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タニアと騎士

「お待ちしておりました。サーシャ・サーエ・サージェン公爵令嬢」


まったくお待ちしてなかった感を満面にわたしたちを迎えたのは。


「ギネス辺境伯領第一騎士団、団長ブルーノであります!」


だそうだ。馬上から響く大音声が耳に痛い。

うーん。何だか歓迎されてないな。四角い顔した騎士団長ブルーノの顔からは面倒事を押しつけられた人間の感情がプンプンしてくる。

とは言ってもわたしに出来ることは限られている。やれることをやるだけだ。


「はじめまして。ブルーノ様。私はフランツ・フォン・サージェン公爵が末娘サーシャと申します」


そんなわたしのやれること、令嬢100%の挨拶を軽く無視するように団長ブルーノはサイトーたち護衛団に視線を移した。


「……ここより先は我ら第一騎士団が護衛する! お主らは疾く去る──帰るがよい!」


去れって言った後に言い換えてもダメだろ。しかも去れも帰れも大差ないぞ。

あまりな態度にサイトー含む護衛団の面々も面食らってモノが言えない状態。タニアを除いて。そうタニアを除いては。

ワタシダイスキーなタニアは呆気にとられてではなく、殺気にとらわれてモノが言えない状態なのだろう。フーフーと獣じみた吐息が漏れ聞こえてくる。


あかん。


「タニア」


ふりかえらずにわたしはタニアの名を呼ぶ。鎮静の魔力をこめて。指向性を持った魔力は的確にタニアの沸いた脳を冷ます。


「お嬢様」


何も言わずともタニアは自分の失態に気付く。頭さえ冷えればタニアは完璧なのだ。そう。ここは怒る場面ではない。辺境伯領でのわたしたちへの認識を理解するのがここでの最善。


「タニア、ありがとう」


それでも自分への非礼に無条件で怒ってくれるタニアの存在はうれしい。


ここは気持ちを切り替えてわたしが場をおさめなければ。


まずサイトーたち護衛団に礼を言い、そう遠くない再会を誓いあって別れることにした。サイトー曰くココから先は魔獣たちの危険度がはね上がるらしく決死の覚悟をしていたと聞き、もしやあの不遜な「帰れ」の言葉も護衛の身を案じたのかと推測したが、あのヒゲ肉だるまの物言いはやはりゆるせるものではなく、騎士団長への不信感は減らなかった。


その後、ムカつくヒゲ肉だるまに貴族バリバリのイヤミな態度でわたしは言うのだ。


「ブルーノとやら」

「は」


くくく。小娘に呼び捨てられていい感じにムカついておる。顔が真っ赤ではないか。こちとら腐っても公爵令嬢やぞ。調子のんなよこの木っ端騎士が。


「ナニをしておる。さっさと案内せぬか。無礼者。立派なのは声だけか? そんな相手を侮った態度で騎士が勤まるのか? 辺境伯領は一瞬の判断で命を失うと聞くぞ、そんな判断の速度でよく騎士団長なぞつとまるのう? コネか? なんじゃ? 何も言えんのか? 案内せぬなら私達で勝手に乗り込むぞ。これじゃな?」

「は、は」


もう返事なんだかなんなんだかわからんくらいに口をパクパクさせとる。わたしが無礼をウケてヒンヒン泣いてる小娘だと思ったら大間違いだぞ! 伊達に苦界で生きのびてるワケじゃないのだよ。むふふぷひー。

言うだけ言い捨ててわたしとタニアはさっさと辺境伯領の馬車にのりかえた。


「しゅっぱああああああああああああああああああつ」


ご立派な大音声が扉をビリビリと揺らしたあとにゆっくりと馬車は辺境伯領を進み始めた。

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