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領主の信頼度と賢者の信頼度

本日二度目の投稿です。

「サーシャは魔王国にいる!」


 いきなり自分をぶん殴って壁にぶち当たって動かなくなった僕。

 起き上がったかと思えば、意味のわからない事を言い出した僕。

 そんな僕をみんなが見ている。いや、見ているだけじゃない。


 トシゾウは医者を呼んでいる。

 タニアは鞭を持ち出している。

 ケダマは巨大化している。

 賢者は無視している。


 僕、混乱魔法の使い手だったかな?


「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて!」


 一斉におまえが落ち着けよ。みたいな視線が飛んでくる。


「わかる! その気持ちはわかるけど! 僕は正気だから!」


 僕がいくら否定しても、みんなの否定的な目線が緩むことはない。

 それどころか悪化している気がする。


「ご主人、正気じゃない人間はみんなそう言うっすよ」

「疲れてるんですよ。辺境伯様」

「キュウ」

「辺境伯殿、寝た方が良いぞ」


 ああ! もう! こんな問答をしてる暇はないってのに!

 僕は必死で否定する。そうだ。アルムおじいの名前を出せば、タニアくらいは信じてくれるかもしれない。


「違う! ほんと違う! 今アルムおじいが頭に直接メッセージを送ってきたんだよ!」


「それ誰っすか?」

「あーその方、奥様のぉ。その、脳内のおじいさま、です」

「キュゥ」

「……」


 悪化したあ! タニア! サーシャの言ってる事をそういう風にとらえてたんだな。サーシャを取り戻したら告げ口してやる。きっとサーシャは悲しむぞ!


「ちょ、待って! いるから! アルムおじいはほんとにいるから! サーシャ曰く聖霊らしいんだよ」


 両手を思い切り振っては皆に信じてもらおうと必死になる。

 しかし必死になればなるほど。


「サーシャ様、つらかったんすね」

「ええ、ほんとに」

「キュ」


 みんなの言葉はキツくなる。

 だけど聖霊の名を出した途端。賢者殿だけ態度が変わった。


「聖霊はおるぞ」


 その言葉に。

 その場にいる全員の空気が変わった。

 ちょっと待て、ここの領主は僕なんだけど?


「へえいるんっすねえ。聖霊って」

「え!? 本当ですか賢者様!」

「ギュウ」


 三者はあっという間に肯定的な態度に変わっている。

 どういう事だよ! というかケダマさっきより大きくない?


「ほら! 言ったじゃないか! みんなで僕の正気を疑って! というかなんで賢者殿の言う事は信じて僕の言う事を信じないんだ!」


 とりあえず、トシゾウ? おまえだけは信じるべきだと思うぞ。という感情をこめてトシゾウを見つめてみる。

 それに対してトシゾウは呆れたような顔で言う。


「いやだって急に自分をぶん殴って椅子から発射されて壁にぶち当たった人間が、急に聖霊とか言い出したらそりゃやばいっすよ」

「私はまだ半信半疑ですよ」

「ギュー!」


 おまえらあ。

 そうだけどさ。そうなんだけどさ。

 皆から否定されて心が折れかけてうつむいてしまう。


「……それはそうだが。せめてトシゾウくらいは信じてくれてもいいじゃないか」

「そっすね。で、賢者様。聖霊がいるってのは?」


 適当に流したあ。トシゾウって最近態度ひどくない?

 しかしそんな抗議の言葉はもう口から出てこない。


「賢者様、その聖霊っていうのが、奥様が言っていたアルムおじいなのですか?」

「おう、そうじゃな。聖霊の代表にあった事があるが、馬鹿弟子の言うアルムっていうのがきっとそやつじゃな。結構な大物なはずじゃが、大方あやつの歌に釣られて出てきたんじゃろ?」


 もう完全に無視です。

 これ絶対からかってるでしょ。そりゃあ会議の場でいきなり自分をぶん殴ったらみんなびっくりするだろうけどここまですることないじゃないか!


「待って! 僕の話を聞いてくれ! 事態は急を要するんだ、僕をからかって遊んでる場合じゃないんだ」

「からかわれてるってのは気づいてたんっすね」

「さすが辺境伯様、お鋭い」

「ギュー」

「しかたないのう。からかうのはやめて真面目に話を聞くかの。ほれ辺境伯殿、聖霊からのメッセージを伝えい」


 やっとの事で皆の許しを得た僕は、一旦全員を椅子に座らせ、落ち着いた状態になってから、頭の中に響いたアルムおじいの声をみんなに説明した。


「うーん。微妙にぼやけた情報ですけど、全く手がかりがない状態よりは一歩前進ですね」

「奥様が魔族に……」

「キュ」


 思ったよりも深刻なメッセージに戸惑いを隠せない三人。

 その中、一人冷静な賢者殿は言う。


「さてどうしたもんかのう。魔族の中でもどの一派の手の内にあるかによって危険度が変わるからのう」

「賢者殿! 魔族にも派閥があるのですか?」

「そりゃああるじゃろう。おまえらは魔族を知性のない蛮族とでも思ってたのか?」

「いえそこまでは。でも魔王の元での一枚岩体制かと」

「昔はそういう時代もあったがの。今の魔王は人間との宥和政策をとっておるからのう。武闘派の魔族からは距離を置かれとるのが現状じゃ。あとはもうこないだのヨーギイのような完全なならず者もおるしのう。ああいった奴らは魔王でも御しきれていないのう。ま、そんな感じで人間と一緒でそりゃあさまざまじゃ。中には魔族と人間とのハーフなんて変わり種も王族におるしな」

「あーそれは聞いた事あります。それにしても僕らは魔族を知らないのですね」


 知らなかった。

 彼らは倒すべき魔族で、僕らは守るべき人間だと単純な二極だけで考えていた。

 僕らに色々あるように、彼らにも色々あるのだと。

 父も誰も教えてくれなかった。


「さらったのが魔王一派であれば身の危険はそこまでないが、あの魔王は魔王で変わり者じゃからなあ。正直わしはいい思い出がない。関わり合いになりたくないのじゃ。それ以外の奴らにさらわれたなら結構危ない状況じゃのう」

「そんなに猶予はないっすね。んで、ご主人。どうするつもりっすか?」

「僕がサーシャを助ける!」


 拳を振るって立ち上がる。

 それだけは決まっている。僕はサーシャを助けたい。僕を助けてくれたサーシャを助けたいんだ。


「いやそれはわかってるっすけど? 方法は?」


 冷ややかなトシゾウの視線。

 その目は僕が何も決めていないと思っているなトシゾウ。

 残念、決まっているぞトシゾウ。


「単身乗り込んで隠密行動からの救出だ!」

「んー? 最近サーシャ様の脳筋が感染ってませんかね?」

「サーシャの脳筋はいい脳筋だ」

「もう手遅れっすね」


 肩をすくめてトシゾウは諦めた。

 いいだろう? 大好きなサーシャに影響されたって。好きなんだよ。


「でしたら辺境伯様!」

「どうしたタニア?」

「このケダマーノに乗ってお行きください」


 タニアの身長よりも大きくなっているケダマの脇腹をポンっと叩く。

 とてもいい音が響く。

 その音だけで会議室の三分の一くらいを占有してる事実を許せ……。

 はしない。

 でかい。毛が舞ってる。


「う、うん。非常時だから放っておいたけど、ケダマなんでこんなに大きいの? 体高で僕の身長より大きくなってるけど?」

「ギュウ」


 自慢げに鳴くケダマ。いや可愛いけどさ。


「実は賢者様から聞いて知ったのですが、実はケダマーノは九尾のダンジョンの元ダンジョンボスだったらしくて、九尾がいなくなった今、ダンジョンからエネルギーがケダマーノに流れ込んでくるせいでこうなっております。大きくなる分にはもっと大きくなれます」

「うん。そういう事は領主の僕に真っ先に報告しようね」


 全く知らなかったよ。僕。

 ダンジョンボスって事は魔物でしょう? 普通なら駆除対象なの。

 わかる?


「賢者様がサプライズしようっておっしゃるので」

「賢者殿?」

「サプラーイズ」

「賢者殿!」


 やりたい放題か。つい声が荒くなる。


「ていうのは冗談じゃ。九尾のダンジョンに通ってケダマがこの力を完全に使いこなせるようになってから辺境伯領の戦力として報告するつもりだったんじゃよ。実際ここで役に立っとるじゃろ? こやつに乗っていけば魔王城まで一日くらいで着くぞ」

「にしても……」


 報告は欲しいのですが。

 と言いかけた所で賢者殿がパンパンと手をはたきそれを遮る。


「ほれほれ! そんな事をグダグダと言っておる時間がお主にあるのか? 既に馬鹿弟子が泣いておるかもしれんのだぞ? おん? わしの馬鹿弟子を泣かすんか?」


 ごまかされた気がするが。

 実際、移動手段はこれで整った。

 あとは僕がやるべき事をやるだけだ!


 決意を新たに固く結ぶ。


 待ってて。


「僕のサーシャ! 君は僕が絶対に助けるから!」

お読みいただきありがとうございます。

書き終えたので夕方も投稿します。

残り数日お付き合いいただければ幸いです。

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