王城とデート
王都に到着した二日後には召喚状に記載されている召喚日だった。
これって少しでも登城を迷ったり、領内で協議していようもんなら指定された日付に間に合わず、欠席裁判で即有罪だったのでは? 証拠隠滅などの時間を与えないって観点ならまだいいが、初めから有罪にする気であれば状況は悪いと言える。
まあ状況が悪いと言ってもわたしが洗脳する人間の数が増えるってだけの話だが。
いくら悩んでもしゃーなしでしょ。
ってな具合にわたしたちは王城に登城した。
ニューヨークに入浴したみたいな語感。
くだらない事を考えている間にあれよあれよで。
旦那さまとわたしは王城の廊下を騎士に案内されて歩いている。
華美ではないが豪奢な絨毯が敷き詰められた、どこまでも真っ直ぐに続いていきそうな通路。
そんな通路の壁には等間隔に窓が並んでおり、夏の日差しが差し込んで、光と影が交互に通路を飾っている。
そんな夏の日差しを受けてなお城内の気温が涼しいのはさすが王城と言ったところか。
高級な魔導具が使用されているのであろう。
これ欲しいなあ。夏はケダマが暑そうにしてるからあると便利よねえなんて考えながら歩いていると。
ふと。
誰も喋っていない事に気づく。
あれ? これ喋っちゃダメなやつ?
隣を歩いている旦那さまに目線で問いかける。
首肯。
微笑んでるから喋っていいってことかな?
まあダメなら騎士に怒られるだけでしょ。女は度胸。ドンっとやってみなって。
「喋っていいの旦那さま?」
「ああ、もちろんだよ」
よかった。セーフ。
王城のルールなんて知らないもんね。王城で喋るべからず。破れば死。なんてルールあるかもしれないし。
「王城ってすごいですねえ。あの窓もすごく手間ひまかかってそうですし」
「そうだなあ。僕もすごく久しぶりに入るから目新しく見えるね」
心なしか旦那さまも楽しそうに見える。リラックスできているのはとてもいい傾向だ。
「ふふふ。なんだか王城デートって感じで新鮮ですね」
「サーシャがグフグフしないのは王城だからだろうけど、それはそれで嫌だな。僕はあのサーシャが結構好きなんだ」
ニコニコとしながらそんな恥ずかしい事をおっしゃる旦那さま。
もう! はずかし。
「ぐふふ。何言ってるんですか旦那さま」
「ほら可愛い」
そう言いながら軽く頭を撫でてくる。
はー幸せにとけそうになるう。
ってやばいやばい。
「もう。やめてくださいよ。わたしたちはこれでも国家反逆の容疑者なのですよ」
今や我らは悪役なのだ。
悪役令嬢なのだよ。
そして貴方は悪役辺境伯なのだよ。旦那さま。
そんな思いを込めて思い切りの悪役顔で旦那さまを睨む。
すると旦那さまはそんなわたしの顔を見て笑いながら言う。
「せやかてサーシャ」
なんやて旦那さま!
「それ! わたしの!」
「タニアに教えてもらったよ」
がー! タニアめえ。自分でパクるだけじゃ飽き足らず! 旦那さまにまでリークするとは許すまじ!
しかしいつの間にタニアは旦那さまに教えたのかしら?
ん? 知らんとこで密会しとる?
おん?
「いつの間にかタニアと仲良くなったのですねえ。旦那さま?」
悪役顔のまま、ネチョーリなポリタン笑顔で微笑みかける。
ポリタン笑顔ってなんやねん。
「いや! 違う! そういう感じじゃないぞ! 断じて違う」
慌てふためく旦那さま。
悪役令嬢サーシャのターン!
「慌てての否定。怪しいなあ」
ずっとわたしのターン!
「違う! ほんとに違うんだ。タニアとはサーシャの可愛い所情報の交換仲間というか共感仲間というか……」
「ちょ! なんですかそれ!」
ほんとになんだそれ!
そんな仲間聞いた事ないわ。
「あ、しまった! 内緒だったのに」
額に手をあて、心底失敗したという感じの旦那さま。
「どうりで! 旦那さまだけとの会話をタニアが知ってたり、逆もあったりしたのはそれですか!?」
思い当たる事が二個や三個じゃすまないくらいにあるな。
ぐふふ。ついに尻尾を掴んだよ。
知らんかったけど。
「あータニアに怒られそうだ」
「……もしかして帰ったら昨晩のご褒美も言うつもりだったんでは?」
「そんなことない」
そんなことないって顔してませんけど?
「本当ですかあ?」
「本当だよ。もちろんだ」
旦那さまは嘘が下手ね。
わたしはサエトリアンなのよ。嘘がわかるの。
それでなくても嘘をつくと赫い瞳が潤むから声を聞かなくてもわかるんだけどね。
「怪しいなあ」
今は誤魔化されてあげる。
「ほ、ほらサーシャ。もう断罪の場についたようだよ。案内の騎士が困った顔でこちらを見ている」
「あらまあ。楽しい時間はいつだってあっという間ですねえ」
本当に楽しい王城デートだったわ。
でもここからは気持ちを切り替えなくちゃ。
扉の先は敵だらけなのだから。
「さ、僕らの断罪の場に行こうじゃないか」
「ふふふ。断罪の場に行くテンションじゃありませんね」
「九尾への扉を開けた時の方が緊張したな」
「ですね」
見つめあって無言で肯き合い、扉に視線を向ける。
「行こうか?」
「いきましょうか」
扉を見つめ。
お互いの意思を確認し。
旦那さまが案内の騎士に首肯すると、たちまち大音声が響き渡った。
『ギネス辺境伯! およびギネス辺境伯夫人! 入られます!!!』
それは戦闘開始を告げるドラのように。
さあバトルの始まりだ。
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