0枚目
「この記事は内容が薄い、もっといいネタを拾ってきてくれ」
「…分かりました、失礼します」
「何でだよーーー!?今度こそめちゃくちゃいいネタだと思ったのに!!」
雑誌記者、生野薫、25歳。
彼女はいない、募集中。
編集長に記事をボツにされた回数、100回超え。
クッソあの無表情編集長め!
絶対話題になるはずの記事をボツにするなんて最低だ!!
「…とは言ってもなぁ…」
正社員にすらなれなかった俺は、記事が採用されないと給料が入らない。
ホテル暮らしもそろそろ厳しいところだ。
前回採用された動物系で攻めるか?
それとも夏だし観光スポット系?
いや両方ダメだ、同じような記事は期間を空けないと受けないし、観光スポットなんて他の記者にもう取られているだろう。
「うーーーん、捻りだせ俺!生活がかかってるんだぞ!!」
何かこう、インスピレーションみたいな物が降ってこないだろうか。
編集社の外なんて見慣れた景色しかないし面白い物なんてないんだがな。
炎天下の向こうで揺れるコンクリート、早足で去っていくサラリーマン、日傘に隠れながら歩く女性。
…何にもない。
「何にも、なーーーうわっ!?」
ヤケクソで叫ぼうとした時、一つのチラシが俺の顔に張り付いた。
…何だこれ。
「ざくろ町、シェアハウス…?」
下手くそなチラシだな…。
レイアウト以前に文字の入れ方すら下手すぎる。
それにどこだ、ここ。
ざくろ町なんて場所聞いた事もないし、xx県は田舎が多かったはずだ、どうせここも田舎だろ。
こんなところに行っていい記事なんて書ける訳ねーよ。
…でも待て!?
家賃一人あたり4,400円!?
安すぎるだろ!!
「…事故物件…だったり?」
だとしたらホラー記事としてネタになる、今は夏だから丁度いい。
金欠だから衣食住にも困ってた、ピッタリじゃないか!?
8月から即入居可能…明後日からか。
よし、これはもう問い合わせ先に電話しよう。
いいネタが見つかるに違いない!
「よっしゃーーーー!ネタ掴み取ったぞ!!!」
手続きはすんなり終わった。
異様な程にすんなり終わった。
今さらだけどなんか怖い。
…とりあえず荷物をまとめてxx県へ向かおう。
ネタが見つかり次第すぐ帰ればいい。
今はただネタが見つかりそうな事に感謝しよう、そうしよう。
7月30日 (金) 生野薫