XXXVI.今後について
キードゥル93年8月
ラナの話を聞いていたら、いつの間にか〈混ざりの時間〉になっていました。
「以上が、わたくしがエミリエールを嫌う理由です」
「それは……嫌うな、とは言えませんね」
マルティオは俯いて、呟くような声を出しました。
「その……申し訳ありませんでした」
「え……ラナ?どうして謝るの?」
「皆様の気分を不快にさせました。こうなることは、大方予想がついていたのに。申し訳ありません」
「ラナ……」
ラナは「こうなることなら、正直に全て話さなければ良かった」と言う。
……そんなことない!
クリスティーネは立ち上がって、ゆっくりラナの方へ歩く。
「クリスティーネ様っ……?」
立ち上がったクリスティーネと座っているラナと目線があう。いつもはクリスティーネが見上げるか、ラナが跪く場合はクリスティーネが見下げるのがほとんどなので、こうやって目線が同じぐらいであることは珍しい。
「ラナ、貴女は正直に話さなければ良かったと言いますけれど、わたくしは貴女が思い出したくないであろう過去のことを、正直に包み隠さず素直に言ってくれたことを嬉しく思っています」
「クリスティーネ様……」
「クリスティーネ様の言う通りですよ、ラナ。それに、ラナのお話を聞くと決めたのはわたくしたちですもの」
クリスティーネの言葉にリーゼロッテが頷く。
そんな中、途中から話を聞いていたコリスリウトは居心地悪そうに挙手する。
「それで、私が聞いていても良かったのか?もう聞いてしまったが」
「レニローネが聞いているのだから、問題なくてよ。それに、側近仲間ですもの」
……先程から、妙にレニローネとコリスリウトの話をしていますけれど……どういうことなのかしら?
レニローネは知らない者たちの前で恋愛に関してバレまいと表情筋を保っているが、ほんの少しだけ耳が赤い。女性側近にはもう気付かれてしまい、微笑ましい笑みを浮かべている。
対して、コリスリウトもほんの少しだけ目尻が赤くなっており、勘づいたマルティオにニマニマと笑われている。
気付いていないのは当事者を除き、クリスティーネとシリウスとなった。
それも、本人たちには無自覚なのだが。
「コホン……それで、報告しても?」
咳払いをして、コリスリウトはそう言った。
「そ、そうですね」
「……では、お願いします、コリスリウト」
レニローネが微笑んでそう言い、クリスティーネは席に戻り続きを促す。
「まず、夏休みの統制役に関してです」
そう前置き、コリスリウトは報告を始めた。
「統制役に関しては、私、レニローネ、レンリトル兄上、サミュエル様の四人になりました。一週間ごとに交代する予定です」
「分かりました。お茶会などに関しては?」
「連絡をしてから、随時相談する予定です。最近、連絡手段も増えましたし」
「そうね。ありがとう」
クリスティーネは微笑んでお礼を言う。
「それで、他には?」
「これを」
コリスリウトは内ポケットの中から、黒い手紙を取り出す。見たところ、招待状のようだ。
封蝋には竜の絵が写っている。
「これって……!」
ラナが目を見開いた。
「ラナ、どうしたのですか?」
「これは……皇族からの招待状ですね、コリスリウト?」
コリスリウトは頷く。
……何故、皇族がわたくしに……?
「えぇ、そうです。これは、フィーネ皇女殿下からの招待状です。殿下の側近から直接いただきました。クリスティーネ様、開けてみてください」
「……分かりました」
クリスティーネは不審がりつつも、黒い招待状をそっと開く。
「…………夏季休み期間中、中央部にある城に招待してくださるとのことです」
「何故、クリスティーネ様が……?お話したことはありませんでしたよね?」
フィリアーネが首を傾げる。その言葉に、マルティオが「うーん」と声を漏らして言った。
「レスツィメーアのことじゃないですかね。それに、中央部の人間はクリスティーネ様のことを嗅ぎまわっているでしょう?」
「確かに……そうですね」
「中央部の方々がわたくしを?」
今度はクリスティーネが首を傾げる。マルティオが説明を始めた。
「はい、クリスティーネ様ご自身にはあまりないようですけど、私たち側近には探りを入れてくる者が多いですよ」
「……なるほど」
クリスティーネはうんうんと頷く。
「それでは、了承のお返事を書きましょうか」
「そうですね。明日までにはお返ししなくてはなりませんもの」
「明日領地に戻る方は準備をしておいてくださいね。誰が戻りますか?」
数人が挙手をした。レニローネ、イディエッテ、ラナ、リーゼロッテ、フィリアーネ、ユティーナだ。
「分かりました。帰ってくるときは連絡してください。では、解散です」
そうして、クリスティーネ、ラナ、リーゼロッテ、フィリアーネ、ユティーナはクリスティーネの自室に移動した。
「クリスティーネ様、領地にいる間は文官がわたくしいなくなるようですけれど、大丈夫でしょうか?量はどれくらいなのですか?」
「あぁ、確かに……。でも、あまり量は多くないと思いますよ?」
「クリスティーネ様の多くないはあてになりませんよ」
「…………あのっ」
ユティーナがおずおずと手を挙げる。
「わたくし、シリウスの文官仕事も教えてきましたので、書類仕事ならできると思います。それに、今のところ、他領とのお茶会は夏季休み初期にはないようですし」
「……そうね。それでは、皆でやりましょうか。文官でなくとも書類は使うでしょうし、算術が得意でない方も多いみたいですから」
「へうっ!?わ、わたくしもですかぁ……?」
フィリアーネがオロオロし出す。
……確か、フィリアーネは算術が苦手でしたね。
クリスティーネは高速でフィリアーネの手を取り、微笑んだ。
「大丈夫です、フィリアーネ!わたくしがきっちり、教えてあげますねっ。あ、フィリアーネ専用の問題集も作りましょうか?」
「だ、だだ、大丈夫ですっ。クリスティーネ様、ぜ、絶対に……つ、作らないでくださいねっ!?」
「え……でも……」
「だ、駄目ですから。ね?ね??」
フィリアーネに涙目で、説得されクリスティーネは腑に落ちないものの、頷いた。
そうして、自室に入り、フィーネに向けて承諾のお返事を書く。
その手紙をラナに見てもらう。
「クリスティーネ様……素晴らしいですね。完璧ですわ」
「そう。良かった。じゃあ、これを誰か……」
「わたくし、行きたいです!」
フィリアーネが勢いよくバッと手を挙げる。
「……フィリアーネ、殿下の宮の場所は知っているのですか?」
「あ」
ラナが呆れたように「ハァ……」とため息をつく。
そのとき、リーゼロッテが挙手した。
「では、わたくしも同行してもよろしいかしら?」
「場所は分かるのですか?」
「はい、存じております。では、行きましょうか、フィリアーネ」
リーゼロッテは微笑み、フィリアーネは頷く。そうして、クリスティーネの自室を出ていった。
「わたくし、お茶を入れてきますね」
そう言ってユティーナは出ていく。残ったのはラナとクリスティーネだけになった。
「ラナ」
「はい、何でしょう?」
きっぱり、そして冷静にラナは問う。
「本日の夜、わたくしは早めに休みます」
「……え?あ、はい」
「ですから、それ以降の時間、お部屋には誰も来ないでしょう」
ラナは「はぁ……はい」と不審そうに首を傾げつつ、気の抜けた返事をする。
「では、ラナ。今夜、わたくしのお部屋に来てくださいませ!」
キラキラとした瞳でクリスティーネはラナにそう言った。ラナは驚いたように首を傾げる。
「そんなことでいいのですか……?」
「はい、陰十の刻くらいでいいですか?」
「えぇ、問題ありません。皆には秘密でお願いしますね、ラナ」
そう言って、クリスティーネは笑った。
ごめんなさいごめんなさい。
遅れました~(汗)
言い訳:塾に勉強のせいで長時間軟禁されたため。
次の話はもう少しで投稿できそうなので、楽しみに待っていてください!
あ、あと、遅れましたが、総合10,000PVありがとう存じます!




