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仮面と歌姫

 いつもの離れにわたしとタニアは向き合っている。

 気持ちのつかえがとれたわたしは清々しい気持ちでタニアを見る。タニアはそんなわたしをアホの子を見る目で見る。タニアすきー。

 だがこれからまだわたしもタニアもやるべきことがのこっているのだ!


「さあ! タニア!」

「お嬢様、大声ははしたないですよ」


 眉をしかめてわたしをにらむ。しかしそんな事でわたしはとまらない。


「サーシャの支度は全部終わったわ!」

「ええ、全てつつがなく」

「でもね!」


 サーシャは終わった! だがまだあるのだ!


「何か残作業がございましたか?」


 慌ててリストをめくるタニアを手で制した。

 怪訝な顔のタニアに私はポーズをキメる。


「仮面歌姫サエトリアンの準備は終わってないわ」


 盛大なため息が聴こえるわ。


「その仮面はどこからだしたのです? サーシャ様」


 無粋な問いね。タニア。

 そんな子猫ちゃんにはこう答えるのよ。


「サージェン家の忌み子、サーシャ・サーエとは仮の姿! しかしてその正体は!」


 くるりと。

 マントを翻す。


「仮面歌姫サエトリアーン! 参上ッ! 喜べ領民ども!」


 ドゴーン。

 後ろで火柱があがる。


「キマった」

「で?」

「で? とは?」

「その仮面はどうしたんです?」

「は!? 今のを見てどうしてそのリアクションなの?」

「どうしてと言われましてもね」

「領民全員爆アゲのとこよ!」

「私はスタッフですのでそんな事で動じませんよ。確かにこの領内でのみ歌手活動をする事を認めましたし、実際それは大成功したと言っても過言ではないでしょう。しかし、ギネス辺境伯領ではそんな余裕はありません。だからこそ、その仮面とマントは不用品として処理したのです。なぜそれをお嬢様が持っておられるのです?」

「これを捨てるなんてトンデモナイ」

「ギネス辺境伯領では不要です」

「せやかてタニア」

「せやかてじゃありません!」

「これミスリル製やで」

「は?」


 瞬動かと思うくらいの速さで寄るタニア。

 ぐばりと仮面を剥ぎ取り、念入りに細部を確認していく。


 結論。


「本物、ですね」

「ふふふ、ミスリルを捨てるなんてトンデモナイ」

「でも、これ私が作成した時には木製で……」

「ライブの売上、物販の売上、諸々全部ぶっこみました」


 キラッ!


「お嬢様?」

「はい?」

「覚悟はよろしい?」


 あ、頭痛い。トラウマや。


「ちょちょちょい! 待って待って!」

「遺言はそれでよろしいでしょうか?」

「ちゃんと理由あるから! あるからきいて!」

「ふー。仕方ない聞きましょう。ロクでもなかった時はご覚悟を」


 今回に限っていえばホントに理由があるのよ。


 実はわたしことサーシャ・サーエ・サージェンは歌魔法のザイを有効活用して歌手活動を行っていたのだ。はじめは細々と領都の広場でストリートミュージシャンみたいな事をやっていたが、これがなんだかあれよあれよという間に人気が出てしまって、辺境伯領の各地をライブ活動してめぐる規模にまでなっていたのだった。前世では全く売れなかったのになー。


「そんなこんなで、わりとサエトリアンって大金稼いだじゃない?」

「そうですね。他領からもお客様に来ていただけるくらいには」


 他領から客が来た時には手ごたえ感じたわねー。基本この世界だと歌なんて流しの吟遊詩人の歌を酒の肴に聞き流すくらいの文化しかなかったからさー。お金もがっぽりだったわー。よだれたれる。


「でもさ、私って忌み子じゃない?」

「……」


 沈黙は肯定なのよ。


「貨幣、紙幣は没収されるのよ」

「──事実ですね」


 そんなに奥歯ギリギリしながら肯定しても事実は事実。わたし本人よりタニアの方が悔しそうじゃない。タニアもスタッフとして労働しているんだから当たり前か。


「だからこそのコレです」


 テレレッテッテレー。ミスリルのかめーんー。


「現物資産、という事ですか」

「そうそう、これならさ、いまや領内のどこでも売ってるわけでしょ? そんなモノまで見咎められる事はないはずよ」


 流通しているのはもちろん木製だが。


「グッズの儲けがグッズに変わるとは……しかしお嬢様素晴らしいご判断でした。趣味でやった事ではないかと、疑ってしまい面目次第もございません」

「ふふーもっと褒めて良いわよー」


 サエトリアンポーズをキメるわたし。

 ちなみに美しくはためくこのマントもマンティコア・ロードの革で出来てるんだけど、タニアには言わんとこ。


「行動は正解でしたが、現金がないとなると、辺境伯領までの路銀にすこし不安が出てきますね。うーん」

「そこも解決済みよ、タニア。サエトリアンにぬかりはないわ」

「さすがお嬢様。天才ですか」

「ふふふ、もっとほめてもっとほめて」

「して、その方法とは?」

「説明しよう!」


 そう言って話をはじめた私の顔はとびっきり悪い顔してるだろう。


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