスピカについていった。


スピカ・バーリ。バーリ家の一人娘。

いつもふわふわにこにこしている少女だ。年はわたくしと同じ十二歳。

第二領女、マイナ・ヒサミトラール様の側近だ。領主一族に認められるだけの成績を持っている。


……だから、わたくしはスピカを抜いてやる。ポリマが、スピカを追い抜く。


乙女座の中の二つの星、スピカとポリマ。二等星のスピカと三等星のポリマ。そのポリマがスピカを追い抜いて、一等星のごとく輝いてやるのだ。


だが、今日もバーリ家の屋敷では、鞭の音が響く。ポリマ・バーリとなった少女に向かって。


◇◆◇


中に入ると、イディエッテが薄く笑っていた。

いいことでもあったのだろう。そうでなければ、イディエッテがこんなに感情を表に出す子ではない。


「イディエッテとリーゼロッテは外で遊んでいらっしゃい。スピカを連れて行って」

「……お母様」

「大丈夫。何とかして見せるから。ね?」


リーゼロッテ様の心配そうな表情に対して、リュネールナは強い笑顔で返した。


そうして、イディエッテとリーゼロッテ様は出て行く。


「何です、リュネールナ様?」


わたくしはリュネールナに向かってそう言った。


「あら、そんなにピリピリなさらないで、ポリマ従姉様(ねえさま)?」

リュネールナは悪戯っ子のように笑ってそう言った。何時ぞやに見た少女の表情。

リュネールナ・ショミトールは――血縁上、わたくしの従妹だ。父方の親戚なので、公的には無関係だが。


「ポリマ従姉様(ねえさま)、イディエッテの背中に傷があるの、ご存じですか?」

「……」

「知らなかったとは言えませんよね?イディエッテの介添えは貴女なのだから。知っていて報告しなかったとも言えない。だって、貴女が付けた傷はちょっとどころではないのだもの」


リュネールナはそう言って、悪い笑顔を見せる。

それから、クスクスと笑いつつ、机に置いていた布をとる。


「ねぇ、ポリマ従姉様(ねえさま)。この魔術具に見覚えはありまして?」

「……!」

「ポリマ従姉様(ねえさま)の介添えに調べさせたのですよ」


多分、顔が歪んだ気がした。それに気付いてすぐ、わたくしは顔を通常に戻す。


「……ふふっ、ポリマ従姉様(ねえさま)。前に言いましたよね。貴族が感情を表に出すものではないって」

「……?」


そうだ、思い出した。リュネールナがまだ九つだったときだろうか。昼食でリュネールナの好物が出たとき、言ってやったのだ。


『貴族が感情を表に出すものではないわ。貴族失格ね?』


煽るようにそう言った。今思うと、大人げなかっただろうか。だが、特に後悔はしていない。


「今、ポリマ従姉様(ねえさま)は感情を隠しているつもりなのでしょうけれど……感情が丸分かりですわよ?」


リュネールナは嘲笑うようにそう言った。わたくしは思わず指先で顔を触る。


「貴族が感情を表に出すものではないですよ。貴族失格ですわね?」


今になって、無意識に唇をかんでいることに気が付く。

リュネールナはニコニコとしていた顔を、冷たい表情に戻した。いつもふわふわしている桃色の目が冷たくこちらを見つめ、低い声を出した。


「どうやったらイディエッテの洗脳は治るの?」

「さぁね」


わたくしはリュネールナの言葉をきっぱりと切り捨てる。

洗脳なんて大袈裟な。

わたくしがやったのは躾だもの。

わたくしが、あの女からやられたことと同じ。

それに、イディエッテが一人前の上級介添えになるためには必要なことなのだ。


「わたくしは知らないのだもの。知らないことを教えろと言われても、無理な話ね」

「……全てを正直に言わないのであれば、記憶干渉の魔術具を使うことも、視野に入れているのだけれど」

「……なっ!」


記憶干渉の魔術具は大罪人に使用する魔術具だ。


……そんな魔術具を使用する……?


リュネールナの目は本気だ。


「まっ」


リュネールナの明るい声が聞こえる。

希望が見えたように思えた。だが、微笑んでいるリュネールナの目は笑っていない。


「やらないでほしいって、言ってくれる子がいるからしないわ。でも、記憶干渉の魔術具を使われるより、貴女のプライドはズタズタに引き裂かれるかもしれないけれどね?」


……何を、言っているのだろう?リュネールナは。記憶干渉の魔術具を使われるよりプライドを引き裂かれること?そんなものは思いつかない。


「精々、あの子の玩具になってあげてね、ポリマ従姉様(ねえさま)?」


◇◆◇


「ごきげんよう、お姉様」


そう言って、ポリマ・バーリの部屋に入ってきたのは――・――。


「……」


床に座り込んでいるポリマは黙って入ってきた女を見上げる。


「まぁまぁ、随分とお可愛らしい姿になって……」


憐れむように、女はポリマを見下げる。それから、しゃがみ込んでポリマと視線を合わせた。


……腹立たしい。


「あぁ、楽しみ!お姉様お姉様お姉様お姉様っ!!!リュネールナ様から許可をいただけて本当に良かった!」


いつもはふわふわと笑っている女の顔が醜く歪む。


「……お前は何を言っているの」

「これから、お姉様はわたくしの玩具なんですっ!こんなに嬉しいことはないでしょう?猛省して、リュネールナ様とイディエッテ様に謝って……お姉様がきちんと白状したら許されるらしいですよ。あ、これ、飲んでさい」


女はポリマに白い錠剤と水を手渡す。何も考えずに、ポリマはそれを飲み干した。

頭がぼんやりとしてきた。何故飲むのだろう、自分は、今何を飲まされたのだろう、何を言っているのだろう、なぜここにいるのだろう、そんなことをポリマはぼんやりと考える。


すると、女はポリマに覆いかぶさった。不意打ちにポリマは倒れる。


「わたくし、お姉様が大好きなんですよ。幼いときから――いえ、出会ったときから。貴女がずぅっと。あ、大丈夫ですよ、お母様もお義父様もちゃーんと()()()()しときますからね」


……馬鹿なのだろうか、この子は。


「愛しています、お姉様。これからは、ずぅっと一緒。わたくしと、ずっと一緒にいてくださいね。さぁ、始めましょうか。タノシイコト、いーっぱいしましょうね」


そう言って、ポリマ・バーリの義妹、スピカ・バーリはポリマの唇に己の唇を重ねた。

ポリマがイディエッテにかけた洗脳

・常に静かである

・基本無表情を貫く

・先生は悪くない

・先生は自分のために躾をしているだけ


などなど。なお、これはポリマがスピカの母にされたものと同じです。洗脳はされていませんが…。


◇◆◇


総合ポイント42pt突破いたしました!!本当にありがとう存じます。それと、昨日500pv超え!急に見て声も出なかったです。本当にありがとう存じます。泣くほど嬉しいです。

感想、リアクション、ブックマーク、評価などなどじゃんじゃんお待ちしております!レビューも書いてくれると嬉しいな。

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