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ローズの選択5

 

「ならば、どうしたい?」

「おひとりずつお喋りさせていただきたいですわ」

「お喋りと言っても、それはアイレンしか無理だろう」

「いえ。心配無用です。わたくし、優秀な通訳に心当たりがございましてよ」


「通訳って、それは俺のことか?」と口を挟んできたフェリックスへ、ローズは目を輝かせて見つめ返すことで肯定する。


「ええとそれから、ジェイク様にも相談させてもらい、決定したく思います。国を支えていく次期国王の意見は外せませんもの」


 続けて、ローズはジェイクへにっこり笑いかける。ジェイクもつられて微笑み返すと、精霊たちの目にはふたりが信頼と愛情で強く繋がっているようにしか見えなく、うっとりと頬を染めながらその光景を見つめる。

 バレンティナは少しの間を置いてから、再び凛とした声音を響かせる。


「ならばこちらも、期限を設けることを条件とさせてもらう……一週間ではどうだ?」

「十分ですわ」

「よろしい。許可する」

「ありがとうございます」


 ローズがバレンティナへと膝を折って丁寧にお辞儀をすると、ようやく場の緊張感も緩和され、精霊たちが珍しげにローズの周りに集まってくる。

 その中に、アイレンとサーリアとナディアの姿もあり、ローズは笑顔で彼女たちに話しかける。


「アイレンさんは明日、サーリアさんは明後日、ナディアさんは明明後日。それぞれご予定は空いていまして? わたくしがお借りしているお屋敷にお越しくださると助かりますわ」


 途端に、三体から嫌そうな顔をされてしまい、「お、お嫌ですか?」とローズは慌てふためきだす。


「ローズさんがいらっしゃるのは穢れの森のそばにあるジェイク様のお屋敷だと聞いております……できれば、他の場所を指定していただけませんか? そうしたら、私ども、喜んで伺いますので」

「そういうことなら大丈夫だ。ローズが結界を張ったことで穢れが近寄れなくなってるから。騙されたと思って来てみろよ」


 フェリックスが話に加わって説明したが、彼女たちは信じられない様子のため、少し離れたところにいるミアを「おーい、ミア!」と呼びかけた。

 状況を知っているミアに口添えを頼もうという考えだったらしいが、当のミアはこちらへ顔を向けているのにも関わらず、フェリックスが手招きしても、踏ん切りがつかない様子で動こうとしない。


「来づらそうだな」


 そんなミアの姿を見てジェイクがぽつりと呟き、ローズがハッとした様子で口に手を当てる。


「わたくしの余計なひと言が尾を引いていますのでしょうか」

「それは気にしなくていい。ミアが気にしているのは別のものだろう」


 ジェイクは同じく選ばれた三体の精霊たちへと視線を戻す。彼女たちは、ローズがミアを気にしているのが気に入らないようで、不満そうにしている。

 フェリックスの三回目の呼びかけで、ミアは踵を返し、ローズたちに背を向けて立ち去ろうとしたため、すぐさまローズは大きな声で話しかけた。


「ミアも屋敷にいらっしゃって! 必ずよ! いつでも構いません! 待っていますから!」


 その場に響き渡ったローズの声に反応し、ミアは足を止めた。そのまま振り返ってこちらに来てくれるだろうかとローズが期待したのも束の間、ミアは横から精霊たちに何か声をかけられ、そちらへと言い返すような仕草をする。

 言い返された相手は怯んだが、今度は他方向から精霊たちに何か言われ、ミアが怯む番となる。

 そのままミアは、逃げ出すように姿を消してしまった。


「大した能力もないくせに、バレンティナ様から気にかけてもらっているからって、いい気になって」


 アイレンのぼやきを耳にし、ローズは表情を曇らせる。逃げ出したミアの後ろ姿が、セレイムル家にいた頃の自分に重なって見えたからだ。


「ローズ。一週間後に、再びここに来なさい」

「分かりましたわ」

「話はこれで終わりです。みんなも、帰ってよろしい。解散」


 自分の求めにローズが答えて膝を折ったのを見届けてから、バレンティナは両手を広げて、この場にいる全ての者に語りかける。そして、ひと仕事終わったとばかりに、深く息をつき、森の奥へと向かって羽をはばたかせた。

 バレンティナを見ていたフェリックスは、迷うような仕草を見せてから、ローズとジェイクと向き合った。


「俺、バレンティナ様に話しておきたいことがあるんだ。できれば帰らず、ここで待っていてくれ」


 ジェイクはローズと顔を見合わせてから、「わかった」と頷いた。「それでしたら、聖樹を間近で見てもよろしくて?」といったローズのはしゃいだ声を聞きながら、フェリックスはバレンティナを追いかけていった。

 聖樹を見上げて圧倒されるローズの元に、帰る様子のない精霊たちが集まってくる。目を輝かせ、頭を下げられながら、何か話しかけてくる精霊たちに困っていると、アイレンがやって来る。

 アイレンが言うには、先ほど魔法石から流れ出た光の粒子を体に纏ったことで、怪我が治ったり、腰痛などの症状が軽減したりと、精霊たちにさまざまな効果をもたらしたようなのだ。


「みなさんが元気になってくださったのなら、わたくしも嬉しいですわ。……そうですわ! 何かありましたら、ジェイク様の屋敷にいらしてください。わたくし、できる範囲で回復のお手伝いをさせていただきますわ」


 ローズのにこやかな提案に精霊たちは表情を強張らせ、頭をさげつつも、ゆっくりとローズから離れていった。

「穢れの森は避けたい場所ですから」とアイレンは苦笑いし、「それでは明日」とお辞儀をしてから、彼女も姿を消した。


「みなさん、いなくなってしまわれましたわ。やはり穢れの森が怖いんですわね……あの森自体、なんとかできるならしてしまいたいですわ」


 先ほどまでたくさんの精霊たちがいたのに、今はふたりっきりとなってしまっている空間を見回しながら、ローズは真剣に悩み始める。

 眉間に皺を寄せていたが、自分を見つめるジェイクがふっと柔らかい笑みを浮かべたことに気づいて、ローズはわずかに顔を赤らめた。


「わたくし変な顔になっていましたか?」

「いや、そういうことじゃなくて……あなたのように他の者を思いやれる方が、次の国守りの精霊のパートナーとなってくれたら、シェリンガムもより良くなるだろうにと思っていた」

「それでしたら、ジェイク様はわたくしを娶らねばなりませんわね」


 ローズのにこやかな返答にジェイクは咳き込み、「……い、いや、俺のことは置いといてだな」とほんの少し気恥ずかしそうに続けた時、一陣の風と共にローズの元へバレンティナが慌てた様子で戻ってきた。


「バレンティナ様、どうかされまして?」


 先ほど見た凛とした様子とは違って、心なしか顔色も変わっているように思え、ローズまで表情を強張らせた。

 一拍遅れて帰ってきたフェリックスへと、ジェイクも緊張感と共に「どうしたんだ?」と問いかけるも、フェリックスは必死に追いかけてきたらしく、呼吸が整わない。


「……ああ、ローズ。どうしてもっとはやく教えてくれなかった」


 バレンティナは震える両手でローズの手を掴み、祈りを捧げるように高く掲げた。


「ありがとう。心からの感謝を」

「バレンティナ様、わたくし、感謝されるようなことなどなにもしておりませんわ」


 突然の行動に混乱するローズの手を、バレンティナはすがるように掴み直し、目に涙を浮かべた。



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