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ダンジョンと地図

 というわけで。

 わたしたちは今ダンジョンの入り口に立っている。

 何が、というわけでだ! と言われても仕方ない状況だ。


 しかし師匠がいう全ての解決策がここにあると言うのだから仕方ない。


 わたしも不本意である。歌うたって、ラブラブして、美味しいモノ食べて、刑事ドラマごっこしてたと思ったら、今度は突如冒険だ。賢者師匠は前世から通してわたしを翻弄しすぎなのである。


 翻弄されているとは言え、やはり問題は解決せねばならず、ノーヒントで問題に直面するよりも賢者師匠のヒントがあるのは実際とても助かる。

 

 ここの最下層にあるという秘宝を手に入れれば賢者師匠がそれを核にして魔素圧縮自動化装置を作ってくれるという。


 そうとなれば。


 わたしは魔石製造マシーンにならなくていいし、魔素は魔石にできるし、作った魔石は王国に売ることができると。もうなんと言うか夢の装置だ。


 そんなこんなでわたしたちはダンジョンの入り口に立っている。(本日二度目)

 はるばる辺境伯領の東側のはずれにある。もちろん魔族領に接している危険極まりない地域の、賢者秘蔵のダンジョンである。

 ここまでくるのにまた馬車で三日かかった。もちろんお尻は割れている。


「ご主人、こっからどうするんすか?」


 お尻のわれたトシゾウが、ポッカリと口を開けたダンジョンを眺めながら、引き締まったお尻の旦那さまに問いかける。旦那さまのお尻はわたしが念入りに歌魔法をかけてある。大事。


「僕のザイで最下層ボスまで強行突破するつもりだ」


 おっと。なんて世紀末領主な事をおっしゃるのか。深謀遠慮で手練手管で空前絶後な旦那さまはどこいった。

 とは言っても。

 そうなるのも仕方ないとは思う。なんせ辺境伯がダンジョンアタックなんてした事あるわけもないでしょうし。そんな状況がまずありえんでしょう。

 特に旦那さまがはじめての経験に弱いのは既知の事実。

 あのデート忘るまじ(笑。


「ちょっと待ってください、旦那さま?」


 仕方ないのでわたしがとめる。アホの子なのに止めなければならない苦労。しゃーなし。ここからは少しだけ常識人モードで進めていこう。

 なにせ実はわたしには秘策があるのだ。これさえやっとけば難関ダンジョンだろうが巨大迷路だろうが楽々攻略できるはず。


 わたしの制止に旦那さまが振り返り甘い声でささやく。


「サーシャ。どうしたんだい? 怖くなったかい? 君だけは絶対に護るから安心して一緒に行こう」


 甘い事を言ってくれる。うれしい。がそれは違うのだ。


「旦那さま。わたしも旦那さまを護ります。知っているとは思いますがわたしも弱くはありません。あの日一緒に幸せになろうと誓った事をお忘れですか? わたしも貴方を支えたいのです」


 旦那さまはわたしの言葉に、意表を突かれたように目を丸くするが、すぐにその瞳が潤み始める。


「なんてすばらしい僕のサーシャ。僕も貴女を支えたい」

「旦那さまぁ」


 一生一緒に支え合っていきましょう旦那さま。

 愛する旦那さまが優しく抱きしめてくれる。しなやかで柔らかい筋肉に包まれる幸せ。癒されるう。もう旦那さま大好きぃ。


 となっている横でゴホンと咳払い。


「はいはい。もうそれやめてもらっていいっすか? ここダンジョン前っすよ。ほんとどうするんっすか?」


 パンパンと手を叩きながらトシゾウである。

 あ。やばいやばい。常識人モード終了のお知らせが秒でした。いつもいつもトシゾウには迷惑かけるわねえ。真の常識人は大変だと思うわ。

 そうそう。イチャイチャしたくて旦那さまを止めたわけじゃないのよ。わたしはわたしのやる事をやらなくっちゃね。


 気を取り直して。


「ごめんごめん。とりあえず今からこのダンジョンを音でマッピングするからちょっと待ってて」

「マッピン、グ?」


 旦那さまの抱擁から名残惜しくも抜け出たわたしは、ダンジョンの入り口の際まで歩みでた。

 わたしの言っている意味がわからないのであろう二人はわたしの背中を見つめている。


「ちょっとそこで待ってて」


 そう言って。

 ダンジョンの入り口から中に向かって放射状に声を放つ。

 音が返ってくる方向はOK。

 返ってこない部分にはもっと遠くに届くように音を飛ばしてっと。

 あら結構広いわね。奥行きは五キロくらいあるかしら? 横幅も同じくらいか。ほーん。んじゃ次は下か。何層構造になってるのかなっと。


「口あけて何してんっすか?」

「サーシャ大丈夫か?」


 声を出していたらいつの間にか二人が左右にいて不思議そうにわたしの顔を覗き込んでいる。ちょ、恥ずかしいからやめてあとちょっとだから待っててと言いたいけど、大口を開けてるわたしに抗議はできない。

 まだ終わってないから仕方ない。このはずかしめを早く終えるためにもマッピングを終わらせなければ!


 決意したわたしはささっと下層の構造も把握してダンジョン全体のマッピングを終えると、振り返って二人に抗議する。


「ちょっと二人とも乙女の顔を横からマジマジと眺めるのはやめてください」


 乙女が大口開けてるのを見られるなんて恥ずかしいったらないわ。

 しかも長波の音出しながら距離とか調整してたもんだから口閉じて声が出せる状態じゃないし。

 もう。


「すまない。でも美しかったよ。白い頬にかかるゆるやかにうねった金色の髪の毛、すうっと通った鼻梁、長いまつ毛、ローズピンクの瞳。ああ吸い込まれそうになった」

「ちょ、旦那さま! そんなに言わないでそんなんじゃないから! やめてやめて」


 旦那さまは抗議にしょんぼりとしながらもわたしをさらにほめちぎる。

 恥ずかしい! 美化したわたしを眼前で語られるのはキツい。愛してくれるのは嬉しいけどそんなんじゃないから。

 そんな気持ちを察してか呆れてか、トシゾウが横から声をかけてくる。


「ご主人! 愛し合っているのはいいっすけど、もういい加減にしてほしいっす。これじゃあ話が進まないっすよ。サーシャ様も恥ずかしくて顔真っ赤になっちゃってるじゃないですか」


 トシゾウの抗議にやっとわたしへの賛美がとまる。


「そ、そうだな。トシゾウ、すまん。サーシャもすまない。あまりに美しすぎて………本当に女神かと」

「ご主人!?」


 また始まりそうになる旦那さまに釘を刺す。ナイストシゾウ。容姿をほめられるのはやっぱりちょっと恥ずかしい。歌はいくらほめられても平気なんだけど、どうも容姿をほめられるのは苦手だ。

 熱くなった頬に手をあてて冷まそうとしても熱は逃げない。


「すまない………」

「わかってくれればいいっす。これからダンジョンアタックなんだからちょっとは気を引き締めてほしいっす。んで、サーシャ様。今は一体何してたんすか?」

「それは僕も知りたいな」


 気持ちを切り替えた男二人が再び左右からニョキッと首を差し込んでくる。近い近い。まだ顔赤いんだからやめい。

 両手で左右の二人を押し返し、距離を離して少し気持ちを落ち着けてから軽く咳払いをする。


「何してたかって言われても。ただのダンジョンマッピングよ」

「ん、ちょっと意味がわかんないっす」

「僕もわからない」


 小首をかしげるトシゾウに、赫い瞳をぱちくりしている旦那さま。

 ふふふ。仕方ないわからずやの子猫ちゃんにはわたしが教えてあげるわ。

 心の中の女教師メガネをクイっとする。視力は2.0あります。


「ほら、わたしってよくトシゾウの居場所あてるじゃない?」

「そっすね。やめてほしいっす」


 嫌そうな顔をする。隠密には自信があったのだろうが、わたしには効かないのだよ。そこに実体がある限りエコーロケーションからは逃げられない。


「あれの応用でここのダンジョンの内部がどうなってるか音でここから把握したのよ」

「は? 何言ってんすか」

「ああ、そうか………」


 トシゾウは理解できていないようだが、旦那さまは大体の仕組みがわかったようだ。

 さすが旦那さまだ。やっぱり理解が早い。


「簡単に言っちゃえばダンジョンの中は丸裸ってわけなのよ。道はわたしがわかるからさっさと行きましょ」

「ええええ。サーシャ様意味わかんないですって」

「トシゾウ、僕は大体わかったぞ。さすがサーシャだ」

「まあまあ、モノは試し、女は度胸! さっさとダンジョン入ってクリアしておうちに帰りましょ」


 戸惑う男二人の手を引いてわたしたちのダンジョンアタックは始まった。

お読みいただきありがとうございます!

ここから数話毛色が変わりますがお読みいただけるとうれしいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 蝙蝠もびっくり。壁の向こうまでわかるから性能はずっと上ですね。しかし、紙に書いて示したほうがよいのでは
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