3枚目
「あっつい…」
「この階段長すぎるでしょ…」
グレナデンざくろ一行、夏バテしてます。
特にインドア派であろう圭吾くんと御厨くん。
そして俺ももちろんバテている。
こんな階段あるなんて聞いてない!!!
「遥くんが神社行こうって言うから来たけどさ〜まだ着かないの?」
「うーん、俺もこんなに長いとは思ってなかったよ」
「うううう…これを登りきれば名探偵に…一歩…近づく…!!」
近づきません。
筋肉痛に近づくだけです。
事の発端は、遥が祭の詳細を地元の人から聞いた時に開催地である神社に行ってみればいい、と言われたらしく俺たちを誘ったようだ。
確かに現場を見に行くのはいいと思うし、伝承などを知るいい機会かもしれない。
ただ暑いし、遠い!!!!
「ここにお祭りの時はお店がいっぱいになるんだよね!」
「ああ、出店の数はかなり多いみたいだね」
少し一緒に暮らして、ほんの少しだが裕貴くんの言葉も分かるようになってきた。
慣れって凄いんだな。
遥の話だと、出店はかなり多く、普段は封鎖されている坂にまで続くらしい。
これはいいネタになりそう。
「あ、見えた!」
「早く休みたいよお〜…」
「思いついた!!!」
先頭を歩いていた鈴谷くん、黒木くんがこちらを振り返る。
どうやら頂上が見えたらしい。
圭吾くんはバテすぎて真城くんに介護されている。
冷たそうに見えてなんだかんだ優しい人だ。
横を歩いていた裕貴くんが突然走り出し、あっという間に頂上へと行ってしまった。
そんな体力どこに残ってたんだ。
「元気だね〜」
「でも遥も元気な方だよね」
「あはは、神社巡りとか好きだから慣れてるのかも」
さすがはミステリー作家?
いかにも事件や怪談などがありそうな場所が好きみたいだ。
そういうのはネタになるから俺も嫌いではないけど。
ただ、肝試しとかはダメだ、ああいうのは良くない。
「うおおお…!登りきったぞ…!!」
「いやあ長かった長かった」
「これは写真映するね〜!」
登りきれば広がる緑と大きな神社、少しどこか懐かしくなる。
もちろん、来た事なんてないのだが。
とりあえず少し休憩してから参拝しよう。
じゃないと圭吾くんが倒れてしまう。
「ううーん…暑い…」
「影は涼しいから、頑張って」
「誰か僕の事も労わってよね…」
真城くん介護のもと、なんとか圭吾くんも登りきった。
御厨くんはなんだかんだ自力で来れたようだ。
元アスリートである黒木くんだけは涼しそうな顔で佇んでいるけど、やっぱり体力の差があるんだな。
一般人とは比べ物にならない。
「そろそろ参拝しようか、各々」
「俺もうちょっと休んでから…」
「もう俺終わらせちゃった〜」
「裕貴くん早いね…」
ニコニコと戻ってきた裕貴くんと入れ替わりで本殿の方に足を向ける。
一体ここは何の神様が祀られているんだろうか。
仕事運が上がりますように、とお祈りしておく。
お祭りで何かあるといいけど。
「みんな、おみくじ引かない?」
「俺引きたーい!」
「あ、俺も引こうかな」
参拝し終わった数人で社務所へと向かう。
おみくじなんて何年ぶりだろう。
昔はよく大吉ばかり出してたな。
小吉以下は引いた事ない気がする。
「おや、若い人達が来るのは珍しいねぇ」
「こんにちは!神主さんですか?」
「こんにちは、わしはただの留守番だよ」
社務所に着くと60代くらいだろうか?男性が立っていた。
どうやら神主さんではないらしい。
留守番…という事はすぐ戻ってくるのだろうか?
取材しようと思っていたのに…。
「今の時期は祭りの準備で神主さんも忙しくてね、観光で来たのなら名所ぐらいなら教えてやれるさ」
「あ、俺ら観光じゃなくて最近ここに引越して来たんです」
「おやおや、それはすまんかったな…ようこそ、ざくろ町に」
…今、目が、いや幻覚か?
きっと光の反射か疲れてただけだ、人の瞳が縦長になる訳ないよな。
俺以外何も反応していないし、多分見間違えだ。
夜中まで記事を読み漁るのは良くないな。
「良ければ祭りについて教えてくれませんか?僕ら新参者で詳しくなくて」
「お前さん身長高いねぇ〜もちろんだよ、若者は町を元気にしてくれるしな」
「ありがとうございます!」
遥ナイス!
このまま取材の流れに持っていこう。
取材の流れになれば俺の独壇場。
宣材写真は鈴谷くんに貸してもらえばいい。
「そうだねぇ、まずは比良坂の大岩の話でもしようか」
「それって…あそこにある岩の事ですか?」
「ああ、道敷さんのお屋敷があるから普段は入れないようにされてるのさ…道敷さんは祀られてる神様の事だ」
要するに御本殿的な場所があるのだろう。
木が鬱蒼としていて建物など見えはしない。
しかも斜面は下の方へと続いているようだ。
普通本殿は上の方に建てるイメージだが…。
「そうだ、道敷さんの久遠桜は綺麗だよ…祭りの時に坂の下まで行って見てみるといい」
「え、こんな時期に桜ですか?」
「大岩の向こうは神の住む場所だから桜も枯れんらしいよ、神主さんが言うにはね」
枯れない桜…これはいいネタになりそう。
ただそんなもの存在するのか?
今は真夏だ、普通は青葉が茂っていそうなものだが。
ちなみにここから桜は確認できない。
「へ〜不思議な事もあるんだね」
「写真って撮ってもいいですか!?」
「構わんとは思うが…祟られんように気をつけろよ?」
祟りって…そんなのある訳ないだろ。
ネタとしては使いやすいけどね。
俺は自分で見たものしか信じない。
幽霊とか正直いないと思う。
「ひえ〜やめとこ!」
「はっはっ、脅してすまんな、やめておく方がええよ」
「そういえば坂には出店が並ぶんですよね?」
…宣材写真は断念するしかないか?
最悪自分のカメラで撮ってもいいけど。
桜じゃなくても出店が撮れればそれでいいのだが。
出店の多さは文句なし!とか書いておけばいいし。
「ああ、並ぶには並ぶが食べ物は参道にしか並ばんからなぁ…比良坂は面白い店なんてないよ」
「あれ?聞いた話だと食べ物屋も並ぶって…」
「そりゃあお供え物だ、供えないかんからすぐ食べれねぇ」
なるほど、坂の先にある本殿に参る為の物、って事か。
まあ別にそこは誤魔化して書けば問題は無い。
こういうのは大抵少し嘘を混ぜて書いておけば釣られる奴らがいるのだ。
嘘と本当の事を混ぜて書けばバレる事も無い。
「なるほど…勉強になりました」
「いいんだよ、祭りで見かけたらまた声でもかけてくれ」
「はい、失礼しますね、お世話になりました!」
祭りは19日…それまでに情報を集めておこう。
今回こそ、認めてもらう為に。
8月15日 (日) 生野薫
追記 部屋に戻るとカメラのバッテリーが切れていたので充電しておく事。