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XXXII.波乱の夏季休みの始まり

短めです。でも、次は早めに投稿できるようにしたいと思います。

キードゥル93年8月


「おはよう、クリスティーネ」

「おはよう存じます、お兄様」


……お兄様とお話するのは久しぶりな気がするなぁ。


明日から夏季休みだ。

生徒は領地に戻るもよし、そのまま寮に残るもよし。つまりは、好きにしていいのである。


「お兄様は領地に戻られるのですか?」

「そうだね。戻るよ。クリスティーネは?」

「わたくしも戻ります。リュードゥライナやお母様たちに会いたいですもの」


クリスティーネはニコリと微笑んでそう言った。


「では、わたくしは準備をしてきますね」

「うん、分かった。側近にも確認しておいてね」

「分かりました。失礼しますね」


クリスティーネはそう言って、自室に戻った。


「皆はいつ領地に戻りますか?」


クリスティーネは自室で、側近たちに尋ねる。

長期休みでは最終の一週間を領地で過ごさなければならないという決まりがある。貴族学院も寮も閉まってしまうのだ。


「クリスティーネ様は戻られるのですか?」

「はい、基本的には貴族学院に戻る予定はありません」

「なるほど……。では、統制役が必要になりますね。今年も、ミカエル様は戻られるのでしょう?」


レニローネはそう言った。


……確かに、お兄様は夏季休みの度にずっと領地にいた気がするなぁ。


統制役が必要であることも初めて知った。アイシェはそう言ったことに関われるような人間だと思われていなかったし、基本的にはフェルーネやマリナに任せていた。


「統制役には上級貴族でも、武官が好ましいでしょうね。コリスリウトとレニローネが適任ではありませんか?」


リーゼロッテはそう言って、おっとりと首を傾げる。


「わたくし……ですか?」


レニローネは微妙そうな顔で言った。それでも、嫌な態度は一つとして出ていない。


「レニローネが嫌ならば、私が引き受けよう。ミカエル様の側近からも一人は担当がいるだろうし」

「……嫌というわけではないのです。けれど……」

「……そう、だな」


……レニローネに何かあったのかしら?


クリスティーネはよく分からず、首を傾げる。


「とりあえず、これでミカエル様の側近と話をして、担当を決めて参ります」

「分かりました。よろしくお願いしますね、コリスリウト」


コリスリウトはお部屋を出ていった。


「何か希望はありますか?」

「……あのぅ、希望ではなくて……報告なのですけれど……嫌な報告なのです」


ユティーナは不安そうに手を上げる。クリスティーネはユティーナからの報告を聞くことにした。


「アラン・エミリエール様よりの通達です。夏季休み中に貴族学院でもいいので、お茶会がしたい、と」

「はい……?」

「ハァアアア?」


マルティオは目を見開いて驚き、ラナはこめかみをピクピクさせて怒っている。


「アラン様は、頭がおかしいのではございませんの?こちらの要求は、前期か後期の期間だったはずです。夏季休みの間はやめてほしい、という要求は無視ですか。あぁ、そうですか!夏季休み前でもいいという風にクリスティーネ様が寛容な心でお許しくださったのにも関わらず、返事が遅いだけでなく、要求は一切呑まない!おかしいですわねぇえ??」


ラナが本気で怒り始めた。


……怖い。


普段冷静なラナが珍しい。群青色の瞳に怒りの炎を燃やしているし、額には青筋が立っている。


「お断りするべきですわ。こちらへの配慮が一切ありませんもの。これからも、関わるべきではございません」


ラナはきっぱりとそう言った。


「……ラナはそうやって、エミリエールを嫌っていますけど――」


シリウスがそう言いかける。それから、ラナの群青色の瞳を真っ直ぐ見た。


「なぜ、そこまでして、エミリエールを嫌うのですか?」

「……なぜ……?」


ラナは眉を下げ、首を傾げる。今にも泣きだしそうな、悲しい顔だ。


……ラナがそんな表情をするなんて。


少なくとも、クリスティーネにとって、ラナ・ヴァソールという人間は、いつでも冷静でかっこいい大人の女性だ。頼れるし、尊敬もしている。


「……フゥ、わたくしのお話をしたいところですけれど、先にアラン様とのお茶会を、どうするかのお話が先ですわ」

「……そうですね」


こういうところはラナらしい。


「ラナには申し訳ないですけれど、お断りするつもりはありません」

「…………なぜです?」


ラナは、クリスティーネをじっと見つめる。決して睨んではいない。


「情報集めです。エミリエールのことはもっと細かく知っておきたいです。正直なところ、わたくしもあまりエミリエールを好んでいるわけではありません」

「……なるほど」


ラナはゆっくり頷く。だが、ラナが「でも」と唇を動かす。


……駄目、かな?


「その時は、わたくしも絶対にお供させてくださいませ」

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