第十五話 神の愛子は奇跡を顕す
主人公のオクティが神に祈りを捧げただけで大変な騒ぎになるエピソードです。
翌日になるとブレイバー騎士団長がやってきて、王都に転移の魔法陣で移動することになりました。
転移の魔法陣は領主の館にあるそうです。
「魔道士が念話でオクティ嬢のことを報告したら、国王陛下がすぐに会いたいそうだ」
ブレイバー様が私に笑いかけました。
「ノルテア王国が神の御子を保護したら他国に対してかなり有利になるからな」
マリアス様が出発のために荷物をまとめています。
「そうよねぇ。世界で唯一の創造神ブリミアル様に愛された神の愛子なんですもの」
マリアンヌ様は朝食を食べ終わってアベル様を起こしにいきました。
アベル様はアルザースの町に来てから夜遅くまでお酒を飲んでいることが多いのです。
「もう出発か……。頭いてぇ……」
アベル様がしかめっ面で部屋から出てきました。
「お前は、飲み過ぎなんだよ」
マリアス様が窘めました。
「いいだろう? 魔王を倒す任務は終わったんだから」
「あなたの健康を考えて言ってるのよ」
マリアンヌ様も呆れている様子でした。
◇◇◇◇
その後は領主様に挨拶してから転移の魔法陣を使って皆んなで王都に転移しました。
王都内の転移の魔法陣は大教会の中にあるのでした。
「これはこれは勇者様方、魔王の討伐成功おめでとうございます。これで、ノルテア王国のみならずモーリタニア全体が平和になるでしょう」
大司教様が出迎えてくださいました。
「ありがとうございます。カインス大司教様。でも、まだ魔王軍の四天王と魔王の娘ヴィシュヌは逃げているのです。奴らを討伐しないと安心できません」
マリアス様は胸の前で腕を横にして礼を取りました。
「ですが、神の愛子様をノルテア王国で保護することができたのですから、必要以上に恐れることはないでしょう」
カインス大司教様は温和な笑顔を浮かべました。
「神の愛子であらせられるオクティ様が祈りの間で、創造神ブリミアル様に祈りを捧げていただければ神もお喜びになるでしょう」
「どうする? オクティ嬢の気持ち次第だよ」
マリアス様が私の方を気遣わしそうに見ました。
「はい。祈らせていただきます」
私はすぐに頷きました。
創造神ブリミアル様にはこのモーリタニアに転生させてもらって新しい命を与えてもらった御恩があるのです。
是非、祈りを捧げたいと思いました。
大教会の中心部にある祈りの間に案内されました。
部屋の奥に大きな創造神ブリミアル像が安置してあり、そこまで赤色の絨毯が敷き詰められています。
私は毛足の長い高級な絨毯の上を静々と歩いてブリミアル像の前まで進み出ました。
跪いて両手を胸の前で組んで祈り始めます。
「創造神ブリミアル様、このモーリタニアに転生させて頂きありがとうございます……」
自然と感謝の言葉が漏れていました。
私が祈りを始めてすぐに天上から柔らかな金色の光が柱のように降り注いできました。
私の身体とブリミアル像を金色の光の粒子が包みます。
祈りの間全体に静謐な清涼な空気が広がりました。
すべての穢が払われて浄化されていくようです。
カインス大司教や見物に来ていた神官たちやマリアス様たちも驚きで目を見張っていました。
神がこのような形で目に見えて奇跡を顕すことなど滅多にないのだそうです。
『 私の愛子、オクティよ……。よく祈りを捧げました。嬉しく思いますよ…… 』
「ブリミアル様、私はこのモーリタニアで唯一の神の愛子ということで、とても大事にされるみたいです。ブリミアル様は私に果たしてほしい使命があるのですか?」
『 私は愛子であるオクティに幸せな人生を送ってほしいだけです。でも、障害がないわけではありません。邪神イブリースはあなたが元いた世界を食い尽くして滅ぼしてしまいました。今はまた別の世界を生贄にするために転生する準備をしているようです 』
「私はまた邪神イブリースの生贄にされてしまうのでしょうか?」
『 そうならないようにオクティに創造神の加護と祝福を最大限に授けたのです。邪神イブリースが転生するまでにはまだ時間の猶予があります。そのモーリタニアで邪神に打ち勝てるだけの力を身につけるのです 』
「邪神イブリースはこのモーリタニアに転生してくるのですか?」
『 それはまだわかりません。ですが、戦って打ち勝つ力があればオクティの方から異世界転移して戦いを挑むこともできます。邪神イブリースに復讐したいと思いますか?』
「はい。私の魂は浄化されましたけど、戦神のように邪悪なものを打ち倒したいという強い願望が生まれました」
『 一度、邪神イブリースの生贄にされたことで、元々強い魂を持っていたあなたは免疫ができて邪神と戦う心構えを手に入れたのですね。それは良いことです 』
「ですが、神の愛子の私が邪神イブリースに勝てるのでしょうか?」
『 そのモーリタニアは神の愛子であるあなたから発せられる神気で満たされていきます。いずれは聖なる武器が邪神にダメージを与えられるほどに強化されるでしょう 』
「わかりました。神気で聖なる武器を強化するのが当面の目標なのですね」
『 私は愛子であるオクティに幸せに生きてほしいだけなのですが、邪視イブリ-スとあなたは深い縁で繋がってしまいましたから、いずれ邂逅して戦うことは避けられない運命でしょう。そのときに備えて力を蓄えておきなさい。今は私から伝えたいことはそれだけです 』
「ありがとうございます。ブリミアル様……」
金色の光が薄れて、辺りが普段の様子に戻りました。
私が立ち上がって後ろを振り返るとカインス大司教たちがひれ伏して涙をこぼしていました。
「なんという奇跡! おぉ、創造神ブリミアル様よ! 救い主である神の愛子オクティ様を遣わしていただいて感謝に耐えませぬ!」
「神の愛子オクティ様は邪神からこのモーリタニアを守るために遣わされた救い主だったのか!」
「オクティさん、いえ、オクティ様……今までのご無礼をお許し下さい」
マリアンヌ様も目に涙をためて私のことを崇めてきます。
「気軽にオクティ嬢なんて呼んで申し訳ありませんでした。あなたは我らにとって神に等しい存在です」
マリアス様とアベル様も感涙にむせびながら跪いています。
「皆さん、跪かないで今まで通りに普通に接してください!」
私は困惑して大きな声で言いました。
「しかし、神の愛子であるオクティ様が邪神と戦う救世主であることが、創造神ブリミアル様の神言で明らかになった以上は、あなた様は王族よりも上位にある存在です」
カインス大司教様が跪いたまま言いました。
「神にも等しい救世主を普通の令嬢の様に扱っていたなんて畏れ多い……」
「ノルテア王国はオクティ様を神に等しい存在として敬わなければなりません」
「私は普通の女の子の様に扱ってほしいんです!」
私は特別扱いされて人間扱いされなくなるのではないかと不安になって大声で言いました。
「しかし、それでは……神の怒りをかってしまうかもしれないのです……」
「創造神ブリミアル様はそんなことではお怒りになりません。神の愛子である私に幸せに生きてほしいと神言で仰っていたでしょう?」
私は必死に言い募りました。
「た、確かに……。普通の女の子として扱ってもらえないとオクティ様が幸せになれないというのなら国王陛下にそのことを進言しておきます」
カインス大司教様がようやく立ち上がりました。
神の奇跡を目の当たりにしてその圧倒的な神気に押しつぶされていたマリアス様たちも立ち上がりました。
ようやく精神状態が普通に戻ってきたようです。
「マリアス様たちも今まで通り、普通の女の子として気軽に接して下さい!」
「あ、あぁ、あなたがそう望むのなら……」
「オクティさん、このモーリタニアで最も尊い神聖な存在であるのに奥ゆかしいのね……」
マリアンヌ様はまだ目を潤ませています。
「とにかく王城へ行って国王陛下に報告しよう。オクティ嬢が創造神ブリミアル様と対話できる神に近い存在であることも」
アベル様が崇拝するような目で私を見てきます。
「皆さん! 本当に普通でいいですからね。そうでないと私が落ち着きません!」
私は王城に行く前に念を押しておきました。
私はこのモーリタニアでは堅苦しい貴族令嬢ではなくて、普通の市井の女の子として生きていきたかったのです。
神に近い存在として神殿や王城の奥に閉じ込められたくはありません。
(国王陛下に謁見したらそのことは念を押して言っておかないといけないわ)
創造神の加護と祝福を最大限に受けた私が、普通に生きるのは難しいことかもしれないと少し心配になりましたけど神のように祭り上げられるのは嫌だったのです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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