XXVI.こうして茶会の前に話せて嬉しいですね?
短めです。
キードゥル93年7月
「お、クリスティーネじゃないか」
「……ジェラルド様」
……図書館でのお茶会以来かな。
なんだか、前に会ったときより態度が軽い。別にどっちでもいいが。
側近が控えていないこともあるだろうか。
「ごきげんよう」
「……顔色が少し悪い。大丈夫か?」
そう言って、ジェラルドはクリスティーネの顔を覗き込む。
「はい、大丈夫です」
「まぁ、緊張のせいでもあるだろうな」
「……そう、ですね。最初の相手がジェラルド様で良かったです」
クリスティーネはニコリと微笑んだ。ジェラルドはその言葉に少し意外そうな顔をした。
その後、クッと笑う。
「そうか。そうだな。……一応、挨拶やっとくか?」
「そうですね」
クリスティーネは頷いた。
領主一族の集い、なんて建前はあるが、これも試験の一部だ。壁際に控えている使用人の一部は先生方である。
クリスティーネの目の前で、ジェラルドが美しく礼をした。
「出会いを喜ばしく思います。私はジェラルド・ノルシュットル。以後、よろしくお願いします」
同じ言葉。同じ抑揚。ただ、面白がるかのように見上げる漆黒の瞳だけは違う。
「出会いを喜ばしく存じます。わたくしはクリスティーネ・ヒサミトラールです。こうして出会えたことに感謝を。よろしくお願いいたします」
クリスティーネもまた全く同じ言葉で返した。
それを聞いたジェラルドは少し驚いた後、クッと笑う。
「……あぁ、もうそんなことを言うから」
ポツリとジェラルドは呟いた。だが、クリスティーネの耳には届かない。
「そういえば、お茶会の後、あの部屋には行ったか?」
「いえ、貴族学院って忙しくて……」
あの部屋――とは図書館の隠し部屋のことだろう。
行こうと思えばいけなくもないが、わざわざ足を運ぶことはない。
「そう、だよな。……いつなら空いてる?また、話したい」
「え?……来週なら空いていると思います」
クリスティーネはしばし考えてそう言った。
「そうか。なら、陰六の刻にあの部屋に」
「……そんな時間でしたら、時間は一時間くらいですけれど、よろしいですか?」
寮が閉まる時間は領地によって差があるが、陰八の刻が最終時間だ。通常は七の刻か、七の半刻くらい。ヒサミトラールの寮は七の刻だ。
「あぁ、構わない」
それから、少し経ったとき、カードが光った。それから、全てのカードがフィーネの頭上に集まっていく。
「さぁ、次に行きましょう」
フィーネの声が会場に広く響き、また違ったカードは落ちてくる。
「なんだった?」
「♤のIです」
「お、私は♤のVIだ。じゃあな」
ジェラルドに手を振り、クリスティーネはカードに魔力を込めた。
少し離れたところにいるみたいだ。クリスティーネは歩いて、相手を探す。
……わぁ、いた。
見つけたのは、長身の女性だ。紺色の髪に透き通るような翡翠の瞳。ローブの色から察するに、ウェートスの領地だ。身長はもしかしたら、180cmを超えるのではないだろうか。
彼女はこちらを見て、パッと顔を綻ばせた。
「あらあら、お可愛らしい姫君、貴女がわたくしのお相手さん?」
とても甘ったるい、ねっとりしたような声だ。
「出会いを喜ばしく存じますわ、クリスティーネ様。七年生の、ラルミア・ウェートス。ウェートスの第二領女です。どうぞよろしく」
ラルミアは恍惚とした、甘い表情をする。クリスティーネはどう対応するのかが分からなかったが、とりあえず挨拶はしておくことにした。
「お初にお目にかかります、ラルミア様。ヒサミトラールが第二領女、クリスティーネ・ヒサミトラールと申します。一年生です。以後、よろしくお願いいたします」
「まぁまぁ!お可愛らしいこと」
ラルミアはクスクスと笑う。
「……わたくし、小さいものが大好きですの」
……小さくない、なんて言い返せないのが歯痒いのですが。
睨むわけにもいかず、クリスティーネは心の中でだけ睨んでおいた。
「そういえば、レスツィメーアの研究は順調ですの?」
……あ、やっぱり。
今、特に話題となっているレスツィメーアの話はされるだろう。研究に関しては、教師らの間から生徒へ噂が流れている。その話題を振らなかったジェラルドの方が変なのだ。
「順調に、恙なく進んでいます」
「まぁ、それはそれは。わたくしの領地、ウェートスは武を尊ぶ領地ですもの。武官たちは皆、気になって仕方がないようですのよ」
「そうなのですか……機会がありましたら、是非」
「えぇ、愚妹とも仲良くしてやってくださいまし」
そうして、二度目は終了し、最後だ。
……アランとだけは当たりませんように!
そう願った。
ただ、まあ。
盛大なフラグを立てていただけみたいだが。
「こうして茶会の前に話せて嬉しいですね、クリスティーネ様?」
……あ、終わった。
クリスティーネは、絶望した。
テストがあるので、次の更新は少し遅れるかもしれないです。
〈吉報〉
総合ポイントが24ptになりました!ブックマーク、評価してくださった皆様、大変ありがとう存じます。
着々と増えていっていて、作者感激の限りです。これからも、この作者と作品たちをよろしくお願いいたします。




