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呪いと一つ目の穴

「これを見て、聞いた後でも同じ事が言えているといいな」


 そう言ってから、王は師匠に小さく首肯する。

 その表情は苦々しさと悔しさが同居しているように見えた。


 師匠は王の顔を見て、諦めたように掌中の玉に魔力をこめる。

 あれは九尾のダンジョンで入手してきた秘宝だ。名前は化け玉とかなんとか師匠が言ってたな。

 なんでここに?


 疑問は見覚えのある強い光に阻まれる。

 相変わらず最初は目が痛い。

 しばらくすれば落ち着くのも知っているけれど。


 実際強い発光はしばらくして落ち着き、玉からでる光は一定方向に集中し、その先に像を結んだ。


 結んだ像は。

 見覚えのある人間が二人。


 グレッグとブルーノ。


 タウンハウスで語った王になる誓いが目の前に再現されている。


 状況が把握できないグレッグはただハクハクと口を動かしている。あごでもはずれたかのようだ。


『「なら俺が王になるのが道理だなあ」』


 ここまで流れて映像と音声はノイズに帰った。


「いい道理だな。サージェン公爵」

「い、これは」


 目の前で繰り広げられた信じられない光景にいつもの責任転嫁の言葉すら出てくることはない。

 普段であれば捏造だの何だのと言えるだろうが。

 己の醜い姿。鏡よりも詳細に映し出されたその姿に自分を失っていた。

 自分でも気づかなかったあまりの醜さ。

 あの時、部屋に鏡があればこの醜さに気づけただろうか?


「これは不敬かの? どう思う宰相?」

「不敬にございます。正確にはそれを通り越していますが」


 不敬どころか王家への反逆よねえ。


「サージェン公爵。不敬はなんだったかな?」

「……」


 下をむき、カタカタと震えている。


「聞いてみようか?」


 王が師匠に目配せをする。


 玉が光り、今度は少し前の場面が流れる。


『「もちろんこの場で息の根を止めます。尊き者が尊き所以を見せつけてやりましょう」』


「という事だな。余は自分の事を尊いと思ったこともないし、王という立場には不便しか感じた事がないから王の器がある人間になら譲ってやっても一向に構わんのだが。お前は無理だなあ」


 既に興味を失ったとばかりのあくびまじりな言葉には、その態度とは裏腹に冷たい熱がこもっている。

 命を狙った人間への復讐。

 国を乱そうとした人間への見せしめ。

 ただそれだけではない。


 わたしの知らない感情がいっぱい詰まった。

 ミチミチとした声だ。


 関係のないわたしまで寒気がする。

 はえーこれが王の器かあ。軽く洗脳とかしなくてよかったあ。

 多分効かないわ。なんのザイかわかんないけどこっわあ。


「王よ。そろそろ次の予定がございますので裁可をお願いいたします」


 王の声に反してこちらは実に事務的な感情。こっちはこっちで怖いのよ。

 処理する事項の一つとしか思ってない。


「余は尊き者ではないからな。じっくりと背後関係や余罪を洗ってからその罪に即して贖ってもらうとしようか」


 そう言って王が片手を上げると、どこからか影のような男が何人も現れサージェン公爵を取り囲む。

 犯罪者を捕えようと音もなくすべりよる。


 しかし。グレッグはそのまま大人しく捕まり、罪を認める性格ではない。


「ああああああああ! クソクソくそがあああああ! 汚物も! くそ辺境伯も! 無能な王も! なんで俺の価値がわからねえ! 俺を敬い、俺を優先し、俺に全てをよこせばいんだよおおおお!」


 ブルーノを刺し殺した槍を振り回し、近づく影を威嚇する。

 影に実体があるのかないのかはわからないが近づくのをためっているようだ。

 醜い。

 もうなぜ自分が暴れているのかすらわかっていないだろう。

 このまま醜態を晒すだけならいいだろう。

 だが。

 まかり間違って王家の人間に傷でもつけたり。

 逃げ出して罪のない人間を傷つけかねない危うさがある。


 なら身内のわたしが始末をつけるべきではないだろうか?


 ……しゃーなし。


「おそれながら陛下。兄に最期の言葉をよろしいですか?」

「なんだ、面白そうだな。よいぞ。クハハ」


 王はとても面白そうに笑う。

 わたしは笑いごとではない。


 人を呪えば穴二つ。


 このままわたしがなにもせずにすめばよかったのに。


 許可を得たわたしは影と同じ程度。槍の届かない位まで近づく。

 既にグレッグは誰であろうと近づく人間には構わずに槍を振り回している。


 わたしを見ることはない。


「お兄様」(こっちを見ろ)


 槍を振り回しながら首だけ動かしてわたしを見る。

 見る事を強制している。


「汚物ぅ! なにしやがったぁ!」

「わたしはなにも?」(槍を止めなさい)


 嵐のように振り回していた槍が止まる。

 止める事を強制している。


「だからヨォ! なんで動かねえ!」

「お兄様。今まで公爵家の重圧お疲れ様でした」(貴方はもう終わりです)

「汚物が! 兄と呼ぶんじゃねえ! おまえのせいで全部台無しだ!」

「お兄様。そのように怯えなくとも、ほら周りには貴方の味方しかおりませんよ」(過去貴方が裏切って来た味方が)

「は? 何をいっ……」


 辺りを見回す。

 見回す事を強制している。

 見える。

 見える事を強制している。


「ふふふ。ねえ言ったとおりでしょう?」(お仲間が寂しがっていますよ)

「おま、おまえがなんで! おまえもあの時の……やめ! やめろ!

「なにも怖くありませんよ」(これからずっと一緒なのですから)

「もうやめてぇ……」


 恐怖に耐えきれなくなった兄は、頭を抱え、耳を塞ぎ、地面に体を投げ出している。

 それは奇しくもわたしが実家で婚約を告げられた時の態勢と同じだった。


「服が汚れますよ。お兄様」


 お仲間の声でわたしの声は届いていないだろう。

 もうわたしに言えることはない。


 王に首肯すると。再度影が兄を取り囲み、床に這いつくばった兄を持ち上げる。


 今度は抵抗もなくそのまま音もなく断罪の間からすすと消えていく。


 わたしは消えた先の扉に一礼する。


 断罪の間から罪が消え、そこは謁見の間となった。


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 しばらくして重厚な拍手が聞こえてきた。

 王である。


「中々に面白い見せ物だったぞ。辺境伯夫人」


 拍手を止めるとそう言って楽しそうにわたしを見る。

 あーこうなりそうだったからやりたくなかったのよう。


「いえ、身内がお見苦しいものをお見せしました。あれ以上の醜態はサージェン公爵家だけならまだしも、わたしを通じてギネス辺境伯家まで汚すものと考えられましたので」


 ほんとにさあ。あのくずなんなの? あれでよく王都で最大派閥がつくれたよね?


「くは。こんなおっかねえ賢者の弟子をどうこうしようなんて、おりゃあ思っちゃいねえよ」


 斜め後ろにいる賢者師匠を見る事なく指差しながら楽しそうに笑う。

 どうこうしようとは思ってなくても、好きに動かそうとは思っているでしょうよ。

 砕けた口調からそんな感情がビンビンと響く。


「王よ! 口調が!」

「宰相! おりゃあ今気分が良い。しかも誰もおらん。許せ」

「……今だけですよ」


 宰相の声にも感情なんてこもっちゃいない。完全なポーズで言ってる。


「辺境伯夫人、名前は?」

「サーシャ・サーエ・ギネスと申します」


 言いたくねえ。

 王家に名前とか知られたくねえ。


「おう、良い名だ。おまえ王家で働かねえか?」


 ほらきた。


「陛下!」


 半分予想通り、半分予想外だったであろう旦那さまが陛下を必死で諌めようと声を上げる。

 が。


「旦那さま。ここはわたしが」

「む」


 大丈夫です。

 わたしは旦那さまの妻なのです。離れることなどあり得ません。


「陛下。お返事の前に。一つよろしいでしょうか?」

「ああ、かまわねえよ」


 おまえわかってて言ってるだろう。


「今回の件は辺境伯家は無実の罪で非常な迷惑を被っております」

「ああ、そうだな」


 わかってるならそもそも誘うんじゃないよ。


「これに補填が欲しく存じます」

「おう、なんでも言え」


 なんでも言えっておまえ。国家よこせっていうぞ。


「では折角のお誘いをお断りする不敬へのご容赦を」

「とくるだろうな」

「ええ」


 両者折込済みの問答。

 折込済みの笑顔で微笑み合おう。


「よし許そう」

「寛大なご判断感謝いたします」


 そう言って下げる頭によぎる。

 今回一番疲れたのは王様対応だったなあという不敬にもおまけで目を瞑ってもらおう。

 そうでも思わないと割に合わないのよ。

お読みいただきありがとうございます!

これが歌姫?の復讐だ!

ってほんとかいな?

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― 新着の感想 ―
[一言] 歌と会話の違いってなんだろな、抑揚があればすべての会話は歌になりえるんだろうかうーんミュージカルーとほけっと思考が飛んでしまってました 歌魔法の発動条件って何なのかのほうが先ですね
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