第二十話 帝国の皇太子に惚れられる
もう少しで完結が見えてくるんですけど、執筆で疲れているのでちょっと間が開くかもしれないです。
大聖女生誕祭の開かれた日に、噴水前広場でマリアス様と私は二人で佇んでいました。
多くの聴衆に囲まれて、吟遊詩人の歌声が甘く軽やかに響きます。
「 いたずら者の~ 妖精が~ 恋する乙女に乗り移り~♪
恋の気分を~ 味わって~ 戯れる~♪
恋の始まりは~ 妖精の悪戯~ 戯れに恋に落ちる~♪ 」
私は吟遊詩人の唄に聞き惚れていました。
油断していたんだと思います。
この後、神の愛子の私が悪戯妖精に取り憑かれたんですから。
「くすくすっ……美少女み~つけた! 恋を楽しもうね~!」
妖精の声が耳元で聞こえて何かが私の心の中にスルリと入り込んできたのです。
それから私は頭の中がボーッとして夢の中にいるようでした。
周りの人たちの存在が空気のように軽くなって、誘い出されるように歩きだしていたのです。
マリアス様の存在も見えなくなっていました。
まるで自分だけが別次元に迷い込んだようです。
夢心地で歩き続けていると人混みを抜けて閑静な裏通りに出ました。
表通りとは違って薄暗くて怪しい魔道具や薬などを売っているお店があるところです。
裏通りを彷徨うように歩いていると、身なりの良い貴族風の男にぶつかってしまいました。
「おっと、失礼、お嬢さん……んっ!?」
貴族風の男は隣国のガルド帝国風の服を着ています。
紫の髪色で薄い青色の瞳をしています。
スラリとした体格の美丈夫でした。
「……」
私が無言でボーっとしていると肩に手を回して馬車の方へ連れて行かれました。
「信じられないほど美しいお嬢さんだねぇ。だけど、薬でも飲まされたのか意識が朦朧としているようだ。保護しなければならないね」
貴族風の男は傍に寄ってきた側近らしき人に命じて、私を馬車に乗せてどこかに連れて行くのでした。
馬車に揺られて十五分ほどすると大きなガルド帝国風の館に到着しました。
「……ここは?」
私はやっと意識が戻ってきて尋ねました。
「ガルド帝国の総領事館だよ。俺はガルド帝国の皇太子でルードルフ。君を保護するからね。名前を教えてくれるかい?」
「オクティです」
私は意識が朦朧として彷徨っているうちに隣国の皇太子のルードルフ様に保護されたようなのです。
ルードルフ様は私を総領事館の中の一番上等な客間に案内しました。
「オクティさんのように美しい女性には会ったことがない。俺と一緒にガルド帝国に来てずっと一緒にいてほしい」
ルードルフ様はキラキラ輝く瞳で私のことを見つめてきます。
私はなにか大事なことを忘れている気がするのですが、悪戯な妖精はまだ私の頭の中にいるみたいで肝心なことが靄がかかって思い出せないでいたのです。
「でも、私は名前以外はまだ思い出せないのです……」
私は俯いて手をぎゅっと握りしめました。
「時間をかけて思い出せば良い。俺も協力する」
ルードルフ様は私の手を握ってくれました。
その日のうちに仕立て屋が呼ばれて私のドレスや普段着を作ることになりました。
宝飾品屋も呼ばれて高価な宝石のついたアクセサリーも買ってもらえました。
「こんなに高価なものを買ってもらうわけにはいきませんわ」
「オクティさんみたいに美しい人を傍に置いたら、男はドレスや宝石で飾り立てたくなるんだ。この程度の出費は俺の小遣いの一部でどうにでもなる。俺に恥をかかせないでくれよ」
ルードルフ様は自信満々に私に高価な贈り物をして飾り立てようとします。
私も神の愛子として人外の美しさを持っているので、高価なドレスや宝飾品が似合ってしまうのです。
私の中の悪戯な妖精は大喜びして、美しいドレスや宝飾品で身を飾り鏡に映して楽しんでいます。
毎日、美味しい料理を出されて舌鼓を打ちました。
ルードルフ様に勧められるままにワインを飲んで酔っ払ってしまいます。
酔いを覚ますためにバルコニーに出て風に当たります。
ルードルフ様が私に寄り添って愛を囁いてきます。
「オクティさん、あなたのことを愛している。一緒にガルド帝国に来てほしい」
ルードルフ様は私の白銀の髪に口吻ます。
「ふふふっ……。お戯れになっては困りますわ。軍事大国のガルド帝国の皇太子殿下のあなたとでは身分が釣り合いませんわ」
私は困った顔をしてはぐらかしました。
「身分などどうとでもなる。オクティさんは今でも高位貴族の令嬢のような所作を身に付けているのだから」
ルードルフ様は諦めずに私の左手に軽く触れるようなキスをしました。
私の中に居座っている悪戯妖精が大喜びで興奮しているのがわかります。
◇◇◇◇
それから一週間、ガルド帝国の総領事館の客室に宿泊して、おもてなしを受けました。
私の世話をする専属のメイドが三名付けられました。
綺麗なドレスを着て美味しい料理を食べてお風呂に入れてもらってマッサージもしてもらいます。
夕食後にお酒を飲んでルードルフ様が寄り添う様に抱きしめてきて、愛を囁いてきます。
普通の女性なら絆されてトロトロに溶かされてしまいそうなのですが、私は大事なことを忘れている気がしてルードルフ様の愛の告白を受け流していました。
そんなある日、庭園のガゼボでルードルフ様に誘われてお茶を飲んでいると、総領事館の門の方から騒ぎが起きました。
護衛の騎士たちが門の方に向かっていきます。
「オクティーーー!!!」
それがマリアス様の声だということを、その時、急に思い出しました。
「マリアス様!!」
私が立ち上がって門の方へ向かうと、ルードルフ様もついてきました。
護衛の騎士たちを振り切ってマリアス様が駆けてきます。
私は急に頭の中の靄が晴れて鮮明になってきました。
「オクティ、ここにいたのか。さぁ、勇者の館に帰ろう」
マリアス様が私を抱きしめます。
「待て! ノルテア王国の勇者マリアスだな。総領事館は治外法権なんだぞ。不法侵入だ!」
ルードルフ様が私とマリアス様を引き離します。
「神の愛子であるオクティさんを誘拐しておいて何を言っているんだ!」
マリアス様はキッとルードルフ様を睨みつけました。
「誘拐などしていない。オクティさんが大聖女生誕祭の日に彷徨っていたところを保護したんだ」
私はルードルフ様に抱き寄せられました。
「オクティさんはガルド帝国の皇太子の俺と結婚するんだ。邪魔はしないでもらおう!」
「何を言ってる! オクティさんは勇者パーティーが保護して一緒に暮らしていたんだ! ガルド帝国になんかやらん!」
マリアス様が怒っています。
「勇者マリアス、君はオクティさんと結婚しているわけでもないし、婚約者でもないだろう。何の権利もないんだから引っ込んでいてもらおう!」
ルードルフ様も引き下がりませんでした。
『 あぁ~、もうこれくらいでいいかぁ~。開放してあげるね~。楽しかったよ~ 』
私の頭の中で可愛らしい声が響いて何かが抜け出していきました。
眼の前に半透明の妖精が漂っています。
どうやら私に取り憑いていた悪戯妖精が離れていったようです。
半透明の妖精はクスクス笑いながら空中に溶けるように消えました。
おそらく、妖精界に帰ったのでしょう。
私は頭の中がはっきりしたので意思表示しました。
「ごめんなさい、ルードルフ様。私、前世からマリアス様が好きなんです」
「な、何だって!?」
ルードルフ様がうろたえています。
「俺もオクティさんが好きだ! ここで結婚を申し込む! オクティさん、俺と結婚してください!!」
マリアス様が膝をついて私に求愛しました。
「はい、喜んで。マリアス様を愛しています」
私はマリアス様の手を取りました。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! オクティさんは俺に惚れていたんじゃないのか?」
ルードルフ様は慌てています。
「今まで悪戯な妖精に乗り移られて自分を見失っていたんです。ごめんなさい……」
私は眉をハの字にして困った顔をしました。
ルードルフ様は天を仰いで大きなため息をつきました。
「オクティさんが俺に惚れているように見えたのは妖精の悪戯だったというのか……」
「ごめんなさい。色々良くしてもらえたのに……」
「いや、俺は諦めないぞ! まだ婚約してないんだからオクティさんはフリーだ!」
「いい加減にしろよ! オクティさんが困っているだろう!」
マリアス様が私を抱きしめます。
その後も、色々と揉めたのですが、最終的にはルードルフ様はガルド帝国に帰っていきました。
ルードルフ様には迷惑をかけてしまったのですが、私とマリアス様が相思相愛であることが分かったのでした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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