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番外編V.領主が養子をとる選択 ラナ視点

 キードゥル95年3月


「文官、最優秀――ヒサミトラール、ラナ・ヴァソール」

「はい」


 クリスティーネの側近、ラナ・ヴァソールは名を呼ばれて、優雅に立ち上がった。

 今日は卒業式。本来ならば、少し前の席に座るはずだった主はいない。

 毒を摂取してしまった彼女は未だ眠り続けている。眠ってしまった日から約一年が経過した。

 今でも、あの日を思うと後悔が拭えない。


 もっと早く気付いていれば。毒をもっと警戒していたら。クリスティーネを一人にさせなければ。


 そうしていたら、どうにかなったのだろうか。


「おめでとう」


 学院長であるティルツィアはそう言って、ラナにトロフィーを渡した。掌に収まる小さなものだが。


「ありがとう存じます、学院長」


 ラナはニコリと微笑んで、壇上を降りた。


「最優秀、おめでとう存じます、ラナ」

「おめでとう存じます」


 隣に座るユティーナがそう言い、続けてシリウスもそう言った。


「ありがとう、二人共」

「……私もクリスティーネ様の側近として、優秀をとれるように頑張ります」


 シリウスは生真面目にそう言った。ラナはクスリと笑う。


「そこは、最優秀をとる、くらいの域でよいのですよ?」

「……冗談はやめてください」



 ◇◆◇



「……やはり見つかりませんか」

「えぇ……彼女は一体、何だったのでしょうね?」


 卒業式から数日後。社交期間が終了し、ラナたちは領地に戻っていた。もう貴族学院へ行くことはほぼないのか、と思うと少し寂しい気持ちになる。


 そして、ラナに報告をしてくれたのはレニローネ。探しているのは、クリスティーネの部屋へ行くよう導いてくれた者のことだ。本当に導いてくれていたのかは、定かではないが。


「認識阻害魔法がかけられていたのでしょうね。覚えていられた特徴は、長い金髪しかないですもの」

「そうですね……。どうしたものかしら。そんなにわたくしたちに存在を知られたくないのでしょうか」

「えぇ、彼女の目的が分からないもの。本当にクリスティーネ様のお部屋の異変を教えてくださっただけならば、認識阻害魔法なんてかける必要はないでしょうし……」


 クリスティーネの側近の苦労人二人は「ハァ」とため息をついた。



 ◇◆◇



 そうして、数か月後。ラナに新しい仕事が舞い込んだ。

 ちなみにクリスティーネの側近は、仕事がほぼないため、城での仕事をやっている。


 ラナに舞い込んだのは招待状。それも、第一領子のミカエルからだ。まぁ、招待状とはいっても、仕事のだが。

 そして、他にも側近の中から招待されていた人物がいた。イディエッテとリーゼロッテだ。


 招待された日時に指定された場所――ミカエルの執務室に赴いた。イディエッテとリーゼロッテも共に来ている。


 中には、イディエッテとリーゼロッテの両親であるリュネールナとオズワルトがいた。


(何故わたくしはショミトール家一族と共に呼び出されたのかしら?)


「やぁ、集まってもらってすまないね」


 ミカエルは全員が揃ったことを確認すると、ニコリと微笑んでそう言った。

 仲の良いミカエルの側近に聞いたところ、ミカエルはクリスティーネが毒に倒れた後、かなり精神的に不安になっていたそうだ。


(ミカエル様とクリスティーネ様はかなり兄妹仲が良かったものね。妹が倒れたとなると、精神も不安定になるでしょう)


 確かに、貴族学院では元気がないように見えた。去年はクリスティーネがいたので、かなり楽しそうな雰囲気だったのだが。


 流石に時がたつと安定してきたようで、今はあまり顔に出していない。


「領主様が、養子をとることになったんだ」

「……!」


 衝撃、というほどでもなかった。

 ヒサミトラール内でそのように言われていることをラナは知っているからだ。

 いくら、レトルート領主の政治が良いものだとしても、反抗しようとする者は出てくる。全員一致なんて、できるわけがないのだから。


 ただ、その選択肢をとることを選んだ領主一族に驚いたのだ。

 領主が養子をとるということは、クリスティーネが目覚めなかったときの『最低』を想定していることを意味する。流石に、想定して残酷にやっていかなければ領主として認められないのだろうが、これは少し意外だった。


「だからね、君たちには試験――という名目で、領主の養子にするに相応しい人物を選別してほしいんだ」

「選別……?」

「あぁ、勉学は勿論のこと、マナーとかね」


 ミカエルはニコリと作り笑顔を作る。そうとう、養子をとるのが嫌そうだ。まずまず、選別で全員を振り落とすこともあり得るかもしれない。


「それを、ショミトール家で行ってほしいんだ」


 手順はこんな感じね、と言ってミカエルは木札を出す。対象は四歳から八歳までの子供だそうだ。

 三段階に分かれ、試験を行うそうだ。一次試験は勉学。二次試験は入室時のマナー。三次試験はお茶会でのマナー。

 一次試験と二次試験はショミトール家の屋敷で。三次試験は城で行うらしい。そして、相手はアイリス、ミカエル、リュードゥライナだそうだ。


(そんな領主一族だらけのお茶会とか、流石にわたくしでも嫌だわ)


 その試験を行う子供たちが可哀想になってきた。まぁ、ラナは試験官なので、関係はないが。


「それから、ラナは三次試験での文官をしてほしい」

「かしこまりました」


(何だか、大変なことになったなぁ)


 ラナはぼんやりそう思った。

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