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王様と辺境伯と

 断罪の間は謁見の間だったようだ。


 罪が謁見の間を断罪の間にかえている。


 部屋の左右には騎士が立ち並び、その後ろが一段高くなっていて座れるようになっており、そこには貴族どもが偉そうにふんぞりかえっている。さながら断罪のアリーナ席と言ったところだろうか?

 断罪なんて見ずにわたしのライブに来い。ぶっ飛ばして悪だくみなんてできんようにしたるから。


 遠くに望むのは玉座だろうか?


 まだそこに王はいない。


 玉座の横に厳しい表情をした初老の男性が立っているのみ。

 一歩進むごとに周りからはヒソヒソとした罵詈雑言が囁かれる。


 聞こえてるんだからな。


 誰が貧乏くさい服を服を着た醜女じゃ。

 お前覚えたからな。

 そんな完全アウェーロードを旦那さまとわたしはただ歩く。

 さながら断罪ヴァージンロード。

 ぐふふ。うまいこと言ったった。


 謁見の間中央で旦那さまが足を止めたのでわたしも一緒に止まる。

 そこで跪き、顔を伏せる。


 宰相がタイミングを見計らったように声を響かせる。


「クリスブライト王国! 国王レオナール様! 御出でになられます!」


 その場の人間が一斉に頭を下げた。

 公爵家にいた時の五体投地を思い出してちょっと笑いそうになる。いかんいかん。こういう笑ってはいけない時に笑いそうになるにはほんといかん。


「皆の者、楽にするが良い」

「王のお言葉である。頭を上げよ!」


 宰相の言葉ではじめて周りが動いた気配がする。

 が。

 旦那さまは動かない。からわたしも動かない。


「ギネス辺境伯」

「は」


 旦那さまにだけ声がかけられた。

 わたしは?


「面を上げい」

「は」


 旦那さまが許しを得て、顔をあげ、跪いた姿勢から立ち上がる。

 ああ、美しい立ち姿だろうな。わたし跪いているから見えないけど。

 てかわたしはよ?


「久しいな。息災か」

「陛下のご威光を賜り、息災にございます」

「なんだ堅苦しい」

「御前ですゆえ」

「第一騎士団を一瞬で倒したあの時の不遜な態度はどこへ行った?」

「幼かったゆえの愚行とご容赦ください」

「良い。許そう」


 なんだか王様と旦那さまは仲が良さそうだ。

 いいなあわたしも旦那さまと仲良くしたい。昔の旦那さまをもっと知りたいなあ。というか王様の声からわたしたちへの悪感情が感じられない。わたしたち反逆者よね?

 というかわたしの名をそろそろ呼ぶべきでは?


「さて宰相。今日はなんの話だったかな」

「は! 最近、辺境伯領から大量の魔石の供給がございました件についてとある密告がございましてその詮議にてございます!」

「おうおう、そうであったな。あの魔石には助かっておった。品質、量ともに一級品だった。技術開発部が大喜びだったぞ」


 お買い上げあざーす。品質いいでしょう?

 わたしの自信作だからねえ。あれを作り出すまでどれだけ苦労した事か。魔素増やされて九尾倒して旦那さま死にかけてファーストバイトしてファーストキスしてのあれだからね。

 ほんとわたしの番はまだ? そろそろ足が痺れを通りこして石になりそうなんだけど。


「しかし今回の密告が事実であればそんな悠長な事を言っている場合ではございません」

「密告の内容とは?」

「昨今の魔石の出どころが魔族との不正な取引により入手されたモノだという密告でございます」

「不正とは?」

「辺境伯領の土地を代償に魔石を得ているという内容が一つ。加えて魔族と秘密裏に同盟を結び王家に反旗を翻す気配ありという内容が一つであります」

「事実か? ギネス辺境伯よ」

「全くの事実無根であります」


 当然よ。あれはわたしの歌が作っているのよ。魔族からなんて買う必要がないのよ。

 さらに言えば反旗なんてもってのほかよ。こちとら金ならあるのよ。金持ち喧嘩せずなのよ。こう見えて資産があるって自慢する男の妻なのよ。

 ああ。そろそろ限界。解放されないなら寝るよ。


「と言っているが? 宰相、証拠はあるのか?」

「もちろん証拠書類が提出されております」

「内容は?」

「魔族と辺境伯領が取引を行なっている書類であります」

「ほう? 宰相はこう言っているが?」

「捏造されたものだと愚考いたします」

「しかし辺境伯家の印が押されておるぞ」

「その印は精巧ですが偽物でございます。提出しました辺境伯家の印と見比べください。そもそも己が罪の証拠を自ら提出する愚か者がおりますでしょうか?」


 フゴッ! やば半分寝てた。


「なに? 辺境伯は自らこの証拠を提出したのか?」

「密告があった事を提出した後に知ったもので……」


 ああ。何? 今は証拠の話? ほんとよね。

 タイミング的に事件の報告として証拠提出しちゃったのよねえ。出さなきゃよかったんだけど。きっと旦那さまなら召喚状を受け取った後でも提出してただろうけどねえ。


「宰相、時系列は正しいのか?」

「はい。王家から出した召喚状とほぼ入れ違いにこの証拠が届いてございます」

「にしても己の家名で取引された不正の証拠を馬鹿正直に王家に提出したと?」

「不正は正されなければなりません」


 愚直よねえ。ここが旦那さまの良い所よねえ。このスマートな見た目からは想像できない愚直こそが最大の魅力よ。

 本当にもう。もう一回寝るよ?


「と言っているが? 宰相?」

「確かに己の犯罪の証拠を提出するとは考えにくいですな。そもそもこの証拠が来なければ密告に対しても密偵を差し向けて慎重な調査を重ねるところでしたからな……」


 宰相と王が今回の断罪に消極的になったとみるや。


「それが! それがその男のやり口でございます!」


 一人の男が謁見の間に大音声を響かせた。

お読みいただきありがとうございます。

ざまあだ! ざまあが始まるよ!

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