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VIII.初めまして、ですよね……?

 キードゥル97年5月


「図書館、ですか?」

「申し訳ありません! 仕事があるのを忘れておりました……」


 フェアラーネは陳謝した。


 今日、図書館に行く予約をしていたらしい。図書館に行くこと自体には予約はいらないが、今回は予約していた本が返却されるということで、司書のオリエッタがわざわざ連絡してくれたらしい。


 フェアラーネは武官だ。今、貴族学院に在籍しているクリスティーネの護衛はホシュラーヌと彼女の二人だけ。コリスリウトから手解きを受けていたシリウスとマルティオがたまに請け負ってくれているくらいだ。だが、二人には二人の仕事がある。


 そのため、かなり休みが少ないのだ。だが、自室にいるとはいえ、護衛がいないのは良くない。


「わたくしも図書館に行けば解決するのでは?」

「ですが……」

「断るの申し訳ないから、フェアラーネはわたくしに相談したのでしょう? ね?」

「……」

「私もいるから、そこまで心配する必要はないよ」


 シリウスはそう言って軽く笑った。


「ありがとう、存じます、お二人共」


 フェアラーネは眉を下げて微笑んだ。



 ◇◆◇



 クリスティーネたちは図書館にやって来た。

 一度、フェアラーネとは別れて、クリスティーネたちは本を見に行く。

 講義の時間ではあるので、人は少ない。


(あ、人がいらっしゃる)


 本棚を見ていると、そこには長く伸びた金髪が見えた。

 お一人でいる中失礼します、とは思いつつもクリスティーネは立ち止まって本の表紙たちを見つめた。


 ちなみに、側近たちは各自、好きな本を探しに行かせている。狭い本棚の間にぞろぞろと人がいるのは申し訳ないのだ。


 面白そうな本の題名を見つけて、クリスティーネは手を伸ばす。


「……っ」


 クリスティーネが手を伸ばした本の隣。そこに手があった。まだ幼く、手荒れなんて一つもない手。

 手の方に振り向けば、そこにいたのは、先程と同じ金髪。


「申し訳ありません」


 男の子の幼い声が響いた。まだ、声変わり前の男の子の声。

 よく見れば、長い金髪を一纏めに結んでいる。金に縁どられた金の瞳は惚れ惚れするような美しさだった。


「……いえ、こちらこそ」


 そう返せば、驚いた――否、愕然した様子だった。


「あな、たは……」

「へ?」


 クリスティーネは首を傾げる。


「リティ……?」

「……あの、何のお話ですか?」


 そのリティ、というのは誰だろうか?


 クリスティーネは首を傾げた。


「……貴女は、リティ、では、ないのですか……?」


 泣きそうな顔で、少年は問うた。


「申し訳ありません。わたくしはクリスティーネ・ヒサミトラールと申します」

「……そんなに、似ているのに」


 少年はそう言って、唇を噛んだ。


「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「…………不敬をお許しください。ディルニフェストの第二領子、フェルミナス・ディルニフェストと申します」


 フェルミナスと名乗った少年は、綺麗に礼をした。

 頭をあげると、彼はく、と悲しそうな顔をした。


 クリスティーネは首を傾げて、フェルミナスの顔色を窺う。


「……っ、何をするのですか!」


 気が付けば、クリスティーネはフェルミナスの頭に手を伸ばしていた。

 フェルミナスの焦ったような声は、クリスティーネの耳には届かない。

 クリスティーネが頭を撫でる手は止まらなかった。

 いつの間にか、それが心地よくなってしまったフェルミナスは唇を噛みつつも、振りほどくことはしなかった。


(……弟みたいな感じだなぁ)


 なお、クリスティーネが思っていることはこんなことである。


「あの、もう……本当にっ、やめて……ください」


 流石に羞恥心が出てきたフェルミナスは恥じらいながらもそう言った。

 その声にやっとハッとしたクリスティーネは手を降ろした。


「す、すみません。弟、みたいな感じだと思ってしまって」


 クリスティーネの恥じらいに、フェルミナスの羞恥心は消え去った。

 弟、と言われたことに怒ったのだ。


「……クリスティーネ様って、四年生ですよね?」

「え? まぁ、はい」

「私は三年生なので、そこまで変わらないのですが」


 フェルミナスは怒った目をクリスティーネに向ければ、クリスティーネは焦った。


「……も、申し訳ありません」


 クリスティーネがペコペコと謝っていると、奥から人がやって来た。


「フェルミナス様。そちらは……クリスティーネ・ヒサミトラール様でしょうか?」

「あぁ。行くぞ」


 どうやら、フェルミナスの側近だったらしい。


「では、失礼いたします」


 怖い笑顔でそう言われ、クリスティーネは震えあがった。

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