XL.お願い
ついに一章、四十話突破ですっ!
キードゥル93年8月
「おやすみなさいませ、クリスティーネ様」
「おやすみ、フィリアーネ」
フィリアーネは微笑み、ベッドカーテンを閉める。
しばらくガタガタと物音があった後、クリスティーネは静かになったのを確認する。
……もうそろそろ大丈夫そうね。
あまり音を立てないようにベッドカーテンを開け、クリスティーネはスリッパをはいて立ち上がる。
……うぅ、一人の部屋で、来てくれるかもわからないのに呼びかけるのは恥ずかしい。
誰かが聞いているわけでなくても、一人で声を発しているというのは少々恥ずかしいものである。
「み、ミアっ!ミアー!」
クリスティーネは精一杯、自身の専属精霊――ミアの名を呼んだ。
「み、あー!みやーっ。みゃー!」
最早、猫の鳴き声のようになっていることなど、羞恥心に晒されているクリスティーネは知らないことである。
……うぅ、やっぱり無理、かな……っ?
「我が主の命に従い、参上いたしました、クリスティーネ様」
声が聞こえた。そこが淡い金色に光り出す。
そこにいたのは、クリスティーネが専属精霊、ミアであった。
「お久しゅう存じます、クリスティーネ様」
「お、お久しぶりです。ミア」
ミアはニコリと微笑む。
「クリスティーネ様の方から呼んでいただけるなんて光栄です。近々こちらに行こうと思っていたのですよ。今年に入ってからは特に忙しかったもので」
「そ、そうなんですね。わたくしも会えて嬉しいです」
クリスティーネはふわりと微笑んだ。
「何の御用ですか、とお聞きしたいところですけれど、世間話から入っても?」
「えぇ、構いませんよ」
クリスティーネは笑顔で頷いた。
「貴族学院は今、夏季休みなのですか?」
「はい、今日領地に帰ってきたところです」
「貴族学院は楽しいですか?」
「はいっ、お友達もできましたし、側近たちも優しい方たちで嬉しいです」
「領主一族では、どなたと交流を?」
「メリアティードのファミリア様、ノルシュットルのジェラルド様、ウェートスのラルミア様、サンディトルズのメルカルア様、エミリエールのアリスフィーヌ様。……それと、アラン・エミリエールとも」
ミアは「え」と呆然したような声を出した。
「どうしてそんなことを……?噂で聞きましたけど、倒れたとか?どういうことですかっ!」
ミアは大きな声でクリスティーネを叱る。尤も、こんな夜中に大声を出すと、側近や見回り中の武官などがやって来る可能性があるため、かなり危険なのだが、ミアは気付いていない。
クリスティーネは渋々、アランとのお茶会であったことを説明した。
その説明を受けたミアは、それはもうお怒りである。
「な、ん、で、そんなことしたんですかっ!?」
「え、あ、いや……じょ、情報集めのために……」
「それで倒れたら駄目でしょうっ!?もっと自分の身体を大切にしてください!」
「は、はぁい……」
お願いを聞いてもらう予定だったのに、どうしてこんなことになったのだろう。
「……とりあえず、倒れるまで頑張りすぎないでください。分かりました?約束ですからね?」
……なんだか、お姉様みたいだなぁ。
ぼんやりと、懐かしい気持ちになる。
『とりあえず、次の日に支障が出るまで頑張りすぎないこと!分かった?約束だからね?』
「……あの、ミア。お願いがあります」
「……はい」
クリスティーネは姿勢を正し、ミアを真っ直ぐ見つめる。ミアも同じように、濃い金の瞳をクリスティーネに向けた。
「わたくしの姉、フェルーネ・エミリエールの死が真実であるのか、確かめてほしいのです」
「……」
クリスティーネがそう言うと、ミアは目を真ん丸にさせたまま固まった。
それから、目線を下げてポツリと呟く。
「……まだ、知らなかったのですね」
「え?じゃ、じゃあっ……」
クリスティーネの声は震える。
「はい、すでにもう、〈輪廻の双子神〉によって、次の魂を巡られました」
「そんなっ……!」
ミアは無表情に、だがそれでいて悲しそうな声でそう言った。
クリスティーネの瞳からは涙が零れ落ちる。
勝手に、フェルーネが生きていると思い込んでいたのだ。心のどこかでは、分かっていたのに。だがそれは、勝手な妄想に過ぎなかった。
「……ここで、いい知らせと悪い知らせを」
「え?」
泣き腫れた目でクリスティーネはミアを見る。
「いい知らせは、今この人間の世界に彼女が生きているということです」
……それって……!
この世界で会える可能性がある。それに、もしタイミングが良ければ、貴族学院でだって会えるのだ。
「ですが、悪い知らせも。……彼女は、記憶を失った転生者となっています」
「え?」
……どうして?わたくしは記憶持ちなのに、お姉様は持っていないの?
転生者には、記憶持ちと記憶を持っていない者がいる。記憶持ちの方が記憶のない者より少ない。これは周知の事実だ。
……でも、どうしてわたくしだけ……?
記憶を持っていることが絶対に得だとは思わないし、アイシェとして何か特別なことをした記憶もない。
「ですが、彼女は貴女のすぐ近くにいるでしょう」
「……それって……誰?」
「お教えすることはできません。女神よりのお達しですので」
ミアはきっぱりそう言った。
……お姉様が、どこかで笑っていてくれるのなら、わたくしはそれで構わないかな。
会いたい。
でも、それ以上にフェルーネが地獄から抜けて、今どこかで生きている。それだけで嬉しい。
「ありがとう、ミア。いろいろ収穫がありました」
「……クリスティーネ様、一人で抱えていませんか?」
ミアは今にも泣きそうな顔でそう言った。涙目になっているわけではない。ただ、苦しそうな顔だったのだ。
「……大丈夫。貴女と話せてよかった」
「そう、ですか。……これからは、忙しさも落ち着きそうなので、時々顔を出しますね」
クリスティーネは眉を下げて笑い、ミアは優しく微笑む。
「えぇ、待っていますね、ミア」
「はい!」
ミアは力強く微笑み、小さな手でクリスティーネの人差し指を包んだ。
~お知らせ~
皆様、こんにちは。いつも読んでくだって本当にありがとう存じます。少し前、ついに36ptになりました!本当に嬉しい限りです。
で、本題です。これから、受験に向けて、さらに勉強時間が増え、ゆっくりしている時間が減っていくと思われます。志望しているところがそれなりに上位なので、勉強時間を増やさなければいよいよまずいな、と痛感しております。今まで、前回から一週間以内の投稿を目安に書いていました。(勝手な私の目標です)ですが、それもきつくなってきております。なので、二週間に伸ばしていこうと考えております。楽しみにしてくださっている方がいらっしゃるのは私にとって、本当に奇跡のようなことです。これからも精進して参りますので、どうかこれからも【聖女の復讐~復讐のためだけに生きるつもりだったのに他のことが楽しくてたまりません~】をよろしくお願いいたします。
感想、リアクション、ブックマーク、評価などなどじゃんじゃんお待ちしております!では、また次のお話で。後書きでの長文、失礼いたしました。




