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シャイニングとミッドサマー

数時間居心地と乗り心地の悪さに耐えながら、婚家の騎士団長をキャン言わせてやった爽快を噛み締めながら馬車の中で過ごしていると、車窓からの景色が段々と森から都市へと変化していくのがみてとれた。

車中ではタニアは自分の失敗を一言詫びた後、恥じ入るよう黙りこんでしまった。まあ、両手は相変わらず狸を愛でているわけだが。口からたれかけたヨダレをすする音がたまにするくらいのものである。


狸をめでるタニアを愛でていると外からブルーノの大音声が響く。


「かあああああああああいもおおおおおおおおおん」


どうやら本格的に辺境伯領の領都に到着したらしい。重く鈍い音をたてているのはおそらく門が開く音だろう。音から察するにそうとう大きな門である。

 重くるしい金属音がとまって一拍して馬車が再び動きはじめる。

 門を潜った先にあったのは辺境と言うには辺境らしくなく、王都の衛星都市と言われても遜色のない街並みだった。小さな車窓からちらちらと見える民は皆笑顔で活気があった。

 どうやらここの領主は噂通りの人間ではないようだ。世紀末覇者領主にこの雰囲気が醸成できるはずもない。


 未来の夫の認識を改めながら進んでいくといつの間にか領主の館に着いていた。


「館に到着しました」


 到着を告げるブルーノ。


 館? 館って言った? 目の前にあるのは館という言葉で表すのは間違っているだろう。随分大きい。見渡す限り横に広がっていく石造りの城壁。その中にあるのは無骨なこれも石造りの堅牢そうな城郭。城郭の後ろにも広く敷地が広がっているように見える。

 なんだこれ? ちょっと圧倒される。


「館? 世間ではこれは城というのよ。本当にモノを知らないわね。コネ団長さん」


 圧倒された自分を落ち着かせるために団長に嫌味を言ってみる。案の定怒りで言葉を発する事ができずに表情がコロコロと変わっていく。ぐふふ。顔色がオタ芸のサインライトみたいで楽しいわ。

 ちょっと落ち着いた。感謝するわ。

 怒り狂うサインライト団長から視線を外す。


 気づくと目の前にいつの間にか文官らしき男が立っていた。


 線の細い眼鏡をかけた。体もこれまた線の細い神経質そうな男だった。団長をからかって油断していたとはいえ全く気づかなかったわ。気配の消し方はサインライト団長よりよっぽど巧者ね。サインライト団長もいつの間にか現れた文官に驚いて口をはくはくさせてるわ。

 わたしにからかわれてる時より驚いてるじゃない。うける。この細線男すごいじゃないの。


 そんな敬意を表してにっこりと男に微笑みかける。


 わたしの笑顔をうけ、男は無表情に一礼する。

 一礼してすっとあがった男の顔に表情はなく。全く感情が読めない。継ぐ言葉もなくただわたしを見つめてくる。本来であれば不躾で無礼ではあるが不快感は感じない。

 見た目がいいからかしら?

 まあいいわーーここはわたしから声をかけましょう。


「ごきげんよう」

「ようこそ、辺境伯領へ。早速お部屋へご案内します」


 は? 挨拶を無視? 噛み合わないわ。ロボなのこの男。


 そんなわたしの戸惑いも無視して男がすっと後ろを向く。

 と同時に城の入り口が音もなく開いた。


 そこからは無機質に無表情に無感情にそれはもうただ案内だけされた。

 愛想なし。

 廊下を歩く三人の足音だけが広くまっすぐな廊下に響くだけの案内だった。男は名前も名乗らず。一応身分が上なわたしからも名乗ることはなく。無骨ながらもセンスのある城の中を右へ左へ上から下へと歩かされた。


 道中誰に会うこともない。全く人の気配がしない。この広い城の中に誰もいないなんて有り得る?


 それにしてもわざと迷わせているような案内ね。これは脱走防止? あちらこちらへ遠回りさせて城の中の構造を理解させないようにしているのだろうか? まるで敵のスパイでも内部に入れた時みたいな対応。

 まあ歌魔法持ちのわたしはエコーロケーションでマッピングできるから無駄なんですけどね。


 自分の判断なのか上司の指示なのか。警戒がすごいわね。


 でもそれもそうか。


 このわたしを公爵家の娘と言われても、社交界はおろか人間社会にすらデビューしてないんだから。調べても経歴が一切出てこなかったでしょうしね。養子から養子への経歴ロンダリングならまだしも、今まで存在していなかった公爵家の娘が突如嫁に来るってんだから警戒も当然か。


 案内されるわたしも大変だけどこの文官も大変ね。でもサインライト・コネ・ブルーノ団長とは違ってお仕事に忠実な男ね。得体の知れないわたしへの軽蔑も侮蔑も警戒も敵意も一切感じさせない。


 いっそ清々しくて好意すら覚えるわ。


 ねえ、タニア?


 タニア?


 ん? そう言えばタニアは?


 いつの間にかいない。


 消えた?


 え? なにそれこわい。


 ホラーなの? 一人ずつ消されてく系のホラーなの? シャイニングされちゃうの? ミッドサマーされちゃうの?


 なに人気のない城ってそういう事? 無理むりムリ無理! ターニーアー!


 心の中でタニアに助けを求めていると、目の前を歩く男がふっと笑った。

 何よ! さっきまで無表情だったくせに!


「侍女殿は別の部屋に通していますのでご心配なく」

「え? なにそれこわい」(そうですか。安心しました。)

「お伝えしておりませんでしたね。怖がらせてしまい申し訳ありません」


「わたしの心の声を! まさか心を読めるの!?」(… … … …)


 男は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

 しっかりとわたしを見つめてくる男の顔は綺麗な顔をしていた。

 綺麗な顔。なんてあー。こんな事を思っているのもバレているのだろうか?


「いえ、先ほどからずっと思った事を口になさってますよ」

「は?」(は?)


 は?


 しまったーーーーーーーーー!!

 孤独生活長いと思った事全部口にするようになるよね?

 前世でもよくテレビに突っ込んでたし! 今世でも話し相手は鳥や花だったから思った事なんでも口に出す生活だったー! あーーーーーーーー! 夜中に枕に顔つっこんで叫ぶ案件だあああああああああ!


「そのー。ちなみに。い、いつからでしょう?」


 おそるおそる。


「それは言わぬが花でしょう」


 無表情な男がはじめて少し微笑んだ気がした。


「部屋につきましたよ。中へどうぞ」


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