第 話 夢
耳障りな声が鼓膜を不快に振動させるのを感じ、少年は腫れた目を開き、寝ていた床から痛む体を起こす。
同時に、気絶する前に殴られた頭が痛んだ。
――どれだけ、寝ていたんだろうか。
体を起こすと同時、耳から伝わる不快な声を起床した脳が理解し始める。
男女が言い争っているようだ。
「ああもう!だから!あんたの言ってることがわかんないんだって!もっと分かりやすくしゃべってよ!」
「何度も言っているだろう。お前のミスでこんな状況になってるんだ。俺の言うことを聞け。これだけの話なんだ。お前は自分が失敗をしたと思っていないのか?」
「なんでよ!あんたが最初から協力していれば!なんであんたなんかと!」
「人の話を聞け。自分の言いたいことだけ言うな。"会話"をしてくれ」
周りの迷惑も考えず騒ぎまくる二人に心底嫌気が差す。
あれと今まで付き合ってきた自分を誉めてもいいと本気で思う。
――今日も、騒がしいな。
耳を刺すような金切り声が頭痛を誘発し、痛む体と相まって神経も磨り減る音が聞こえてきそうだ。
一刻も早くここから離れたい。
そういう思いでその場から静かに離れる。
こういう時は決まって行く場所がある。
人が一番落ち着く場所だ。
自分の家、と言ってもいいだろう。
誰しも家でゆっくりしたいはずだ。
それ以外に人が自宅に帰ることに理由があろうか。
――早く帰ろう。
自分の居場所はここではない。
急にいなくなって奴らは驚くかもしれないが、後のことは後で考えよう。
「ようやく、見れた」
――何をだ……?
頭を殴られて、おかしくなったのだろうか。
自分でも意味がわからない呟きが口からこぼれ、困惑する。
ただ、自分は今はそういう年頃だ。
何か急に言いたくなっただけだろう。
そう結論付けて、おかしくなった頭を戻そうと思い切り頭を回す。
あの時見えた"それ"を追い求め、少年は、扉を開く。