第七話 マリアス様の約束
完結するまで毎日投稿す予定ですけど、疲れてきているので短くなっていくかもしれないです。
R15のつもりで書き始めましたけど、R18に移動するかもしれないです。
今は様子見です。
吟遊詩人のマリアス様が女神の薔薇園に通って来るようになってから一ヶ月が過ぎていた。
いつもプレイ時間を延長して私と長く居ようとするのでお金は大丈夫なのか心配になるけど、マリアス様は意外に潤沢な資金を持っていらっしゃるようでした。
「お金のことなら何も心配いらないからね。本当はすぐにでもオクティを身請けしたいんだけど、君は普通の娼婦と違って色々複雑な事情があるだろう?」
「……はい」
私はマリアス様に抱かれながら小さく震えました。
普通の娼婦ではなくイブリース王妃に所有されている性奴隷なのだと打ち明けたくなりました。
マリアス様は恋人に接するように私に優しくしてくださるので、隠し事をしていることに気がとがめるのです。
「マリアス様……私、イブリース王妃に所有されている性奴隷なんです。国家反逆の大罪を犯して処刑されるところを王妃様のお情けで減刑されて性奴隷として奉仕することになったんです」
私はマリアス様の顔を見れませんでした。
自分が極悪人として処断された人間で、普通の恋愛など許されない身分だと改めて思い知ったのです。
「巷で極悪非道と噂されている悪女のオクタヴィア、元公爵令嬢で今は下賤な身分の性奴隷が私ですわ……」
打ち明けてから涙がポロポロとこぼれてきました。
私はいつも優しくしてくれるマリアス様を本気で愛していることを自覚していました。
そしてどんなに恋い焦がれても、娼婦として身体を繋げる事ができたとしても普通の男女として愛し合うことは出来ない関係なのだと認めないわけにはいかなかったのです。
マリアス様は腕の中で泣きじゃくる私の目元にキスをして涙を拭ってくれました。
「オクティが悪女と噂されている元公爵令嬢のオクタヴィアだということは気がついていたよ」
私はびっくりして瞠目して彼の顔を見ました。
「だけど秘密があるのはオクティだけじゃないんだよ。僕にも君に秘密にしていることはあるんだ」
マリアス様は今までになく真剣な顔で私と目を合わせています。
「まさか、既婚者なのですか? マリアス様は素敵な男性ですからすでに奥様や子供がいらしても不思議ではありませんわ……」
「ち、違うよ! 僕は独身だし、オクティ以外に恋人もいない!」
私は彼の慌てる様子を見てクスッと笑いました。
「泣かないでくれよ、オクティ。僕は君がずっと傍にいて笑っていてくれるだけで幸せなんだ」
「私もマリアス様に幸せになってもらいたいので笑顔でいられるように努力しますわ」
私は指で涙を拭って微笑みました。
マリアス様は両手で私の頬を挟んでフレンチ・キスをしました。
舌と舌を絡めて唾液が糸を引くような濃厚なキスでした。
長い口吻の後に、二人から甘い吐息が漏れて唇が離れるとマリアス様が語り始めました。
「僕は吟遊詩人のマリアスを名乗っているけど、本当の身分は隣国のファルス王国の第三王子なんだ」
私は目を見開きました。
「王族の義務を果たすのが嫌で出奔したんだけど、完全に王家とは無関係になれなくて吟遊詩人として諸国を巡りながら情報を集めて祖国の諜報機関に報告していたんだ」
マリアス様は愛おしそうに私の白銀の髪を掬い撫でています。
「公爵令嬢のオクタヴィアが国家反逆罪で断罪されて性奴隷に貶されたという情報も事前に掴んでいたよ。その事も含めてランバート王国を調査するためにこの国に入国して吟遊詩人として活動していたんだ」
彼は驚いて固まっている私に甘いキスの雨を降らせます。
「僕はあちこちの国で強引なことをやってトラブルを起こしているから命を狙われることも多くてね。この国で刺客に襲われたらオクティが現れて助けてくれたんだよ」
「私のことも調査するために近づいてきたの?」
ようやくそれだけ尋ねました。
「それだけだったら本当の身分を明かしたりしないよ。君が国家反逆罪の悪女というのは冤罪だろう? そばにいて付き合ってみればすぐに分かる。君はとても純真で悪いことなんか出来ない善良な人間だ。だから一人の女性として好きになって助け出してあげたくなったんだよ。」
私は急に顔が赤くなりました。
マリアス様が私のことを好きだと言ってくれて助け出したいというのです。
その気持を信じられるならどんなに幸せでしょう。
「善良な貴族女性が冤罪で高貴な身分から最底辺の性奴隷に貶されたんだ。それが僕好みの美女で性格も好みだった。だから僕も覚悟を決めたんだ」
マリアス様は目に強い光をたたえました。
「ファルス王国に帰国して今まで逃げていた王族の義務を果たす。そして力をつけてランバート王国と交渉してオクティを身請けして性奴隷から開放する」
マリアス様が力強い声で宣言すると、私は眼の前に希望の光が灯った気がしました。
「私を性奴隷から開放して平民にして下さるんですね?」
「何を言っているんだい。君は元公爵令嬢だろう。冤罪を晴らしたら貴族の身分に戻れるじゃないか」
私は悲しそうな顔をしました。
「そういう訳にはいきませんわ。私は性奴隷として二年近くも無数の男性に性奉仕する生活をしていたのです。もう貴族令嬢には戻れませんわ」
「そうか、僕が相当無理をすればオクティに別の名前と爵位を与えて、悪女のオクタヴィアとは別人として貴族の身分に戻すこともできるんだけど。君が望んでいないのなら、それはやめておこう」
「はい。別人として貴族社会に戻っても性奴隷として働いた記憶は消えませんから、何もなかったかのように貴族の社交など出来ませんわ。それに顔を変えることは出来ないのですから、性奴隷の私を知っている人が現れたらすべて露見してしまいますわ。そんなことに怯えながら暮らしていきたくないです」
「そういうことなら僕が平民になって君と添い遂げよう」
マリアス様は私を抱きしめながら事もなげに言いました。
「吟遊詩人をしていてもファルス王国に戻れば王族の身分があったんだけど、オクティと結婚するならそれはもういらないから放棄しよう。その代わりお金をたくさんもらって人目に触れないように田舎の農村で平民の夫婦として一緒に暮らそう」
「そ、そんなこと……。私のために王族の身分を捨てるなんて……」
『いけませんわ』と言いかけたけど言葉が出ませんでした。
私も心の底ではそうしてほしい、マリアス様と結婚して静かな農村で人目を避けて暮らしたいという願望が目覚めていたのです。
「何も心配しなくて良い。僕が全てうまくいくように何とかする」
マリアス様は私を強く抱きしめて、熱烈に求めてきました。
その日は女神の薔薇園が閉店するまで交わっていたのです。
午後四時過ぎに迎えに来たアブノー子爵は私を王宮に連れ帰るのを諦めて引き返したそうです。
アブノー子爵も私に惚れ込んでいてそれなりに優しくしてくれるのですが、やっぱり私はマリアス様と一緒にいられることが何よりも嬉しいのです。
「オクティ、一年間会いにこれないけど待っていてくれるね? 三年かかることを一年でやり遂げて君を迎えに来るから。それまで何があっても挫けないで頑張るんだよ」
最後の別れでマリアス様がギュッと抱きしめてくださいました。
私も彼の背中に手を回して抱きしめ返したのです。
熱烈な抱擁を交わしてからキスをして別れました。
一年後に再会するときは私を性奴隷から開放して妻にしてくれると約束してくれたのです。
胸が一杯になって、早く一年後になればいいと神に祈りました。
このときの私は無邪気にも、一年後にはマリアス様が迎えに来てくれて幸せになれると信じて疑わなかったのです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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