スタジオの紗江さんと現場のサーシャさん
ダンジョン内のサーシャさーん! そちらどんな感じですかー?
はーいこちらダンジョン内のサーシャです。わたしたちは今ダンジョン最下層のボス部屋前に来ていまーす。これからボスですよードキドキしますねー。
わー! もうボス部屋の前なんですか? ダンジョン攻略速度早くないですか?
そうですね。わたしの歌魔法で内部構造も、敵の居場所も、罠も隠し通路も隠し部屋も全部分かっちゃいますからね。ただもう歩くだけみたいなものですからー。
いやーほんとに便利な能力ですねえ。
いえいえそれほどでもないんですよぉ。あ、そろそろボス行かなきゃいけないんで一旦スタジオの紗江さんにお返ししまーす。
以上現地のサーシャさんからでした。いやあサーシャさんってすごいですねえ。あっという間にボスまで行っちゃいましたよ。またボスを倒した後、中継繋ぎますのでチャンネルはそのままで。
なんてやりとりを脳内のサーシャと紗江でやっていると、隣にいるトシゾウがプリプリと怒りだした。
「ほんっとサーシャ様ってなんなんっすか!?」
「さすが僕のサーシャだ」
旦那さまはほめてくれる。さすがわたしの旦那さま全てを受け入れてくれるわ。にしてもプリプリしてる今のトシゾウってなんだかちょっと前の旦那さまを思い出すわ。
「ぐふふ。トシゾウ。なんだか聖域問題を解決した時の旦那さまみたいよ。主従って似るのね」
「確かにそうだな。あの時の僕みたいだぞトシゾウ」
旦那さまも同じ感想だったみたい。
「ご主人と一緒にしないでほしいっす」
プンと拗ねてそっぽをむく少年顔のトシゾウ。見る人が見たらキャワワーってなるだろう。だがわたしは旦那さま一筋ウーマンなのだ。甘いぞトシゾウ。
「おい主従関係はどこに行った?」
ふざけてトシゾウをからかうみたいな口調で言う。
ダンジョン内だと旦那さまも子供に戻ったみたい。気持ちはわかるわたしも何だかワクワクしてる。
「今はダンジョンアタックのパーティメンバーですからね。同等っすよ」
ダンジョン外でもあまり身分だの主従だのにこだわっていないように見えるけどね。確かに今は特に仲良しだ。きっと子供の頃はこんな感じで遊んでいたんだろな。
「しかしトシゾウでなくとも、サーシャの能力には驚くな」
「そっすよ。ここまで道にも迷わず、罠にもかからず、接敵もせずですからね」
「さらに言うならここは最下層で、かつダンジョンボスの入り口だ」
「ほめていいわよ」
自慢げなわたし。心もとない胸部を精一杯はって誇る。きっとまだ成長期だ。うん。まだ大丈夫。前世ぐらいまでは戻ってくれるはず。はず。
「さすが僕のサーシャだ」
「えへへ」
横からわたしの頭を優しく撫でてくれる旦那さま。ダンジョンの中でもいい匂いがするのはなんでだろう? 落ち着いて優しい気持ちになる匂い。
「お二人ともそこまでっすよ。それ以上やったらクナイ刺すっすよ」
隙あらばイチャイチャしだすわたしたちに辟易したトシゾウの目が怖い。眼前に構えたクナイが血を求めておるわ。
「わ、わかってる」
「わかってるわ」
「ダンジョンアタックはデートじゃないんっすよ。もう道すがらイチャイチャイチャイチャを見せつけられる俺の身にもなってほしいっす。サーシャ様、この中のボスってどんなのかわかったりするんっすか?」
おっと真面目な話?
「ん? ちょっと待って」
扉を通す音量で声を放って返ってくる音が………ちょっと聞きづらいから扉に耳当ててっと。そのまま返ってきた情報をトシゾウに伝える。
「えーっとね。体長が四メートルくらいで、体高が二メートルくらいの、これは何のモンスターかしら? 四足歩行のぉ、モンスターだけど詳しい種別はわからないわね。多分ケモノ系ねー。んーこれは尻尾かな? いち、に、さん………いっぱい生えてるわね」
でっかいケモノって事はわかった。
「それくらいならザイを使った僕だけでも大丈夫そうだな」
事もなげに言う旦那さま。言葉の音から嘘も衒いも感じられないから本心から言っているし、自信に満ちた感情が乗っているから経験に裏打ちされた言葉だろう。むしろ過去に同等のモンスターを倒した経験があるのかもしれない。
うちの旦那さま強すぎん?
「油断大敵っすよご主人。俺は遠隔攻撃しながら隙を見て攻撃入れてくっすよ」
武器、アイテムのチェックを入念に行いながらトシゾウが旦那さまに注意している。なるほど、トシゾウは見たまんまの遠隔物理攻撃タイプね。
「僕はメインアタッカーを受け持とう。まずはザイなしで様子見をするが、途中から使っていくからそうなったら冷静にする歌をお願いしていいかいサーシャ」
もちろん旦那さまは最強のアタッカー。わたしはそれを支える妻。ぐふふ。内助の功って前世では流行らない言葉だったけど、異世界なら大丈夫でしょ。(肉体)内(部にバフをかけて)助けるの功だしね。
「もちろんですよ旦那さま。わたしは二人へ歌でバフを撒きながらモンスターに妨害の歌を歌っておきます」
「よし、じゃあ行こうか!」
「はい」
「はいっす」
旦那さまの合図にわたしたちは呼応し、ダンジョンボスへの扉を開いた。
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