秘宝とお仕置き
ダンジョンからも戻ったわたしたちは賢者師匠への報告会として会議室にそろっていた。
わたしのダンジョン行きを最後まで心配していたタニアは帰宅してからべったりで離れる事はないので当然会議に出席している。小脇にケダマ。小脇にわたしの腕だ。ケダマとわたしは同列なのだろうか?
さすがに着席してからは手を離してくれたが、隣の席は譲らないらしく、タニア、わたし、旦那さま、トシゾウの順で並んで座っている。向かいにはもちろん師匠。
「お疲れじゃったのう」
机に両肘をつき、わたしたち三人に労いの言葉をかけてくる。
思ったよりも大変だったんですが? そこらへんは?
「ほんとに大変だったよう師匠」
「おう? そんな難しいダンジョンじゃったか?」
不思議顔の師匠。いくら師匠がチート持ちだとは言え、あのダンジョンがそんな感じになる程簡単だったとは思えないが? 師匠のうっかり疑惑が高まる。
「大変だったのよう。九尾の狐が出てさ。危うく旦那さまが魔素で殺されるところだったのよう」
「狐? おかしいのう。わしが素材集めで頻繁に利用してた頃はマヌケそうな狸がボスで素材集めついでに構ってやってたんじゃが?」
そう言いながらタニアの腕の中にすっぽりと包まれているケダマを見た。
ケダマは視線を感じたのか軽くうなる。なんだゴラアって感じだろうか?
ていうか。おいボスが違うとか言い出したぞ。
これ完全に師匠のうっかりフラグたっとるやろう。もうダンジョンいくのは嫌だよう。
「師匠? ボスが違ってくるとなると。あれよ? まさかとは思うけどダンジョン間違ってるとかないよね?」
三人の感情を代表してわたしが師匠に抗議する。
正直言おう。われら三人は表情だけで疑っているとわかる顔をしているぞ。
「いや、あそこで間違いないぞ。大方マヌケな狸が狐にバカされてダンジョンボスの座を追われたんじゃろう」
ケダマが少し強めにうなる。
おお、ケダマもわたしたちと同じ意見なのか。ともに断固抗議しようぞ。
「ほんとにぃ?」
「おん? わしを疑っとるのか?」
いつの間にか師匠の手には愛用の短杖が握られていた。
「いやさ! だってさ! 師匠ってむかしから仕事の伝達ミス多かったし………」
「む、じゃあ持って帰ってきた秘宝見せてみい。それが合ってればダンジョンも自然と合ってたことになろう」
師匠もそれは否定できないのか取り出した短杖を胸の間にしまった。どこしまっとんねん。てかそこから出してたんかい。くそう。
「まあ確かにそだね。ほい師匠、これでいいのう?」
ゴソゴソと師匠から借りた袋を取り出し、さらにそこからもってきた秘宝を取り出す。
石の塊が重厚な音で机を響かせた。
「おお、これじゃこれじゃ。ほれやっぱり合っとったじゃろう」
ニコニコと笑う師匠。わたしが置いた秘宝を持ち上げて、ためつすがめつ眺めている。
「合ってたんっすね」
「そうみたいだな」
横で旦那さまとトシゾウが安心したように、それでいて気まずそうに小声で囁き合っているのが聞こえる。
「馬鹿弟子、これにシンプルに魔力込めてみい」
そう言ってポイッと秘宝をわたしに投げてよこした。
「おうっと! 師匠! 秘宝の扱いが雑い」
手元で二、三回バウンドさせた後、掌中の秘宝を軽く確認して抗議するわたし。
「なに、おとした所でその石は割れたりせんよ。いいからさっさと魔力をこめろ」
「わかったよう」
石って言ってるやん。もう秘宝じゃないやん。
むーむーとする気持ちをわたしは魔力に変換し、手の中の石に込めた。
「おお」
途端に眩い光が石から放たれる。直視できないほどの強い光。
「し、しょう。目が痛いんだけどこれなんなのよう」
「ちょっと待て、しばらくすれば落ち着く」
そういう師匠の顔を見れば事前に準備してあったのだろう。サングラスみたいなメガネを装着していた。わかっているなら伝えてほしい。そういうとこやぞ伝達漏れ。
師匠の言う通りに待つと三十秒程度で強い光はおさまり、ぼんやりと光っている状態に落ち着いた。
「すごい光だったっすね!」
「これは確かに秘宝だ」
旦那さまもトシゾウも感心しきりだ。
これにはわたしも同意見である。
「ただの石ころじゃなかったのね師匠」
「わしがただの石ころ取ってこいなんて言うわけないじゃろ?」
「とは言ってもねえ」
横並びのわたしたち三人は顔を見合わせる。
だって死にかけた後にあったモノが見た目汚ったない石だったらそりゃあ疑いたくもなりましょう。
そんな事を目線でやり取りする三人に師匠は石を渡すように要求してきたので、わたしは椅子から軽く立ち上がり、光る石を師匠にわたした。
「これは素晴らしい石なんじゃよう」
受け取った師匠はそう言いながら石を撫でる。
すると軽くノイズが聞こえた後に、聞き覚えのある声が流れだした。
『「これで行くダンジョン間違ってました。てへってやられたら俺はクナイを投げつけそうっす」』
「ぜひ投げつけてもらおうかのう。九尾を倒したクナイの味を知りたいもんじゃの」
「が!」
『「師匠ならありうるかなぁ。結構ドジだから」』
「おん? おぬしもか? おん? 実際わしはドジっ子エルフじゃが、おぬしのミスの尻拭いも前世でしとったんじゃが?」
「ぎ?」
『「僕は死にかけたんだがね。別のダンジョンに行けと言われたら今度は賢者殿に行ってもらおう」』
「ほう。辺境伯殿はこの地を救った賢者に向かってダンジョンに行って死ねというのかの? 齢五百の老エルフにひどい事をいうのう。魔素に包まれた辺境伯領に戻りたいと見えるのう」
「ぐう」
『「旦那さま、ナイスアイディア。さすがに次は師匠に行かせましょ」』
「おい、馬鹿弟子。後で城の裏来い。な?」
「げごぅ」
その後も続いて流れるわたしたちからの悪口に一つずつコメントしていく師匠。
その楽しそうな顔といったら。
もう。筆舌に尽くしがたい。
全部が再生され、石からノイズしか流れなくなった所で、再び師匠が石を撫でるとノイズと石の発光が止まる。
師匠の手の中にあるのは最初のままのただの石だった。
「な? 素晴らしいじゃろう? のう? 好き勝手に言いおってのう」
胸の間から短杖が取り出された。
「師匠? 誤解よ」
「賢者殿、実に失礼なことを」
「すんませんっす!」
にっこりと笑いながら首をしっかりと横に振る。
謝罪を受け入れる事はない。
「おぬしらには反省が必要なようじゃのう」
無慈悲に短杖が振り下ろされ、わたしたち三人は髪の毛がもじゃもじゃになるまでイヤらしい感じに痛い電撃を浴びせかけられた。
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ちなみにその後、わたしだけもじゃもじゃの髪のまま、城の裏で空気椅子発声練習をさせられた。
久しぶりに声をだしながら見る夕日は筋肉痛の味がした。
お読みいただきありがとうございます。
昼、夜投稿で二章完結予定です。




