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IX.精霊との出会い

キードゥル88年4月


「領主の息子、ミカエル・ヒサミトラールと同じく領主の娘、クリスティーネ・ヒサミトラールのご入場です!」


春を祝う宴の今日。クリスティーネはミカエルにエスコートされて、舞台に上がった。後ろにはミカエルの側近としてレオンが、クリスティーネの側近候補としてフィリアーネがついている。


(……心強いわ)


リュードゥライナは自室で仮介添えのエリザベッタとお留守番だ。


扉の向こうから歓声が聞こえてくる。それがなんとも嬉しい気持ちにさせてくれて、口角が上がる。


「クリスティーネ、緊張してない?」

「……大丈夫です」



クリスティーネたちが席の付近につくと、レトルートとアイリスが杯を持って立ち上がる。

クリスティーネとミカエルも杯を持った。


「今年も春を司る〈花の女神〉フラローリンスの季節が巡ってきた。〈栄光の女神〉ウィートゥキャンデの加護がある年にしてほしい」

「学業も仕事も頑張りましょう」


レトルートとアイリスは杯を高く上げる。


『皆に全ての神の御加護があらんことを!乾杯!!』

「乾杯!!」


皆が杯を上げて、叫ぶ。


(……元気だなぁ)


「今年は我が息子、ミカエルが貴族学院に入学し、我が娘、クリスティーネが社交デビューをした。子らの成長には皆の支えが必要だ。よろしく頼む」



ローブの授与やら、祝いの挨拶やらがひと段落して、社交が始まった。貴族たちは挨拶に群がる。基本は学生が多い。貴族学院で側近にしてもらうためだ。

最初に並んだのは姉妹だ。ミカエルと同い年くらいだろうか。


「ごきげんよう、クリスティーネ様。お久しぶりですわね」

「クリスティーネ様、イディエッテ様とリーゼロッテ様です。母方の従姉だそうです」


フィリアーネに耳打ちしてもらう。記憶喪失という設定は家族と現場にいたフィルオーナたち、シェジョルナ家のみが知っている。公的には知らせないことになった。

フィリアーネはこのために挨拶に来そうなクリスティーネの親族の名前を覚えてくれたらしい。


(……いい子!!)


フィリアーネは「どうせ、覚えなければならないので」と言って、笑顔だった。優しすぎる。クリスティーネの側近にしておくには勿体ない。

クリスティーネは名前と顔が一致していないので、名前と年だけは覚えている。


「覚えていらっしゃるかしら?クリスティーネ様が三歳の頃ですからね。わたくしはリーゼロッテ・ショミトールです。こちらは姉のイディエッテですわ」


(……あ、親戚でも会ったのが幼い頃だから、自己紹介してくださるんだ)


「えっと、お久しぶりです、リーゼロッテ、イディエッテ。コースはどれにするか、決めました……か?」

「わたくしは武官を選びました。騎士科です」

「わたくしは介添えです。普通科にしました。来年なので、気が早いんですけれどね」


皇族と領主一族以外の貴族は三つのコースから選ぶ必要がある。介添え、武官、文官だ。その中でも、介添えは普通科、音楽科、料理科、裁縫科、美術科がある。武官は騎士科、魔術科、医術科。文官は普通科と特別科だ。


「後ろも並んでいますし、わたくしたちは失礼いたしますね」

「えぇ、また、会いましょう。お兄様を、よろしくお願いします」

「……はい」


イディエッテがコクリと頷く。少し驚きつつも目が合うと、クリスティーネはニコリと微笑んだ。前のクリスティーネとの差に驚いたのかもしれない。


(……そういえば、基本的にリーゼロッテがお話をしていて、イディエッテはあまりお話していなかったなぁ)


イディエッテは無口な子なのだろうか?


そんなことを考えつつ、次の番がやってくる。男の子二人。


「アレクサンド家のレンリトル様とコリスリウト様です。こちらは父方の従兄ですよ」


レンリトルは穏やかで優しそうな感じだが、コリスリウトは敵意が剥き出しで分かりやすい。


(……前のクリスティーネに何かされたんだろうな)


心の中で謝る。フィルオーナの話でも、日常の一部だ。もっと他にもあったんだろう。


「お久しぶりです、クリスティーネ様。私はレンリトルです。こちらは弟のコリスリウト」

「……」

「コリスリウト、挨拶」

「……お久しぶりです、クリスティーネ様」


コリスリウトが不機嫌そうな声を上げつつ、こちらを見上げる。コリスリウトに向けて笑顔で微笑み、答える。


「こちらこそ。お久しぶりですね、レンリトル、コリスリウト」


二人揃って素っ頓狂な顔をした。あまり色彩は似ていないが、顔立ちは似ている。


(そういえば、この二人はマイナの息子で、エットルトの弟たちなんだよね)


「えっと、マイナとエットルトにはお世話に、なっております」

「貴方は何者ですか」


コリスリウトは不可解な顔でこちらに橙色の瞳を向ける。


「……ご存知の通り、クリスティーネ・ヒサミトラールです」

「兄上がおっしゃっていたのはこういうことだったのか」

「え!?エットルト兄上が何か言っていたのですか?」


レンリトルが立ち上がって、「この話は後でな」と言い、コリスリウトを引っ張って行ってしまった。


(……コリスリウトは大丈夫かしら?)


その後も挨拶に来るので、ニコリと微笑んで対応をした。


「クリスティーネ様、お母様を迎えに行ってきます」

「えぇ、お願いします。お庭で待っていてもいいかしら?」

「分かりました」


それなりに終わって、疲れたのでお庭に出た。フィリアーネはフィルオーナと交代なので、フィルオーナを呼びに行っていて、今は一人。


『こっち』

『こっちだよ、おいで』


金の光がふわふわ浮いている。声が聞こえる。

その光についていく。


(……何だろう?)


「ねぇ、どこに――」

「ここ」


後ろから声が聞こえ、振り返ると、綺麗な妖精がいた。金髪に金の瞳。小さくて手のひらになるような体からは蝶のような羽が生えている。

パタパタと羽を動かし、顔の目の前で止まる。金の瞳がよく見えた。


「やっぱり、あの方や()()()()から聞いていた通り。綺麗な顔」

「へ?」

「申し遅れました。わたくし、光を司る精霊、ミアと申します」


(あの方って、誰?フェルリも、知らない)


「元々、エミリエールの第三領女、アイシェ・エミリエール様……だった方ですよね」

「え!?なんで、それを?」

「企業秘密です」


ミアが人差し指を手に当てて、悪戯っ子のように笑う。


「クリスティーネ様~?」


フィルオーナだ。遅いと怒られてしまう。


「……わたくしはこれで。また明日の夜にでもお伺いいたします。そのときはじっくり、お話しましょうね」


気がつくと、ミアが転移魔法を使ったかのように消える。いや、もっと高度な技術だろう。


フィルオーナが「戻りましょう」と言ったので、戻ることにした。


(ミア様は……一体何だったんだろう?)


もうじき、〈闇の神〉の時間だ。日が暮れ始めている。


「フィリアーネは?」

「先にお部屋を整えています。本日は城に泊まらせますから」

「分かりました」


広場に戻る。そろそろ、子供が減って、大人ばかりになってくる。夜は大人の時間だ。お酒が入るから。


「挨拶周りの列、大変だったようですね」

「えぇ、たくさん並んでいましたよ」

「だからですか。フィリアーネは忙しくて呼びに行く時間がなかったと申しておりました」

「間違っていませんから、叱らないであげてくださいませ。フィリアーネは頑張っていましたよ」


扉の前まで歩く。歩くたびに、「可愛らしい」「アイリス様にとてもよく似たのね」「ミカエル様とも仲がいいとか」などと聞こえてくる。嫌味には慣れたけれど、こちらにはまだ慣れなさそうだ。


「では、フィルオーナ。また明日」

「はい、フィリアーネをよろしくお願いいたします」


自室に戻ると、フィリアーネがいた。自室を整えている。

最近、階段を一階移動するくらいなら、息切れしないようになった。


(凄い進歩!!)


「あ、おかえりなさいませ、クリスティーネ様」

「只今戻りました」

「湯浴みの準備は整っております」

「そう、ありがとう存じます、フィリアーネ」


そう言うと、フィリアーネは少し照れくさそうに笑った。


湯浴みも済ませ、ベッドに入る。


「おやすみなさいませ、クリスティーネ様。〈夢の女神〉シュラーレゼヌの良き眠りと夢があらんことを」

「フィリアーネ」


手招きをすると、寝間着姿のフィリアーネは首を傾げる。


「おいで」

「え?」

「一人では寂しいので、一緒に寝ませんか?」

「……はい、是非」


フィリアーネをベッドに入れ、その日は仲良く一緒に眠った。



次の日、フィルオーナに怒られたのは、また別の話。

さて、ミアの正体とは一体――?目的は何なのか――?

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