第十一話 聖女イブリースの正体
今回のエピソードは特に「残酷」なものなので苦手な方はご注意ください。
次のエピソードからは主人公のオクタヴィアが幸せになって逆襲していくお話になる予定です。
聖女の巡幸が大成功で終わったので私はまた恩赦されました。
貴人牢から出されてイブリース王妃付きの侍女見習いとして働くことになったのです。
とは言っても性奴隷から開放されたわけではなくて、住んでいる部屋が貴人牢から侍女の部屋に移動になり侍女見習いとして働く仕事を与えられたということです。
与えられた侍女の部屋は二人部屋でマリアンヌ様と同室でした。
マリアンヌ様も私と同じくイブリース王妃付きの侍女に格上げされていたのです。
元公爵令嬢の私は侍女の仕事には不慣れなので、マリアンヌ様から色々と教わっているところです。
侍女の仕事を始めて一週間ほどするとお茶を淹れるのにも少し慣れてきました。
「オクタヴィア、お茶の淹れ方は覚えたのね。明日、カイン様とお茶会をするからあなたがお茶を淹れなさい」
イブリース王妃に命令されました。
「オクタヴィア様、私も一緒にいますから侍女の仕事を頑張りましょう。そうすればもうすぐ性奴隷の身分から開放されるかもしれませんわ」
マリアンヌ様が私を勇気づけるように手を握ってくださいました。
そうなのです、マリアス様がファルス王国に帰ってから一年以上が過ぎているのです。
私を身請けして性奴隷から開放すると約束してくださっているのです。
私はマリアス様に再び会える日を心待ちにしていました。
マリアス様はファルス王国の第三王子ですから、性奴隷に貶された私が結婚してほしいとまでは言えません。
でも、彼の侍女として雇ってもらえたらいいと考えていました。
そうすれば、ファルス王国に連れ帰ってもらえて傍にいることを許してもらえるはずです。
私は恋する乙女の心境で胸の前でぎゅっと手を組みました。
◇◇◇◇
カイン国王とイブリース王妃のお茶会が庭園の東屋で始まりました。
以前、何度かここに呼ばれたことがあります。
その時は性奴隷としての身分を思い知らされる拘束具を着けさせられていました。
大事なところがすべて曝け出されている屈辱的な姿でお茶会に参加させられていたのですが、今日はちゃんと侍女の制服を着用しています。
下着も他の侍女と同じものが支給されていました。
聖女の巡幸が成功したことで恩赦されて、普通の侍女のような服で生活することが許されるようになっていたのです。
最も侍女の仕事が休みの日は性奴隷として今まで通り男たちに性奉仕する義務を課せられていました。
女神の薔薇園の娼婦の仕事から開放されてイブリース様付きの侍女の仕事に転職したようなものです。
王妃様付きの侍女は誰でもなれるものではなく、身分の高い貴族女性が就く仕事です。
多くの貴族女性が憧れる仕事に就かせてもらったのですから感謝しなければならないのです。
「オクタヴィア、あなたが喜ぶお話がありますわ。ファルス王国の第三王子があなたを身請けしたいそうよ。吟遊詩人のマリアスって隣国の王子だったのね。どこでそんな大物を釣り上げたのかしら」
イブリース様はクスクスと愉快そうに笑いました。
「マリアス王子は三億ゴールドで身請けしたいと言ってきたんだが、オクタヴィアは完璧令嬢の純白の薔薇と謳われた公爵令嬢が性奴隷に貶された特別な女だろう。三十億ゴールドなら良いと答えてやったんだ」
カイン国王はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべています。
「そうしたら、マリアス王子は三十億ゴールドを支払うと即答したのよ。第三王子でも簡単に用意できる金額ではないはずだけど、国王や兄の王太子殿下に相当頼み込んで借金もしたみたいね」
「それだけオクタヴィアが愛されているということかな。マリアス王子はお前と結婚するつもりでいるらしいぞ。どんなに汚れて貶められていてもファルス王国に迎え入れて自分の隣で笑っていてくれれば良いそうだ」
「オクタヴィアは七千人以上の男や女に性奉仕して、貴族令嬢に戻れないくらい汚れきっているのにねぇ。マリアス王子は王族の身分を捨てて平民になってでもオクタヴィアと結婚したいそうよ」
イブリース様はうっとりとした表情で口元を扇で隠しました。
「愛されているんだな。三十億ゴールドもファルス王国からもらえるのなら良いだろうと思って、オクタヴィアをマリアス王子に売ることに決めたよ」
「良かったわねオクタヴィア。愛するマリアス王子と結婚できるのよ。最も、彼は王族を辞めるから平民の夫婦としてファルス王国で暮らしていくことになるわね。」
私は涙が溢れてきました。
マリアス様は約束を守ってくれて私を身請けしてくれたのです。
それに、性奴隷にまで堕ちた私が王子のマリアス様と結婚できるなんて夢の様です。
「はははっ、それじゃぁ、オクタヴィアに紅茶を淹れてもらおうかな。お前の淹れた紅茶が飲めるのも今のうちだけだからな」
カイン国王に笑いながら促されて、茶器で作法通りに紅茶を淹れました。
「いただくわね、オクタヴィア……」
「いい香りだな……」
カイン国王が紅茶に口をつけて一口飲むと顔色が変わります。
「ぐがはぁ!!」
血を吐いて倒れて麻痺し始めました。
護衛の近衛騎士や侍女たちが大騒ぎになります。
「カイン様を医務室へ!! 医官に解毒剤を用意させなさい! 近衛騎士、オクタヴィアとマリアンヌを国王暗殺容疑で拘束して地下牢へ連行しなさい!!」
イブリース王妃がテキパキと指示を出します。
「わ、私は毒など入れていません!!」
「お、オクタヴィア様!!」
私とマリアンヌ様は近衛騎士たちに腕を掴まれて連行されていきます。
地下牢に連れて行かれると、私とマリアンヌ様は乱暴に侍女服と下着を剥ぎ取られて貫頭衣を着せられます。
そして、マリアンヌ様とは離されて別々の独房に入れられました。
それから間もなくして教会から異端審問官が十人派遣されてきました。
異端審問官というのは創造神の教えに逆らう邪教徒を拷問にかけて炙り出す仕事をしている人たちです。
邪教徒の疑いをかけられて異端審問官の拷問に耐えて生き延びた人はいないと言うほど恐れられています。
「元公爵令嬢オクタヴィア、馬鹿な女だ! お前には暗黒邪神教と繋がっている疑いがかかっているので拷問にかける! お前を拷問にかけることに反対していたカイン国王を暗殺しようとするとはな! 恩を仇で返すとはこういうことだな! 覚悟しろよ、容赦はせぬぞ!」
異端審問官のリーダーが憎しみの籠もった目で私を睨んで来ました。
「私はカイン国王の暗殺などしていません! 暗黒邪神教とも関係ありません!」
私は必死に叫びました。
本当に覚えがないことばかりなのです。
「お前のような邪教徒は我ら異端審問官に捕まると必ずそう言うのだ! 命乞いなど通用せぬぞ!」
私は地下牢に隣接している拷問部屋に泣き叫びながら連行されていきました。
腰まであった白銀の髪を根本から切り取られ、貫頭衣を脱がされると壁に鎖で手足を繋がれました。
鞭の先の鉄球にトゲが付いたもので何度も打ち据えられました。
白い皮膚が裂けて血が飛び散ります。
激痛で気を失うと上級回復ポーションを振りかけられるのです。
上級回復ポーションは大変貴重な薬で身体の欠損まで治すことができます。
死んでさえいなければどんな怪我からでも回復させることができる薬です。
教会はそういう貴重な薬を生産できる技術を独占しているのです。
鉄釘付きの鞭で打たれた後は指の爪を一枚づつ剥がされていきました。
私は泣き叫びましたが、異端審問官は一片の容赦もなく私の体を壊していきます。
爪をはがされた後は指の骨を折られたうえで、錆びたナイフで時間をかけて指を切り取られました。
私が激痛と精神的ショックで死にそうになると上級回復ポーションをふりかけて蘇生させるのです。
それから何時間経ったのかわかりません。
何度も意識を失いその度に上級回復ポーションで蘇生させられ、今は真っ赤に焼けた鉄の焼きごてを首から下に無数に押し当てられているところです。
私が絶叫を上げていると異端審問官の一人が耳元で言いました。
「お前の仲間のマリアンヌとアベルも拷問を受けているぞ! お前がすべてを白状して暗黒邪神教との関係がすべて明らかになれば仲間の罪を軽くしてやる! 仲間を救いたくないのか!」
「私は暗黒邪神教のことなど何も知りません……本当に何も知らないのです……もう許してください……」
私は死にそうなほど息も絶え絶えでそう言うしかありませんでした。
本当に暗黒邪神教とは関係がないのですから。
「ここまで責めても白状しないとは、強情な女だ!」
「体の傷は上級回復ポーションで癒せるが、精神はあまり責め抜くと発狂してしまうからな。今日の拷問はこれくらいにしておくか」
「白状するまで何日でも殺さないように拷問してやるからな! 覚悟しておけよ!」
最後に上級回復ポーションを振りかけられて火傷の跡が消えると、横になって寝ることも許されずに裸で壁に鎖で繋がれて、腐った血の匂いのする拷問部屋に放置されたのでした。
◇◇◇◇
鎖で繋がれて立ったままでは寝ることも出来ずに、意識を時々飛ばしながら真っ暗な拷問部屋の中で鎖に体重を預けて項垂れていました。
コツンコツンと真夜中の拷問部屋に足音が近づいてきます。
燭台を持った女性が拷問部屋の鍵を開けて入ってきました。
私はビクンッと身体を震わせました。
異端審問官が戻ってきたのかと思ったのです。
「オクタヴィア……辛そうね……」
優しい声音で話しかけてきたのはイブリース様でした。
「……イブリース様、私は本当にカイン国王に毒を盛ったりなどしておりません……。暗黒邪神教のことも何も知りません……どうか信じてください……」
私が弱々しい声でいうとイブリース様は頷きました。
「ええ、わかっているわ。オクタヴィアはとても善良な淑女ですもの。何も悪いことはしていないわ」
「それでは……許してくださるのですか……」
イブリース様はフフッと嗤いました。
「私は聖女ではないのよ。教会は聖女を呼び出すつもりで愚かにも邪神の生まれ変わりを呼び出してしまったのよ」
私はイブリース様が何を言っているのかわかりませんでした。
「邪神イブリースというのが私の本当の姿なの。暗黒邪神教は邪神である私を神として崇める教団なのよ」
イブリース様は今まで見たこともない邪悪な笑みを浮かべました。
私は背筋がゾゾッと寒くなりました。
眼の前のイブリース様が本当に私の知っている聖女様ではなくて、邪悪なものであるかのように感じられたからです。
「邪神の私には人間の心を読んだり操ったりする力があるのよ。私が現れる前はカイン様はあなたにぞっこんに惚れ込んでいたでしょう? 私が魅了の魔法でカイン様の心を操って聖女を名乗っていた私を愛するように仕向けたのよ」
イブリース様は私に近づいてきて囁くように真実を明かし始めました。
「カイン様だけじゃないわ。彼の側近や貴族たち市井の民衆も私の魅了の魔法の影響下にあるの。おかしいと思わなかった? 皆んなが手のひらを返して完璧令嬢の純白の薔薇と言われたあなたを国家反逆の悪女だと非難し始めたのよ」
私は足元から崩れそうになりました。
「そ、そんな……そんな……」
「オクタヴィア、あなたも私の魅了の魔法にかかっているのよ。公爵令嬢で高貴な淑女だったあなたが性奴隷に貶されて屈辱的な辱めを数年間も受けたのよ、自害してもおかしくないでしょう? でも、あなたに死なれると私が美味しい食事が出来ないから、魅了の魔法で羞恥心や屈辱感や絶望感を感じないようにしてあげていたの」
「あ……あぁ……」
私が性奴隷にされて唯々諾々と従っていたのは魅了の魔法で操られていたから……。
「邪神である私は人間の絶望や屈辱や恨みといった黒い負の感情が食事なの。それもオクタヴィアみたいに高貴に輝く強い魂を持った人間が貶められて汚されて屈辱を味わった末に抱く怨嗟の感情が最大の栄養なのよ。だから何年もかけてオクタヴィアを性奴隷として貶めて最後には心を食べてしまうつもりで飼育していたの」
「……っ」
私は明かされた真実にもう何も言えませんでした。
「私がここに来た理由がわかったでしょう? オクタヴィアの黒い感情が食べごろに熟してきたから心を食べに来たのよ。だからあなたに掛かっている魅了の魔法を解いてあげるわ。そうすると、今まで魔法で抑えられていた羞恥心や屈辱感や絶望感がいっぺんに襲ってくるの。そのときに発する黒い感情が最高に美味なのよ。何年も待っていた甲斐があったわ」
イブリース様が私の頭に手を置くと紫の邪悪そうな光が流れ込んできて、魅了の魔法で操られていた心が開放されたのです。
「あああぁぁぁうわああぁぁぁああぁぁぁ~~~~~~~~!!!」
私は今まで封じ込まれていた性奴隷としての数年分の羞恥心や屈辱感や絶望感を一度に味わっていました。
涙と涎をこぼしながら狂ったように泣きわめきます。
それほど耐えられないような負の感情だったのです。
私は身体を震わせながら呟きました。
「……憎い……良くも私をこんな目に……呪ってやる……」
イブリース様は満面の笑みを浮かべて私の様子を見ていました。
「そうよね。完璧令嬢の純白の薔薇と謳われたオクタヴィアが無実の罪で性奴隷にされて言葉に出来ないような恥辱を数年間も味わったのだもの。自分を陥れた者たちが憎いわよねぇ」
イブリース様は私の頭に手を置いて言いました。
「その黒い感情、美味しそうだから全部食べてあげるわ」
私の中から溢れかえっていた激情がどんどん吸い出されていきます。
心からも身体からも力が抜けていきました。
自分が自分ではなくなるような凄まじい喪失感を伴った感覚です。
どれほど時間が経ったのかわからないまま、イブリース様が私の頭から手を離しました。
私は心が空洞になって何も考えられなくなっていました。
心というものが消えてしまったかのようです。
「……マリアス様……愛しています……マリアス様……」
ただうわ言のようにマリアス様のことを呟いていました。
「あらまぁ、奇跡ね。心を全部食べてあげたのにマリアス王子への愛は残っていたのね」
イブリース様は拷問部屋から出ていきながら最後に告げました。
「オクタヴィア、抜け殻のあなたはもう用済みだから三日後に処刑して楽にしてあげるわ。運が良ければマリアス王子にも最期には会えるかもしれないわね」
◇◇◇◇
そうして私が処刑される日がやってきました。
王都の中心部にある円形闘技場で観客を集めて見世物にされて殺されるのです。
虚ろになった私の心は回復することなく自分の処刑を粛々と受け入れていました。
「オクタヴィア、あなたの処刑法は性奴隷にふさわしいものに決まったわ。百匹の餓えたゴブリンの檻の中に突き落として処刑するというものよ。ゴブリンは食欲よりも性欲を優先させる魔物だからすぐには死ねないかもしれないわね」
イブリース王妃が最後に私に会いに来ました。
私は処刑執行人の男に腕を引っ張られて、ゴブリンの檻の上にある台に上がらさせられます。
ここから突き落とされると餓えた百匹のゴブリンの中に放り出されるのです。
「……マリアス様……愛しています……」
心が虚ろになった私はそれだけを呟いていました。
円形闘技場は残酷な処刑を見に来た民衆で溢れていました。
暗黒邪神教と繋がっていた元公爵令嬢の性奴隷など憎悪の対象でしか無いのです。
円形闘技場の入口のあたりが騒がしくなりました。
警備の衛兵と誰かが争っているのです。
「オクティー!!! 助けに来たぞ!!! 邪魔をするな!!!」
なんと、マリアス様が私を助けに現れたのです。
「……あぁ、マリアス様……」
私の顔に喜色が灯りました。
しかし、無常にも処刑執行人は私をゴブリンの檻の中に突き落としたのです。
マリアス様は暴れまわっていましたが、多勢に無勢で地面に抑え込まれていました。
その眼の前で私は百匹のゴブリンたちに凌辱されました。
ゴブリンの精力はすごいもので入れ代わり立ち代わり私を犯しました。
マリアス様が何かを叫んでいますが、私には聞き取れません。
無限とも思える長い凌辱の後にゴブリンは次の欲望を満たすことにしたようでした。
私の乳房が食いちぎられました。
餓えたゴブリンたちは私の身体の柔らかな部分を食いちぎって食べ始めたのです。
身体を食いちぎられる激痛の中で、私はマリアス様の方へ手を伸ばしました。
マリアス様も衛兵に抑え込まれながら私の方へ手を伸ばしているようでした。
「マリアス様、愛しています……」
それが私の最期の言葉でした。
私はゴブリンに喉を頸動脈ごと食いちぎられて血を吹き出して絶命したのです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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