2枚目
「みんなおはよう~」
「おはよう、遥」
「あはは!薫ちゃん寝癖すごいよ〜」
この洋館で一夜を明かしたが収穫は何もなし。
管理人がただただ優しい人だったオチは避けたいところだ。
あの後二人が訪れ、残りの五人はパラパラとそれぞれでここに来た。
…かなり個性の強いメンツなのが心配でしかない。
「薫は後で寝癖どうにかした方が良さそうだね…それより朝食の前に改めて自己紹介しない?
今のところ名前しか俺ら分かんないでしょ」
「あ、それ賛成ー!!」
「声デカっ…」
それよりってなんだ、俺はちょっと傷付いたぞ。
知り合って一日も経たないが遥はふいにこういう発言をしてくる、と学んだ。
朝から元気な鈴谷くんに壁にもたれていた御厨くんが驚いていた。
まあ、確かに声はデカい。
「他の六人もいいね?」
「まあ…」
「もちのろーん」
「…ああ」
「僕は返事してない…別にいいけど」
「おっけー!」
「いいぞー!!」
「いいよ、誰から?」
返事だけでこうも個性が出るものか。
ていうか、圭吾くんそれ古い。
協調性が無さすぎて先が思いやられてきた…。
俺、ネタなんかより生活が危ういぞ。
「まあ言い出しっぺの俺からかな?
名前は知っての通り、舞田遥だよ。
ミステリー作家をやってる、歳は27歳!」
「作家?あんまり聞いた事ないけど」
「あはは、そこそこは売れてるはずなんだけどねぇ」
舞田遥、ミステリー作家。
そこそこは売れてるはず?
「次は俺!俺!」
「はいはい、どうぞ?」
「夢崎虎太朗!25歳、探偵…」
探偵!?
事件か何かの調査で来たのか!?
だとしたらネタがあるはず、俺も晴れて正社員に…!!
「見習いだ!」
「…」
見習いかよ。
ここにいる全員の考えが初めて揃ったかもしれない。
ああ…正社員の夢はさようなら…。
期待した俺が馬鹿でした。
「見習いかあ…」
「でもでも!将来は名探偵になる男だから!!」
夢崎虎太朗、25歳。
将来は名探偵になる男!
「うーん、並び的に俺?」
「そうだね、どうぞ」
「鈴谷三郎!23歳でカメラマンをやってます!」
鈴谷三郎、23歳。
まだマトモなやつ。
…俺の願望だけどな!!!
常識人一人はいてくれ。
声と身長がデカいくらいしか今のところはない。
お願いだから変人の片鱗も出さないでくれ。
「次はー俺ね、久代圭吾でーす」
「圭吾ーちゃんと自己紹介しろー」
「ごめんじゃん?26歳〜職業はお金をくれるお姉さんを癒す事♡」
久代圭吾、26歳。
顔はいいのに、中身はヒモ。
「…悪く言えばヒモって事か」
「でも俺もお姉さんもwin-winの関係だよ?」
「ダメだダメだほら次!」
圭吾くんは俺らにもフレンドリーだけど…。
やってる事は完全にクズなんだよなぁ。
言ってないけどつまりはフリーターだ。
女関係荒らそう。
「…黒木玲也、元アスリートの23歳」
「俺知ってる知ってる、サッカー選手じゃん!テレビ出てたよね〜」
「…あそ」
黒木玲也、23歳。
絶世の生意気美少年。
態度わり〜!!!
圭吾くんの悪ノリっぽさも良くなかったけど。
元って事は今はフリーター?
お金は持ってそうだ。
「僕は御厨燕、23歳。
ITエンジニアだけど、2年後にはお父さんの会社を継ぐ予定」
「うわあ御曹司か」
「ヒモとは違うよ」
御厨燕、23歳。
秀才毒舌お坊ちゃん。
「俺酷い言われよう〜!」
「うーん、俺も庇えないかな」
「薫ちゃん見捨てるの早い!」
巻き込まれたくないし。
罪悪感のないヒモは良くない。
いや罪悪感あってもダメだけど。
そういうの案外事件に繋がるんだぞ。
「裕貴、次お前だよ」
「あ、ほんとだ…俺は賀来裕貴、26歳のおえかきさんだよ」
賀来裕貴、26歳。
話してる言語が違う。
…昨日少し話したけどまじで話が噛み合わない。
あと言ってる事が分かりにくすぎる。
遥はすらすら理解して話してたけど異文化交流見てるみたいだった。
作家だからかボキャブラリーは凄いんだよな。
「お、おえかきさん?」
「画家の事だと思うよ」
「それそれ〜!」
これは会話する時翻訳機(舞田遥)が必要だな。
裕貴くんのボキャブラリーを補ってもらわないと。
俺も記者だからボキャブラリーはあるはずなんだけどな…。
鍛え直さなきゃいけないか?
「あ…真城海斗、27歳、サーファー」
「へー!サーファーかあ、かっこいい!」
「…ども」
真城海斗、27歳。
なんちゃって一匹狼。
一見冷たいし、突き放してるように見えるけど喋りかけたら顔が完全に喜んでる。
どっちかって言うと犬。
今も褒められて照れてるし、目は逸らしてるものの、口はちょっとにやけている。
案外良い奴そう。
「最後、かな?生野薫、24歳の記者やってます」
生野薫、24歳。
俺。
「汽車?」
「新聞記者の方のきしゃでしょどう考えても」
「あはは…フリーランスで最近はネット記事を書く事が多いかな」
フリーランスなんてカッコつけて言ったけど正社員になれないだけです!!
ネット記事でギリギリ生活繋いでます!!!
「記者って事は何か取材に?」
「うーん、ネタがあればいいな、ぐらいだけどね」
嘘ですネタがないと困るんです。
あればいいな、なんて軽いものじゃない。
あってくださいお願いしますなんだよ。
今後がかかってるんだから。
「あ、なら比良祭とかどう?」
「ひな祭りじゃなくて?」
「ひら、ね…ざくろ町の祭だよ
6年に一度のお祭りらしくて今年やるみたい」
お祭りか、物によっては悪くないな。
地元特有の催しがあるならそれで書けるかもしれない。
6年に一度ってくらいだからかなり大きいんじゃなかろうか。
期待値は高い。
「いいね、いつやるの?」
「うーん、そこまでは詳しくないや…調べてみないと」
「あ、今スマホ持ってるよ」
記者たるもの、何時も取材道具は忘れない。
スマホは一つで色々な役割をしてくれるから便利だ。
とりあえずざくろ町のホームページに飛んでみる事にした。
…読み込み時間かかるな。
「いつもスマホ持ち歩いてるの?」
「うん、取材いつでもできるように」
「俺も写真いつでも撮れるように持ち歩いてるから一緒だね〜」
鈴谷くんも俺と職種的には近いもんな。
…鈴谷くんは売れっ子っぽいけど。
開いた…ここもレイアウトとかセンスないなあ…。
色使いが綺麗とは言えないし。
あ、比良祭についてお知らせあるじゃん。
ここ開けば分かりそうだ。
「…うわっ!?」
「何?どうしたの」
「いや、画面が…」
比良祭のページに飛んだ途端、ノイズが走り、色は反転してしまっているようだ。
ホームページの説明文もバグっている。
不穏な雰囲気でなんだか寒気がする。
「見せて…これ、ホームページが不具合なだけだと思う、役場に言った方がいいね
でもこんなので大声出さないでよ」
「あはは…ごめん、でも不具合なだけなら良かった」
御厨くんはさっと、俺のスマホを奪い確認した。
すぐ原因が分かったようでさすがITエンジニアなだけある。
相変わらず毒はおまけに付いてくるけど。
こんなの誰でも驚くだろうが。
「うーん、ホームページが開けないなら近所の人に聞いておくよ」
「ありがとう遥、助かるよ」
「そうだ!比良祭みんなで行こうよ」
みんなで!?
こんな大所帯で行けば取材しにくいのは丸見えだろ。
黒木くんとか反対してくれ…!
御厨くんとか暑いの嫌いそうだし!!
「いいんじゃない〜?」
「うん、俺も新しい作品の題材にしたかったんだ」
「どんな絵が描けるかなあ」
「謎探しだー!!!」
「まあ、いいけど…」
「…美味しい食べ物があるなら」
「悪くないんじゃない?」
まさか全員行きたいのかよ。
黒木くん食べ物に釣られてるし。
御厨くんは案外こういうの好きなんだね、今は違って欲しかったけど。
…別行動すればいっか。
「いいと思うよ」
「じゃあ親睦会も兼ねてだね」
よくねーーーーー!!!!
8月2日 (月) 生野薫
追記 各部屋番号 1 舞田遥、2 夢崎虎太朗、3 御厨燕、4 黒木玲也、5 鈴谷三郎、6 俺、7 賀来裕貴、8 久代圭吾、9 真城海斗