ひまわりの恋
「おはよう、お嬢さん」
彼の言葉で目を覚ますと、朝の空には白い雲がちらほら流れていた。
「おはようございます、先生」
「先生はよしてよ。僕はただの気分屋だ」
彼は微笑みを浮かべた。先生と呼ぶと照れたように笑うのは、昔から変わっていない。
「今日もたくさん栄養を摂るんだよ。随分と暑くなったからね、水分も摂るように。それと……」
彼の話を聞きながら食事を食べ進めていく。今日は私好みの味付けだ。献立は毎日変わりないが、味付けは基本的に日々気まぐれなのだ。
暫く話をしていた彼だったが、やがて時間が迫っていると名残惜しそうに立ち上がった。寂しいが、規則であるから仕方がない。
「また明日も、待ってますね」
手を振って、彼は行ってしまった。
空はすっかり暗くなり、夜の訪れを告げていた。
私は彼に恋をしている。
初めて彼が現れたとき、その美しさに目を奪われた。思わず飛び起きた私を見て、彼は笑ったのだ。
『出会えて光栄だよ、お嬢さん』
彼の金色の瞳が私を見つめる度に胸が高鳴り、ずっと彼の姿を目で追った。これを人は何と呼ぶのかと必死に考え、ああ恋なのだと気がついた。
彼は毎日私のところへやってくる。私は自分で動くことのできない体だから、彼が会いに来てくれるのだ。
いつしか私は彼を先生と呼ぶようになっていた。
「おはよう、お嬢さん」
炎天も陰りを見せ始めた頃だった。
「おはようございます、先生」
「……」
「どうかしましたか?」
彼が、ふと表情を曇らせた。
「先生?」
「……いや、何でもない」
何事もなかったかのように一日が過ぎていく。しかし私は彼の笑顔が終始引きつっていたことに気がついていた。
それでも私は気がつかないフリをした。
たとえ私の命が期限付きでも、最期まで彼の笑顔を見ていたかったのだ。
「おはよう、お嬢さん。……お嬢さん?」
彼の声に応えるものはなかった。朝の風が冷たくなり、彼の作る食事が薄味になった頃のことだった。
彼は彼女の命が長くはないことを知っていた。
だからせめて毎日会いに行き、期限付きの彼女の命が少しでも長らえますようにと祈りながら過ごしていたのだ。
土の上には彼女の遺したものがあった。彼はそれをそっと土に隠して、もう会うことの叶わない彼女を思った。
期限付きの命を精一杯に生きた彼女を浮かべ、一筋の涙を大地に落とす。
太陽は、向日葵に恋をしていた。