XLI.夏季休みの予定
キードゥル93年9月
「では、そろそろ昼食に向かいましょうか」
「はい、クリスティーネ様」
朝の勉強を終えたクリスティーネは立ち上がる。
その時だった。
……魔力の反応?
ポケットに魔力の反応があったのだ。
クリスティーネはポケットに手を入れて、魔法石を取り出す。入れていたのは連絡用魔法石だ。ピンクと緑が入り混じった複雑な色に輝いている。
今、それから魔力が発せられているということは、誰かからクリスティーネに連絡が来たのだろう。
『ファミリア・メリアティードより連絡』
「……出ますね」
魔力を込めると、チカチカと魔法石が光り出し、魔法陣が浮かぶ。
『現在、キードゥル93年9月1日、八の半刻です。……ごきげんよう、クリスティーネ様。そちらには何時頃についているのでしょうか?昼食時であれば、申し訳ないです。えっと、本日招待状をクリスティーネ様の側近殿にお渡ししております。もう、昨日には領地に戻られたと伺いました。本当は昨日のうちにお渡ししたかったのですけれど、遅れて申し訳ありません。それで、早ければ本日中に招待状がクリスティーネ様の元に届くと思います。お返事は遅れそうでしたら、連絡用魔法石にてご連絡くださいませ。……また会える日を楽しみにしております。ファミリア・メリアティード』
「……お茶会の招待状って、まだ……ですよね?」
「そうですね。コリスリウトに確認してみましょうか」
レニローネはそう言って、連絡用魔法石を取り出す。その時だった。
魔法石が光り出したのだ。
『コリスリウト・アレクサンドより連絡』
急にコリスリウトの声が聞こえて、驚いたのかレニローネの肩がビクッと跳ねる。
レニローネは深呼吸をしつつも、魔法石に魔力を込める。
『現在、9月1日、陰九の刻だ。やぁ、レニローネ。今は勤務中であっているだろうか?クリスティーネ様にも聞かせてほしい。……先程、ファミリア様よりお茶会の招待状が届いた。今からヒサミトラールに送るのはかなり時間がかかるので、今から送るが、先にユティーナが読み上げるのをクリスティーネ様に送る。準備ができたら、起動させてくれ。コリスリウト・アレクサンド』
すると、次はクリスティーネの魔法石が光る。
『ユティーナ・ヴリーネより連絡』
クリスティーネは魔力を込め、発動させた。
『現在、陰九の刻ですっ。えっと、ファミリア様からの招待状を読み上げさせていただきます――――』
ユティーナが読んだのはメリアティードへの招待状だった。貴族学院ではなく、領地への招待。ファミリアの兄――ファーラレンスは「ミカエルも是非」とのこと。それと、クリスティーネとファミリアはお菓子作りをするそうだ。
……楽しそうっ。
「では、了承のお返事をしますね」
クリスティーネはそう言って、魔法石を取り出し、承諾のお返事を出しておいた。
……お兄様と言えば、フィレンツェ様とはどうなっているのかしら。
クリスティーネは領主一族の集いで会ったウジェートルの第二領女、フィレンツェ・ウジェートルを思い出す。
……フィレンツェ様にも、招待状を出してみようかな。
優しそうな人だったし、もしミカエルと婚約したりするのならば、是非交流を持っておきたい。
クリスティーネがぼんやりとそう考えていると、レニローネが呆れたように口を開いた。
「クリスティーネ様、昼食の時間に遅れます。早く行きますよ」
「……あっ、はい」
そうして、クリスティーネたちは食堂に向かった。
「クリスティーネ、遅かったね。何かあった?」
食堂に開口一番、ミカエルに心配される。クリスティーネは微笑んで返した。
「大丈夫です。少し立て込んでいて、遅くなりました」
食堂に集ったのは、レトルート、ミカエル、リュードゥライナだ。
『〈料理の神〉ルーゴデオに感謝を』
夕食が始まった。
「お兄様、先程メリアティードのファミリア様とファーラレンス様から招待状をいただいたのですけれど、お兄様にも招待が届いていましたよ」
「……ファーラレンス殿から?」
「はい、お兄様も是非、と」
「…………ふぅん」
明るい表情から一気に怖い表情になるミカエル。その表情を見たリュードゥライナは「ひぇっ」と気の抜けた声を漏らした。
「お兄様っ、顔が怖いですよっ」
「ん?あぁ、ごめんね、リュードゥライナ」
……やっぱり、お兄様ってファーラレンス様のこと、苦手なのかなぁ。
「その、それでどうしますか?一応、領地への招待なのですけど」
「……ファミリア様とは、そこまで仲がいいの?」
ミカエルは目を瞬かせる。
本来、貴族学院での交流ができる学生は貴族学院でお茶会をしたり交流をしたりするものだ。上級貴族以下ならばともかく、婚約者などならば別なのだが、領主一族を自身の領地に招くことは相当信頼していなければ難しいのだ。
「……まだ一度しかお茶会はしていません。でも、わたくしはこれからも仲良くしたいと思っていますよ。お友達ですし」
「ふぅん、そうなんだ」
ミカエルは驚きつつも頷く。
「それで、どうしますか?」
「……うーん、クリスティーネは行くんだろう?」
ミカエルは迷いつつ、クリスティーネに問う。クリスティーネは当然だ、と言うように頷いた。
「それじゃあ、行こうかな。いつだい?」
「えっと、二十日後ですね」
「そう。分かった」
……お兄様も、ファーラレンス様と仲良くできたらいいんだけどなぁ。
そう思いつつ、クリスティーネはスープを口に運ぶ。塩加減が素晴らしく、美味しい。
その時、クリスティーネは「あ」ともう一つ聞いておこうと思ったことを思い出した。
「そういえば、フィレンツェ様とは何かありましたか?」
「えっ!?」
ゴホゴホとミカエルは咳き込む。スープで咳き込んでしまったみたいだ。
「ミカエル、大丈夫か?」
「ゴホッ、ゴホゴホッ……だ、だいじょう、ぶ、です」
レトルートがミカエルを心配し、ミカエルは手で制した。
「……フィレンツェ嬢とは誰なのだ?」
レトルートは軽く首を傾げる。
「ウジェートルの第二領女です」
「そのフィレンツェ嬢とミカエルの間に何かあったのか?」
「な、何もありませんよ」
ミカエルは眉をひそめる。だが、少し耳と目じりが赤い。
レトルートもそれに気づいたようで、いつもはあまり動かない表情がニマニマと面白がるように笑っている。
「ミカエルは、私とルネーメヌに似たようだな」
ミカエルは驚いて、目を見開く。
「そ、うですか……?」
「あぁ」
レトルートは少しだけ眉を下げて微笑んだ。
◇◆◇
「リーゼロッテ、今後の予定を整理しましょう」
「かしこまりました」
リーゼロッテはコクリと頷く。
……すでに予定が決まっているのは……。
【・レーニアティータ皇国のアダルベルト様とスウェート様との面会。(ヒサミトラール)
・ファミリア様、ファーラレンス様とのお茶会。(メリアティード)
・シリウスの母君、ローザと姉君、イリスとのお茶会。(スティーネル家)
・アランとのお茶会。(貴族学院)
・フィーネ皇女殿下とのお茶会。(貴族学院)】
「こんなところね」
ちなみに、シリウスの母――ローザ・スティーネルと姉――イリス・スティーネルとのお茶会はクリスティーネたちが帰って来る少し前に届いたそうだ。
シリウスは何も言っていなかったから、知らなかったのだろう。
……あとは……フィレンツェ様への招待状を出したいわ。
「リーゼロッテ、後でフィレンツェ様へお茶会の招待状を出してもいいかしら?」
「……まぁ、いいと思いますよ。ミカエル様もお呼びになるので?」
「うーん、でもわたくしがいては邪魔になってしまうでしょうし、女の子同士にしましょう」
リーゼロッテはクスクスと笑いつつ「そうですね」と頷く。
「他には誰か招待しますか?」
「うーん……」
……ヤドハロートとローゼット……。正体を明かすことはできないけれど、お話はしておきたいのよね。いつか、本当に復讐を実行するときに、二人とは協力しておきたいもの。……でも、反対されるよね……。
「いいえ。特にないわ」
「……それなら、わたくしの父や母とお茶会しませんか?以前からゆっくりお話がしてみたいと申しておりましたの」
「まぁ、そうなの?では、ショミトール家へも招待状を書かなくてはなりませんわね」
リーゼロッテの母――リュネールナ・ショミトールはクリスティーネにとって、叔母でもあり、そしてアイリスにとっての妹でもある。
そして、リーゼロッテの父――オズワルト・ショミトールはリュネールナの婿だ。つまり、リュネールナはショミトール家当主なのである。
先代の当主の子は三人。長男のジェラード。長女のアイリス。次女のリュネールナ。
基本的に、次の当主には長男、いなければ長女がなるもの。だがしかし、現在の当主はリュネールナだ。先代当主が自由で放任主義だったからとも言えるだろう。
ちなみに、ジェラードは今、ウジェートルに婿として領地をまたいでの結婚をした。
それに、今の当主の子に関してもそうだ。長女のイディエッテ、そして次女のリーゼロッテのみ。普通の家であれば、養子をとるところなのだが、次期当主はリーゼロッテ、とすでに指名されている。
……それくらい、ショミトール家って新しいことばかりするらしいんですよね。
「リーゼロッテ、招待状をお願いできますか?」
「かしこまりました」
「ありがとう」
クリスティーネは微笑み、リーゼロッテを見送った。
Q.夏季休みって、なんで9月からになってるの?
A.〈火の女神〉であり、夏を司る女神でもあるヴァイアーサ。そのヴァイアーサが力を休ませるのが、9~10月だからです。




