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戸惑いと戸惑い

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 業務連絡


 家紋付きの馬車を正面に回しておくのでそれに乗って領都を案内。

 その後にギ・ネブール通りに向かい、宝石店や衣料品店にてプレゼントを購入。

 領都一番のレストランを予約してあるからそこに移動。

 そこで結婚、及び式の話し合いをすること。

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 朝起きたクラークの枕元にはこの様に書かれた手紙が置かれていた。それを見たクラークは小さくため息をついた。自分にデートなどできるはずもない。生まれてこの方、死ぬためだけに生きてきた人間だ。


 色だの恋だの。


 今更どうしたらいいと言うのだ。


 暗鬱な気持ちで寝着を脱いだ。

 サーシャの予想通りのしまった肉体が朝日を浴びてキラめいた。細身の体の中にどうやったらこの筋肉量を収められるのだろうか? クラークのザイがこの肉体を維持させているのだろう。


 クローゼットを開くとずらっと同じシャツ、同じジャケット、同じパンツが並んでいる。クラークにとって衣服とは全て制服である。民が納めている税金で生活しているという意識を徹底的に叩き込まれる辺境伯にとっておしゃれなど意識の埒外であった。


 普通の貴族であれば侍女が世話をしてくれるのであろうが、聖域があったこの城には使用人を置いていない。自然と自分の支度は自分でするようになっている。むしろクラークとしては楽でいいとさえ感じていた。そのため聖域問題が解決した今でも使用人をおくつもりもなく、食事を作りにくる料理人も通いのままである。


 すっと迷う事なくいつもと同じシャツに袖を通し、同じパンツをはき、同じジャケットをはおった。


 クラーク・ギネスの完成である。


「はぁ」


 小さくため息をついて、寝室のドアを開けると馬車が待っているであろう正面玄関に向かうのであった。



───────────────────────────────


 サーシャとタニアは万全の支度を終え、寝室からクラークの待つ正面玄関に歩を進めていた。


「デートですって」


 軽くはねる。同時に声も踊り歌う。魔力が混ざった声はキラキラと窓から差し込む陽光を反射させる。


「お嬢様、何回目ですか」


 呆れたタニアの声にはため息がまざるが、主人の嬉しそうな様子に喜び微笑む。


「せやかてタニア」

「わかってますよ」


 苦界から抜け出し、その先も苦界であろうと考えていた想定が大きくはずれて人生初のデートをすると言うのだ。その喜びはいかほどだろうか。二人の喜びは天元を突破している。


「どうしよう」


 くるりと向き直り不安げな顔をタニアに向ける。初のデートをどうしたらいいのかわからないという疑問である。昨日の就寝前にずっとタニアにしていた質問であった。


「どうもこうも昨夜の話どおりに辺境伯様のエスコートに従ってればいいのではないでしょうか?」

「ほんと? ほんとに? それで大丈夫?」


 これも寝る前に何度も繰り返した問答であった。


「いえ、知りません。私もデート、した事ないので……」

「そ、そうよね」


 デートなど経験したことのない。苦界に生きてきた女ふたりで考えるデート対策などもうそれはないも同じであった。それでも確認しなければ気持ちがふわふわと飛んでいってしまう。


「……ええ」

「やっぱり不安になってきたわ。失礼な事しちゃわないからしら」

「お嬢様?」


 タニアは流石の呆れ顔である。


「なに?」

「いまさらですか?」

「どう言う意味よー!」


 バシバシとタニアの腕をはたきながらサーシャは抗議しているが、タニアの言う事がもっともである事もサーシャはわかっていた。色々とヤラカシマシタシネ。


 そんなこんなでサーシャとタニアが歩きながらじゃれあっていると、すぐに正面玄関に到着した。

 何だか今日の玄関の扉は重たく見えるのはサーシャの心象が反映されているからかもしれない。タニアがその扉を開くと少し高くなった朝日が扉の隙間から差し込んでくる。

 目を眇めてその先を見ていると、だんだんと目が慣れてきてその先が見えてくる。


 王子がいた。


 扉を開けたらそこには王子。


 玄関開けたらニ秒で王子。


 正確には王子ではなく領主であるが。


 銀髪をかっちりと後ろに流し、赫色の目を薄く開き、細身のシャツから覗く締まった胸筋に目がくらむ。朝日より眩しいのではなかろうか。せっかく慣れた目に毒を流し込まれた気分だ。


 馬車の前に立ったクラーク・ギネスは表情なく、サーシャに手を差し出して言った。


「行くか」


 柄にもなくおずおずと手を差し出して、サーシャが言った。


「はい」


 デートの始まりである。

みなさまありがとう。見てもらえてうれしいです。

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