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1枚目

「あっつ…」



ざくろ町の気温、32℃。

こんな熱烈な歓迎はいらない。


管理人から送ってもらった住所を頼りに向かっているが、暑くて足は進まないし、慣れない田舎の道に少し手間どってしまう。


それにしても、駅からバスに乗り40分ほど揺られてきたが随分遠い。

交通の便はかなり悪いようだ。



「えーっと、洋館なんだったよな?」



少し遠くに黒いレンガの建物が見えている。

近隣に高い建物がなくて助かった。


グレナデンざくろ、だっけ。

元々はホテルらしいが一体どんな事件があったんだろう。


あんな破格の値段は殺人事件でも起きているはずだと、ざくろ町殺人事件で検索してみたが何も出てこなかった。



「…着いた」



黒い大きな建物は威圧感を放ち、扉を叩くのがはばかられる。

インターフォンとかないのかよ。


記者魂にかけてネタは欲しいので勇気を振り絞り扉を3回ノックしてみた。

重圧な扉は硬く、ノックした右手が痛い。



「はぁい〜…」



出てきたのは細身の身長が高い男性。

切れ長な目がふにゃふにゃと細められていて優しい印象が見受けられる。


ただ、服装が甚平なのだが何かの職人さんなのだろうか?

あまりそのようには見えないが。



「生野薫と申します、シェアハウスの件でお伺いしたんですが…」


「あー、えっと俺も入居者側だから分かんないな…ちょっと中に入って待ってて!

管理人さんのメモが確かあったはず…」


「あ、はい、お邪魔します」



まさかのルームメイトだった。

というか管理人は留守なのか?


俺が来る時間帯は予め伝えたし、居るだろうと思っていたのに。

…不動産屋さん越しにだったけど。



「ひっろ…」


「広いよねぇ、俺も来た時驚いたもん…うーん、この紙じゃないなぁ、あれ?こっちでもない!」


「…」



中に入ってみるとホテル風のロビーが広がっていた。

ホテル時代の物を再利用しているのかもしれない。


フロントの上に広がる紙をこれは違う、こっちも違う、と漁る男性。

…この人、雑だけど大丈夫そうか?



「あ!これだこれ〜えっと、生野さん、だよね?」


「はい、生野薫です」


「うんうん!書いてあったよ、待たせてごめんね〜」



雑ではあるが、人は良さそうだ。

気さくで、笑顔が優しい。


この人とはなんとか暮らしていけそうだ。

雑だけど。雑だけど!!!



「いえ、此方こそ確認して頂きありがとうございました…これから宜しくお願いします」


「ようこそ、グレナデンざくろへ…俺は舞田遥(まいだはるか)、作家なんだ〜よろしくね!」



作家…舞田遥…聞いた事ないな。

あまり売れていないのだろうか?


いや、ペンネームが別にある可能性もあるな。

作家はそういう事がよくあると聞く。



「まあ聞き覚えはないだろうけど…そこそこは売れてるはず!」


「はあ…」



後で一応調べておこうか…。

電子書籍があれば一作ぐらい読んでみよう。


…あれ、まだ8月1日だよな?

随分ここに慣れてる様子じゃないか?


入居できるのは今日からなはずだ。

俺は即入居できるよう手配してもらったし。



「あの…」


「あ!敬語はやめよう?俺堅苦しいの苦手だから〜」


「あ、はい、いや、うん…聞きたい事があるんだけど…」



気さくとは言ったがフレンドリーすぎる。

彼のペースに流されてしまう。


俺だって記者の端くれだ、話しかけたりは取材で得意なのだが…。

完全に彼の世界観に引っ張られてしまう。



「うん?何でも聞いてよ」


「ありがとう…俺が見たチラシだと入居は今日からなはずなのに、舞田さんはここに慣れてるみたいだったから」


「遥でいいよ、さん付けもいらない…俺は編集担当の人が管理人さんと知り合いだったみたいで縁があって一足先に来てたの」



編集担当がいるという事は一応、しっかり作家ではあるらしい。

なるほど、そういう入居の仕方もあったか。


妙に勘ぐってしまったのが申し訳ない。

記者の性ではあるけども。



「分かった、教えてくれてありがとう」


「いえいえ〜!もう少ししたら他の7人も来るみたいだね、ソファに座ってでも待ってようか」


「えっ、初日なのに9枠全部埋まってるのか!?」



値段に惹かれて来た人ばかりなのか?

普通なら裏を怪しむだろ。


俺が言えた事じゃないのは分かってるけどもっと用心した方がいいと思うぞ。



「面白いよね〜まぁやっぱり値段だと思うけど」


「なんなら俺しかいないかと思ってた…」


「あはは!こんな広いところに一人は寂しいけどね」



確かにこんな広い屋敷に一人は不安になる。

一人じゃネタなんて見つからないし人は多い方がいい。


ハプニングだってネタになる、命に関わる事以外なら何でも来い、の気持ちだ。

さすがに死にたくはない。



「誰かいませんか〜?」


「まだ俺周り調べてる途中なんだけど!?声かけるの待ってよ!」


「おや、誰か来たみたいだね」


「二人組みたいだ」






8月1日 (日) 生野薫

追記 舞田遥、調べてみたらミステリー作家だった。発行部数は少ない方な気がするが…本人曰く、そこそこは売れてるはずらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日記風ってなんか新鮮だね! さりげない描写や会話でストーリーがひしひしと伝わってくる! [一言] 更新楽しみにしてます!
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