出会いとはじまり
「いたいた。背もたれが長くて、黒い車体に、金色のドラゴンの模様。この手配書の情報と完全一致」
『マイ・スター。奴が動き出す前に捕えよう。距離は、約300メートル俺なら10秒で近づける』
あたり一面、荒れ果てた荒野。日差しが照り付けるそんな荒野に、銀色のバイクとその横で望遠鏡を覗き込む、ウエスタンハットの男。そう、俺はこの国の保安官。マニー・ハルビン。そして、この喋るバイクが俺の相棒、シルバー・バレット。シルバーって呼んでる。
今俺は、腐れ縁の女、メアリーから仕事の斡旋があり手配書の男を追っていた。報奨金は3000ゴールド。一週感はぜいたくな暮らしができる額だな。一人を生け捕りにするだけで、一週間安泰とは、保安官ながら、専属の町を持たない俺からしたら、助かる額だ。国からの支援金じゃ、ほかの保安官みたいな副収入を持たない俺には少なすぎるからな。
「それじゃ、行こうか。シルバー」
『ああ、マイ・スター』
俺は、シルバーにまたがり、エンジンを吹かして走り出した。風を割り目標に急接近、のはずが普通にエンジン音に気付かれ。目標の男もバイクのアクセルを握った。ものすごい爆音を鳴らしながら男のバイクが走り出す。
「気づかれた!」
『だが追いつける!』
俺がアクセルを握るより先に、シルバーがギアを上げ、アクセルを掛けた。
『操縦変わるぜ。銃を抜きな。マイ・スター』
「サンキュー。相棒」
俺は、腰のホルスターからマグナムを抜いた。そして、弾を抜いた。
生け捕りにするんだ、実弾はいらねぇ。魔力弾で気絶させる。俺は銃口を男に向ける。しかし、それに気づいた男も、銃口をこちらに向けてくる。先に引き金を引いたのは、男のほうだった。
バキュン、バキュン!
「かー、実弾かよ。彼方さんは殺す気だな」
『当たり前だろ、あいつからすれば、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ。必死に撃ってくる』
シルバーが弾の当たるすれすれで、弾をかわす。
俺たちは追いつき、男と並走する形となった。激しい打ち合い、俺が男の動きを読み、少し先に球を打ち込む。しかし、男はそれに気づき、減速し、俺の球をよけた。
「やる~」
『あいつもかなりのやり手だな』
「ああ、3000ゴールドは安すぎるんじゃないか」
打ち合いはもつれ込むように数分続いた。
この男、何かを狙っている?町からどんどん離れていく。潜伏先に向かっているのか?
そんなことを考えながら打ち合ている途中男が何かを取り出した。
「爆弾!?」
『あっぶね!』
シルバーがハンドルを切り爆弾をよける。しかし、巻き上がったのは爆炎ではなく、白煙だった。
「煙幕!?何がしたいんだ!」
『あのヤロー、ふざけやがって!俺がぶち殺してやる』
「まて、シルバー!おい」
シルバーが、男のバイクを全速力で追いかける。俺の声はどうやら届いていない。こいつは昔から、キレると抑えられなくなる。
シルバーがアクセル全開で男を追う中で、男はある一つの洞窟の前にバイクを止め、その中へと走っていった。
「どう考えても罠だ、さっきの煙幕、ここに誘いこむために・・・」
『関係ねぇ!俺が言ってぶっ殺してやる!』
「落ち着け!シルバー。俺が先に言って中を見てくる。危なくなったら呼ぶから、お前はここで待機して、中から出てきた奴を捕えろ。それが適作だろ?」
『確かにな。・・・分かったよ、それでいい』
俺は、シルバー落ち着かせ、洞窟の中へと入っていった。
どう考えても罠。この先に何か仕掛けがあることは明白だが、あの男がわざわざ洞窟の前にバイクを止めていたことから、自分からバイクで入ると、不都合なもの。つまりバイク用のトラップ。もしくはそれすらもフェイクで、バイクから降ろすため。・・・だとすれば。
「聡明にして、博識なる、白き聖人よその英知の一端を今ここに表せ。フラッシュ!」
俺がそう唱えると、あたりに白い光が波のようにい広がった。そう、これは魔法この国で広く認知される技術だ。体内、外界の魔力を呪文によって圧縮。放出することで様々な形へと魔力を作り替える。今俺は、あたりの微小な光を魔力とともに凝縮し、円状に放つことであたりを一瞬だけ明るく照らした。
「うあ!」
「うが!」
「目がっ!」
その光に照らされて。岩陰に隠れていたであろう男・・・達が姿を現した。岩陰から数十人の男たちが片目を抑えながら次々立ち上がる。
「やってくれたなてめぇ。この落と前しっかりつけてもらうぞ!」
「あら、これはちょっとまずいね」
男たちが、俺に一斉に銃口を向ける。一瞬で囲まれてしまった。どうしたものか・・・。ここは。
「な、なにしてやがる?」
「降参だ」
「な、何だと!?こ、降参!?」
「ああそうだ、どうしたら俺を生きて返してくれる?」
俺は、腰の銃を床に落とし、両手を上にあげていった。
すると、男たちの中の一人が、声を上げ割り始めた。
「ガハハハ!いいぞ、そのままだ!おいお前ら明かりをつけろ。もっとはっきり見たい」
男がそういうと、周りを囲んでいた男たち数人が壁のたいまつに魔法で火をつけていく。みるみるあたりが明るくなり、男たちの風貌が明らかになる。なんと、男たちの服は、先ほどまで追っていた男の服と全く同じだったのだ。
「メアリーのやろー騙しやがったな。・・・一人なんかじゃねぇじゃねーかー!」
「うるさいぞ、叫ぶのは死に際の断末魔だけにしな!お前ら、銃を構えろ、俺たち、ハロンド盗賊だにたてついたこと後悔させてやれ!」
「「アイアイサー!!!」」
男たち、が一斉に引き金に指を掛ける。
「おっと!少し待ってくれ」
「なんだ」
「最後なんだ、ひとこと言わせてくれ」
「なんだ?命乞いか?」
「いや、・・・シルバーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
俺の叫びに応え、洞窟内に低いエンジン音が響き渡る。ヘッドライトの白い光が洞窟を照らし、風を割り、男どもを蹴散らし、銀色のバイクが走ってきた。
『おせぇぞ!相棒』
「悪い。・・・やるぞ、シルバー」
『ああ、全員』
「俺たちの」
『「財布に収まりな!」』
俺は、あっけにとられる、盗賊団の連中をしり目にマグナムを拾い上げる。実弾を込め銃口を男たちに向ける。
「シルバー!」
『おう!』
「変形だ!!」
俺がそう叫ぶと、シルバーの車体が青白く輝き、前後輪が二つに割れた。前輪は腕へ、後輪は足。エンジンを中心にぱたぱたと変形していく。最後にフロントライトが回転しながら胸に、降りてくるのと同時に頭部がせり出し、エメラルドグリーンのバイザーが青白く光るツインアイを覆い隠した!
『変形完了!シルバー・バレットカウボーイモーーーードッ!!』
「忘れもんだぜ。シルバー」
俺はかっこつける人型となったシルバーに、白いウエスタンハットを渡す。
『おっと、これは失礼。・・・よし、それではもう一度・・・』
「ふ、ふざけんな!!お前ら、数じゃこっちの有利は変わらねぇ、全員で囲んで穴だらけにしてやれ!!」
盗賊達は、あっけにとられながらも銃を構えなおした。
俺とシルバーは目配せして、盗賊達が引き金を引く瞬間即座にしゃがみこみ盗賊数人の足首を打ち抜いた。ぐらりと倒れこむ盗賊達の後ろから新たな銃口が現れる。俺とシルバーはそれぞれの腰のホルスターに入っていた二丁目のマグナムを抜き合い、盗賊達の銃を握る腕を打ち抜いた。
その間わずか数秒。あっという間に盗賊達は銃を落とし、悶絶し、その場に倒れこむ。
「ふー、いっちょ上がり」
『案外楽勝だったな』
「ああ、あのバイクに乗っていた男もこの中にいたのか?」
『確かに、俺たちと渡り合った男がこんなにあっさりやられるとは思えんが・・・』
いぶかしげに思いながらも俺たちが、倒れた盗賊達から銃を取り上げようとした時だった。
洞窟の奥の暗闇から、盗賊団と同じ服を着た男が現れた。
「なわきゃねぇ。こいつらは俺のただの駒よ。だがそうだな、俺の駒を壊したお前らは目障りだ。死ね」
そう言い放つと男は後方に手を回し、ガトリングガンを引っ張り出した。
ガトリングガンはフルオートで全弾に所有者の魔力を込め続ける使用上、威力は高いが、それを使うためには膨大な魔力が必要となる武器。あの男にそれだけの魔力があるのか?
「死ね」
『マイ・スター!!』
「シルバー!?」
男が引き金を引く瞬間、銃と俺との間にシルバーが割り込んだ。ものすごい轟音と硝煙で前が見えない。
「ふっ、いくら金属製の装甲といえどガトリングガンをはじけるわけがない。弾が貫通し、後ろの男まで死んだか。まったく無駄なことだ」
『プシュー』
「!?」
白い硝煙の中から、青白い光がぼんやりと浮かび上がる。硝煙が晴れたその場所には、傷一つないシルバーの姿があった。フェイス部分か、白い煙を吐き出し、腕をクロスさせるシルバーの姿を見て、男は度肝を抜かしていた。
「な、なぜ。効かない!?」
『てめぇ、チキッたな。ガトリングに込める魔力を調整しやがった。その程度の威力じゃこの俺の体に傷一つつけることは出来ねぇぜ』
「ちょ、調整だと!?そ、そんなはずは、俺は確かにバルブを全開に・・・」
「バルブ?」
弾を打ち切ったガトリングガンを放置して男は、走って、洞窟の奥へと走っていった。ガトリングガンにつながれた太いバルブ。これが男の言っていたものか。いったいどこにつながっている?いやな予感がする。
「追うぞ、シルバー」
『わかってる』
俺たちは、男を追い、洞窟を置く絵と進んだ。洞窟はいくつかに枝分かれしていたが。ガトリングからつながれたバルブはい直線だったので、迷うことはなく俺たちは洞窟内の開けた場所へとたどり着いた。
「こ、これは!?」
『魔力、カプセル』
そこには、青く輝く液体が中に入った1メートルほどの高さのカプセルがいくつか並んでいた。魔力とは、物質ではない。空気中に分散し、生命の体内で製造される。いわば生命エネルギーその物。それが液体状で、それもこんなにたくさん。
「一体どういうことだ」
『マイ・スター!』
シルバーに呼ばれ、振り返ると、そこには先ほどまで追っていた男が腹を引き裂かれて絶命していた。
見開かれた目に浮かぶ涙から相当驚いたのか。揉み合った形跡はない、一瞬でやられた。それにこの傷口、かなりの手練れだ。暗殺を生業とする物の仕業。
「足がつくような殺しはしないか・・・」
『マイ・スター。このカプセルはどうする』
「たたき割るぞ。なんだか、きな臭い、この件少し調べてみるか」
俺とシルバーは、カプセルをたたき割った。すると青い液体はすぐに気化し跡形もなく消え去った。
やはり、魔力を液状化させていたか。しかし、いったいどうやって。魔力の物質化なんて聞いたこともないぞ。そのあたりも、この件のきな臭さを増強しているな。
「さてと。うんじゃ、こいつら全員、換金しに行きますか」
『お前ら死ぬんじゃねえぞ。死んだら、賞金半分なんだか』
「う、うう」
俺たちは、洞窟から、盗賊達を引きずり出し縄でくくり、バイクモードのシルバーに括り付けて運ぶことにした。市中匹釣り回しってな。
バンッ!
「報奨金は渡せないってそりゃどういうこった!確かに、手配書通りの男たちを捕まえてきただろうが!」
俺たちは近場の町の、換金所で男たちを換金しようとしたのだが・・・、報奨金は、3000ゴールドしか渡せないと言ってきやがった。数十人は居るんだ。一人、3000ゴールドだとすれば、もっと言ってもいいはずなのにだ。
「ですから、こいつら全員で3000ゴールドなんです。手配書の下にも書いてあるでしょう。複数ですって」
「ふざけんな俺の手配書にはそんなこと・・・て、あれ」
「破れてますね、人数のところだけきれいに」
「メアリーのやろう」
俺がメアリーから渡された手配書と、役場の男が持ってきた手配書を見比べるときれいに人数のところから下が切り取られていた。これは、メアリーからもらった手配書で、つまりは全部あいつの仕業。確かに、最初は一人だと思って、受けたけど。この人数連れてきて、銃の弾まで使って。3000ゴールドじゃ、大損じゃねーか!
ガクッ
荒野特有の風に吹かれ、3000という、弾代に溶けるような額をぶら下げ。換金所からとぼとぼと出てくる俺を待っていたかのように、金髪の女が俺に話しかけてきた。
「仕事どうだった?」
「ふざけんな!てめぇのせいでほぼ無駄足だ!この野郎」
「ちょ、怒んないでよ仕事斡旋してやっただけでも感謝しなさいよ。それと、情報量の2割早くよこしなさい」
「ふ・ざ・け・る・な!!これは俺の金だ!撃っちまった弾を補充するために使うんですー」
「何よそれ、約束と違うじゃない!」
「約束~。そんなの手配書に細工した時点でパーだパー。おとなしく金は自分で稼ぐんだな」
「ケチ!」
「ケチじゃない!」
頬膨らませる、その女はかなり大きめな胸をさらけ出すようなファッションで、かなり色っぽい。そんな恰好で胸をグイっと前に押し出し俺に主張する。しかし、俺は知っている。
「俺に色目を使っても無駄だぞ」
「なんでよ?」
「だって、お前。かわいい女にしか興味ないじゃん」
「ちっ」
メアリーは舌打ちすると、くるりと身をひるがえしてその場を去っていく。そんな彼女を、咄嗟に引き留める。
「ちょっち待って。魔力の形状固定についてなんか聞いたことあるか?」
「魔力の形状固定?そんなの無理に決まってるじゃない、魔法を使うものなら常識じゃない」
「だよな・・・」
「何よ?儲け話・・・私にも一枚かませないよ」
「無理」
俺は、にっこり笑って断った。彼女は、また舌打ちをするとすぐんその場を去っていった。
『魔力は根源的なものであり、物質のように定義できない』、昔の学者、ウィルバー・ハウクス著『魔力根源論』の一説だ。この世界ではそれが通例となり、それを否定した論文はことごとく否定されてきた。もしあの液体が魔力そのものではないとすれば、濃密な魔力をため込める物質。そんなもの聞いたことない。どちらにしろ、この件はかなりきな臭い。
俺は、駐車場のシルバーのところに向かった。すると・・・
「久しぶりだな!シルバー」
『ああ!もう何年ぶりだ?テリー』
駐車場で、シルバーと大柄の男が話し込んでいた。あの男は・・・
「おお!マニー!久しぶりだな!」
「珍しいな。アンタがこんなとこにいるなんて」
この大柄の男は、南部の保安官。サンボ・テリー。端的に言えば動いてしゃべるサボテンだ。今俺たちがいるのはこの国の東部だから、別の地区の保安官がいるのは珍しい事だ。
「ああ、最近どうもきな臭ぇ、話を聞いてな」
「!?それって」
「ああ、各地で爆増するサボテン泥棒だ!」
ガクッ
「なんだよそれ!」
「なんだ知らんのか?各地で、サボテンが取れなくてな。数少ないサボテンを盗む輩が増えているって話だ。同じサボテンとして見過ごせねぇってことで、俺が出張ってきたわけ」
全く関係ねぇ。この人はいったい何やってんだ。この人は昔からこういう人だな。サンボとの付き合いは、俺が保安官になったばかりのころだ。新米だった俺に手取り足取り仕事を教えてくれたのが、サンボだった。彼は俺の中での、理想の漢像だ。ものすごく腕が立つがかなりの変わり者で有名だ。
「それで?お前たちはどうする?」
「俺たちは少し気になることがあって・・・」
「事件か・・・。何も言わんということは、お前の感か。お前の感はよく当たる、だが、感覚だけでの先行は身を亡ぼす。お前らは、二人とも突き進むと止まらんからな・・・。シルバー、いざとなったらお前が止めるんだぞ」
『ああ、もちろんだ。俺たちは最強のコンビだからな』
サンボは、シルバーの言葉を聞きふっと笑うと、自分のバイクにまたがりエンジンをかけた。低いエンジン音の中でサンボがふと振り返り俺に言った。
「お前、これから中央に帰るんだろ?なら、西部に向かいな、お前の知りたいことはきっとそこにある」
「西部か・・・」
「んじゃ、あばよ!」
そう一言残すとアクセル全開でその場を去っていった。
西部か。この国は大きく分けて五つの地区に分けられる。一つはこの国の中央都市、政府に今は空だが王朝がある。そして、そこから放射状に延びる四本の城壁。それぞれ、方角に合わせて、北部、南部、西部、東部。の五つで構成される。そしてそれぞれに保安官が一人づつ、そして俺は、中央の保安官だ。だが、中央とはいえ中央の自治は政府が行うので、俺は政府からの命令で、視察の名目で各地を回っている。
「西部か、十年前の戦乱から開拓がやっと再開した地区だな」
『どうする、マイ・スター』
「サンボの言うことだ、何か裏があるだろうが、あるんだとしたら、奴なりの依頼ということだろう。何かあれば、しっかり請求するさ」
『だが、まぁまずは中央に戻ろう。残弾が心配だし、さっき剝ぎ取った盗賊達の弾丸はどれも口径がばらばらだったし。合わないからな』
「んじゃ、まずは帰宅ってことで。行くかシルバー」
『ああ』
俺は、シルバーにまたがりエンジンをかけた。白い廃棄ガスを吐き砂埃を合上げて広い荒野を駆け抜ける。
俺が中央に着いたのは走り出してから一晩を過ぎたころだった。日が落ちかけ茜色に染まる空の下、俺は自分の母屋のソファーに横になっていた。そんな俺に、人型に変形し、エプロンをつけたシルバーが聞いてくる。
『マイ・スター。報告はしに行かなくていいのか?』
「また明日だ、今日はもう遅いしな」
俺は、顔の上に帽子をかぶせより深い眠りへと向かおうとしたその時だった。コンコンと扉をたたく音が聞こえた。
『誰だ?こんな夜遅くに』
「どうせ、大家のおばちゃんが家賃の催促に来たんだろう・・・たく、お金はありませんよ~、と」
俺は、けだるそうに玄関のドアを開けた。しかし、そこに立っていたのは満70を迎えるであろう大家のおばちゃんではなく、きれいなブロンドの髪を肩まで伸ばした美しい少女だった。
「ど、どちら様?」
「ここに、保安官のマニー・ハルビンさんがいらっしゃると聞いたのですが?」
「ああ、俺だけど」
「は~、よかった。折り入ってお願いしたいことがありまして」
「お願い?」
「はい、お爺ちゃんを探していただきたくて」
「あ~・・・、とりあえず中入る?」
俺は彼女を家の中に招き入れ、ソファーに座らせ話を聞くことにした。
『はいどうぞ、熱いから気を付けて飲みなお嬢さん』
「ど、どうも」
シルバーが、少女の前のテーブルにティーカップを置いた。シルバーの異様な風貌に少し戸惑う少女を見て少し懐かしく感じた。なぜだろうか、この子を見ていると心が安らいだ。
「で、さっきの話だけど。お爺ちゃんを探してほしい。だっけ。そのおじいちゃんの居場所に心あたりとかは?」
「それが、去年の夏あたりに中央に行くと言って出ていったきりでして。手掛かりになるかわかりませんが、おじいちゃんが家を出る前に私に渡してくれたものです」
彼女はそういうと、カバンから一枚の写真を取り出した。
「こ、これは・・・君、この写真が何なのか知っているか?」
「い、いえ。この写真におじいちゃんが写っていること以外は・・・」
彼女はそういっているが、この写真は、10年前の戦乱の前の王朝の写真だ。そしてこの中の初老の人が彼女の祖父だとすれば、彼女は王朝の生き残り・・・。
この国の体制が揺るぎかねない。この国は10年前の戦乱時、戦いの中で王朝の崩壊があり。王族の血はそこで途絶えた。そして、混乱したこの国をまとめ上げ、今のこの国を作り上げたのが、ビル・ラビットだ。しかし、安定したはずのこの国の政治。しかしその中でも、旧王朝派は力を持っている。このことが、旧王朝派に伝われば、政治の混乱は避けられない。最悪の場合あの戦乱がもう一度・・・。
「少し、考えさせてくれ」
「は、はあ・・・」
俺は、席を外し自分の部屋に戻った。彼女から受け取った写真をもう一度眺める。初老の男性を中心に高貴な衣装に身を包んだ、人々が並んでいた。そしてその端に・・・
「ビル?なぜ、彼が。彼は王朝の人間?どういうことだ、彼は平民の出だと言っていた。どうなっている。政治問題はごめんだ・・・」
謎の魔力に、政治問題。いったいどうなっている。それより、彼女はなぜ俺を頼ってきたのか。聞かないといけない。
俺は、部屋の扉を開け彼女に声を掛けようとした。
「なぁ、君は何で・・・」
『しー、もう寝てるよ。疲れていたんだろうな』
俺の声を遮るように、シルバーが指を立て小声で俺に言う。
『何かあったのか?』
「ああ、ちょっとな」
俺はシルバーにこのことを話した。
『なるほどな、ビルは何かを隠しているということか・・・』
「ああ、だから明日それについても聞いてこようかと」
『いや、それはよしたほうがいいかもしれない』
「なぜ」
『よく考えろ、王朝の血が根絶されたと提言したのはビルだ。そんな彼が、民衆に隠して王朝とかかわりを持っていた。そして、今の政治の中心は彼だ。何かおかしいと思わないか?彼女の存在を彼に伝えるのは危険だ』
「ビルのしたことが未知数な以上、軽率な行動は危険ということか」
『そうだ』
彼女の存在は隠したほうがいいな。
その日は、そういうことで話をまとめ、俺も床に就いた。しかし、彼女の言っていた祖父を探してほしいという依頼はどうしたらよいだろうか・・・。
ーーーーーーーーーーーーー
翌日、俺は彼女をシルバーに任せ、一人、ビル・ラビットへの報告に来ていた。町の中心に佇む大きな塔を見上げ、てっぺんに輝く太陽の光に目をくらました。
「なんでこんなに高いんだか・・・」
そんなことを言いながら俺は建物の中へと足を運ぶ。白を基調にした美しい内装。塔の中は屋根まで続く吹き抜けで最下層のこの回まで太陽の光が届いていた。俺は最下層フロアの中心にある受付に要件を言い、ビルの部屋まで上がった。最上階大きな木製の扉をノックする。
「マニー・ハルビン。報告に来ました」
「入ってくれたまえ」
俺の、言葉に扉越しに優しい声が俺に、部屋に入る許可を出す。
扉を開き俺が中に入ると。ものすごい煙った空気が充満していた。
「けむ、窓開けますよビルさん」
「ああ、すまない。最近はこの部屋にこもりきりでな」
俺は、窓際に机を置き窓を背にして座る長い青髪を後ろで結んだ男。ビルの後ろの窓を開ける。
ビルは、持っていた資料を置き、俺に向き直り報告促した。
「といった感じで、東部の町並みはほぼ復興が終わっています」
「それはよかった。戦乱からはや十年。私の政策が実り始めたな・・・」
ビルは、肩の荷が下りたかのように椅子にもたれかかり微笑んだ。俺にはこの人に何か裏があるようには思えなかった。しかし、シルバーとああ決めたのだから、今回は彼女の話は無しだ。
「あの、ビルさん」
「なんだ?」
「ビルさんは、魔力の状態固定をどう思います?」
「状態固定。それはハウクスの『魔力根源論』の否定かな?」
「いや、まぁそんなとこです」
ビルは、微笑むと。淡々と語り始めた。
「魔力とは、根源的なものでありほかの物質の干渉を一切受けない。そう提唱したのがハウクスだが、私は一概にそれが正しいとは考えていない」
「!?、それはつまり・・・」
「魔力の状態固定、というよりも。魔力の貯蔵は可能であると私は考えている。・・・君は、1705年の、『サリの結晶化病』を知っているかな?」
「『サリの結晶化病』確か、村の人間の大半が体のいたるところに結晶が生じ、最終的には体すべてが決勝となり、消滅したという奇病ですよね。ですがなぜ今それを?」
「あの病気における結晶。私はそれが、人間の体内から放出魔力の塊だと考えている」
「まさか、そんなことが。それではハウクスの話が全否定されます!」
「ハウクス画論を提唱したのは1700年それから、彼の意見を否定する派閥は多数の実験を行った。私はこの奇病はその実験の一つの成功例だとみている」
「そ、それは、つまり・・・」
俺は生つばを飲み込み、頬に冷たい汗が垂れた。
「彼ら、否定派は人体実験を通して彼の論を否定したんだよ」
「人体実験・・・。で、でも。たとえ人体実験であるとはいえ否定された論がいまだに血称されているんです!」
「もみ消したのさ、国とハウクスがね。ハウクスはすぐに気づいたのさ、魔力の貯蔵ができるのならば、魔力の使えない身分の低いものでも魔法が使えるようになるのではないかとね。・・・君も知っているはずだこの国の王朝が健在だった時の国家体制を。魔法を扱えるものが優遇され、魔法を使えないものは迫害された。この国にとって、魔力の有無がすべてだった」
「それに対しての怒りが積もり積もって、民衆による反乱、十年前の戦乱が起こった」
「ああ、今思うとなぜ民衆は200年も続いたあの体制に急に盾をついたのだろうね。そして、無謀と思われた反乱は民衆の勝利で幕を下ろした。可笑しいと思わないか?なぜ、民衆つまり魔法が使えないものが、魔法を使えるものに勝てたのか」
「それは、戦乱の中m王族が殺され、王朝側が混乱したから・・・。いや待てよ、時は戦乱のさなか、王族に反旗を翻しかねない反乱分子もしくはそれに準ずるな外部の者を宮中に招き入れた?いやあり得ない。まさか、王族内での争い・・・」
そうか、王族内での争いがあり。それに勝利したビルが国のトップになったというならばあの写真の説明はつく。・・・だが、なぜビルは平民の出だと嘘をつく。平民によるさらなる反乱を抑えるため?だがなぜ俺たちは、ビルの顔を知らなかったんだ?それに、なぜこの現状をすべて知っているはずの旧王朝派の政治家たちは黙ってみているだけなんだ?おかしなことばかりだ。
「マニー、君に次に行ってほしいのは西部だ」
「へ、せ、西部ですか?」
「ああ、何か問題があったかね?」
あまりにも急な切り出しに、俺は戸惑ってしまった。しかし、これは少し好都合だ、サンボに言われた通り西部に調査に赴ける。ビルの名であれば怪しまれることもない。
だが、これは都合がよすぎる気もする。この男何が狙いだ。
「問題ありません」
「うむ、では頼んだよ」
俺は、ビルからの新たな任務を受けその部屋を後にした。
ビルの考えていることはわからない、だが今は西部での魔力の貯蔵に関する件を追う。あの奇病から考えると、何が行われているかあらかた見当がつく。最悪なことだ、早く辞めさせる必要がある。
ーーーーーーーーーーーーー
「ただいま・・・って!?何してるの?」
「お帰りなさい、マニーさん」
俺が、家に帰るとそこではシルバーのピンク色のエプロンを着た少女が台所に立っていた。
俺は、ソファーに座り少女を眺めているシルバーに駆け寄り、もう一度同じ質問をした。
「シルバー、彼女は何を?」
『料理だそうだ』
「りょ、料理だと・・・あれが?なんか紫の煙出てるけど」
『いやー、俺は楽しみだぞ。いつもお前が作るむさくるしい男飯ばかりだったからな!彼女家庭料理には自信があるそうだ!』
「聞けよ!人の話!あれはどう考えても毒の塊だぞ。ほら見ろ!あのお玉、この前買ったばかりなのにもうすでに溶けてきてる!・・・溶けてきてるッ!?」
そう、お玉はまるで、夏の日向に置いた氷のように徐々に解けていた。そしてついに・・・ちゃぽん。
鍋にお玉の先が落ちていった。
あ、俺死んだ。
「はーい、できましたよ!」
「わーい、オイシソウ」
『マジで!うまそうじゃね!』
スンスン、と目の前に置かれた紫色の液体の香りをかいだ。あ~これが死の香りか。シルバーに味覚は無い。今だけはそれがうらやましい。いや待て・・・お玉すら溶かすこの劇薬、さすがのシルバーも取り込んだらやばいんじゃ。そう、シルバーには体内に取り込んだ食べ物を魔力に変える機構が備わっている。だから食事ができる。のだが・・・。
『ピーピー、緊急事態発生。体内に異常を検知!!これより自動修復機能を起動します。再起動まで30分ほどお待ちください』
けたたましい警報音を鳴らしながら口から黒い煙を吐くシルバー。機械でこれなんだ、人間が食べたらどうなるんだ!
「うふふ。シルバーさん。私の料理おいしく食べてくれたみたい」
「えぇ、どこがですか・・・」
「家では、誰も食べえてくれなかったので・・・」
「でしょうね」
「何か言いました?」
「いえ、何も」
生つばを飲み込み覚悟を決める。・・・やっぱ無理!なにか、話題を変えないと。どうにかしてこの劇物を回避しないと。・・・何か、何かないか・・・あ、そういえば。
「そ、そういえば。名前聞いてなかった」
「あ~そうでしたね。私の名前は、シンディー・ロー。シンディーと呼んでくださいね」
「シンディー。そうか、いい名前だ」
会話が止まった。不味い何か、なんか別の話を。額に冷や汗が滴り、スプーンを握る手が震える。
「さぁ、早く食べないと冷めてしまいますよ」
「あ、ああ、ソウデスネ」
覚悟を決めろ!ここが正念場だ!漢マニー・ハルビン!根性見せます!
「いただきますッ!!」
俺はスープをスプーンで撮り口へ運ぶ。・・・うぐ、こ、これは・・・以外に・・・あ、・・・無理でした。
バタン!
俺は、スープを一口食べた瞬間その場に倒れ伏し、気を失った。俺はその一瞬、確かに地獄を見たよ。
ーーーーーーーーーーーーー
「はっ!・・・はーはー。生きてる!」
俺は目を覚ますと、汗だくになっていた。体が、完全に拒否反応を示すってやつか。いったい何をしたら、食材から劇物を作れるんだ。
シルバーは未だに機能停止中。そしてシンディーはというと。
「自分で、食ったのか・・・」
白目をむいて、ぶっ倒れていた。息はあるが、自分の飯を食って瀕死って・・・。これまでどうやって生きてきたんだ。
「?・・・なんか、体が軽い。疲れが吹っ飛んだみたいだ。・・・はは、すごいな」
味は最悪だが、体に良い?まったく。素直に攻められんな。これ、売り出したら儲けが出るんじゃないか?臨死体験と体の超回復を味わう激やば料理、なんてね。絶対、怖いもの見たさのゲテモノオタクが来るだけだな。
この子は、おじいさんを探しているといっていた。しかし、おじいさんがこの中央に来たということは、ビルに会いに来たのだろうか?だが、ビルがもし王族を取り逃したとして、それがのこのこ戻ってきたんだ、殺すだろうな。だがなぜ、おじいさんは、わざわざ戻ってきたんだ?・・・何か大事なことを見落としている気がする。
だが、とりあえず、シンディーはビルから隠さないと危ないな。時間稼ぎにしかならないが、西部に連れていくか。少なくとも中央をうろつかせるよりは安全だ。・・・彼女に、ビルのことを伝えるべきだろうか?いや、彼女は王族内であったであろう争いを知らない。無理やり、つらい現実を教えても混乱するだけか。
「はっ!私はいったい何を・・・」
「やっと起きたか?」
シンディーが目覚めたのは俺が起きた30分ほど後だった。頬を滴るよだれをぬぐい目をこする。ずっと白目をむいていたんだ、眼球もカラカラだろう。
「これ使いな」
「ど、どうも」
俺はぬるま湯で温めたタオルを渡した。彼女はそれを目に当てソファーにもたれかかった。さて、そろそろ本題に移ろう。と、その前に。
バンッ!
「起きろシルバー」
俺は、シルバーの頭を拳で小突いた。
『ピピピピ、再起動開始・・・・・・・ロード完了。・・・あ~、死ぬかと思った』
「シルバー、お前にも話だ。新しい仕事についてだ」
俺は居るバーをたたき起こすと、シンディーの名前伝え、話の本題へと移った。
『仕事・・・俺たちはこの後西部に行くんだろ?それなのに新しい仕事なんて引き受けてよかったのかよ』
「その仕事が西部の視察なんだ。俺たちとしても、ビルのお墨付きがあれば動きやすい。そうだろ」
『確かにな』
シルバーが腕を組みうなずいた。しかし、すぐに何かに気付き声を上げた。
『いや待て、彼女からの依頼はどうする?』
「あ、いいんですよ。無理を言っているのはこちらなのですから」
シルバーの発言に、すかさずシンディーが割って入り遠慮したようなことを言う。それに対してシルバーがシンディーに向き直り諭すように言った。
『お嬢さん、依頼はあんたのほうが先だ。仕事は入った順でこなすのが俺たちのジンクスなんだよ』
「その件だが、すぐに探すのは難しい。俺が調査を依頼してきた、西部から戻ってくれば情報も出そろうだろう」
もちろん嘘だ。こんなことをすれば、ビルに気付かれかねない。中央から離れシンディーをビルから遠ざける。そのためには西部に連れていくほかない。彼女がそれを了承するだろうか・・・
「そうだったんですか、重ね重ねなんとお礼を言ったらいいか」
「そこでなんだが、シンディーこの後行く当てはあるのか」
「はい、このあたりで宿をとって私も探そうかと」
「そうか?このあたりの宿は高いぞ~。それに夜は治安も悪いし君みたいな美しい女性一人で出歩くには少し危ない街といえるんじゃないかな。な~シルバー」
頼むシルバー話を合わせてくれ。俺は隣に座るシルバーに熱いまなざしを送った。
『そうか?夜も別にッ!!』
俺はシルバーの脇腹に肘を入れ小声で話しかける。
「シルバー、彼女をこの町で一人にする気か。俺が何のために、探させているなんて嘘をついたと思う」
『あっ!?すまん、マイ・スター。だがどうする気だ』
「あの子を、西部に連れていく」
『わかった、話を合わせればいいんだな』
「よろしく頼む」
俺たちの、姿にシンディーが不思議そうに首をかしげる。
俺は咳払いをして話を本筋へと戻す。
『あ~、この町は危険すぎるからな。・・・だが、何かいい手があるのか。マイ・スター』
「それなんだが、どうだ。シンディー俺たちと西部に行かないか」
俺とシルバーはかなりわざとらしく話を振った・・・。シンディーは俯きプルプルと体を震わしていた。
まずい、怒らせてしまったか!
「す、すまない!!そうだよな、急にそんなこと言われても困るよな。すまない!これはあくまで、一つの案だから。考えてくれればいい!」
「西部・・・西部・・・!」
バンッ!!
「!?」
「行きます!行かせてください!」
「へ、良いの!?自分で言っておいてなんだが、おじいさんのことは?」
「確かにお爺ちゃんのことは心配ですけど、お爺ちゃんが家を出ていくとき私にあの写真のほかにもう一つ、「自由に生きろ」そういって出ていったんです。今まで、、無意識的におじいちゃんの背中を追ってきましたけど、私自由に生きてみたいんです!」
俺は彼女の熱意に脱帽した。彼女は目をキラキラさせて俺の目の前にずいっと顔を出していた。
「そ、そっか。なら、話は決まったな。シルバー西部に行く準備をするぞ」
『あいよ!マイ・スター。・・・だが、なにで行く。俺の後ろには二人乗れんぞ』
「ああ、汽車で行く」
『汽車!!』
「汽車!!」
シルバーとシンディーが目をキラキラさせて俺に顔を寄せてくる。
『汽車!なんていい響きなんだ!』
「そうですね!シルバーさん!私、人生で一度は汽車に乗ってみたかったんです!!」
『あの重厚感のある黒い車体』
「まき散らす、白い煙」
『「まさにロマンの塊!!」』
テンションが高い二人にあっけにとられる俺。確かに今汽車が通っているのは中央西部間だけだ。確かに、ただ生活しているだけじゃ西部に住んでいない限り汽車には乗るはずないか。
しかし、これほどまで喜ぶとは・・・。
「さて、汽車の話はここまで。旅の準備をしよう」
「準備ですか?・・・あ!食料とか!」
「いや、弾丸だ」
「だ、弾丸・・・、何か、物騒ですね」
「西部は、発展してはいるが治安は最悪だ。身を守るためにはな・・・だが、旅は旅だ!何か欲しいものがあったら何でもいいな!」
「そうですよね!あくまで護身用ですよね」
少し重くなってしまった空気を振り払い。旅の準備を開始した。
まずは、シルバーの整備からだ。
「オヤジ~、居るか?」
「をー、マニー、いつ戻ったんだ?」
「つい昨日だよ。そんで、今日も今日とてシルバーのメンテ頼むわ」
「おいおい、こっちにも仕事はあるんだぜ」
「いいじゃんかよ~、俺とオヤジの中でさ」
「は~、で、いつまでに終わらせてほしんだ?」
「今日中」
「今日中!!」
街の中にある、ガレージに顔を出した俺たちは。鉢巻をまいた初老の男性にシルバーのメンテナンスを依頼しに来ていた。オヤジはなんだかんだ言って、何でもやってくれる。今も。溜息を吐きながらも、シルバーの装甲を外して、内部のメンテナンスをしていた。
「お、おい!いったい何喰わしたんだ?魔力変換機構が丸焦げだ」
「あ~、ちょっとね」
「お前!機械は丁重に扱えって言ってんだろ!機械の中身は人間より繊細なんだよ!」
「だから!俺じゃないって!」
「じゃ~、誰がやるんだよ!」
「ん!」
「あん!」
俺は、無言でシンディーを指さした。
「あの子が何をしたって?」
「あの子の作る料理は劇物だ。俺とシルバーはそれ食って臨死体験を味わったんだ」
「なんだその悟った様な目は・・・、まさかガチなのか?」
「だからそうと言うておろうが。アンタも食うか?頼めば喜んで作ってくれるぞきっと」
「いや・・・やめとく」
オヤジはシルバーに向き直り、カチャカチャとまたいじり始める。そして、しばらくして口を開いた。
「ざっと、3000ゴールドだ」
「高すぎやしないか?」
「まさか、オイル差しで500、変換装置の交換で2500。相場通りだ」
「は~、あんたは値切っても聞かないからな・・・。ほらよ」
俺は、懐から前回もらった報酬袋そのまま手渡した。
「まいど」
「どのくらいかかる?」
「一時間チョイってとこだな」
「んじゃ、後で向かいに来るよ」
俺はシルバーを置いて、シンディーを連れてガレージを後にした。
さて、次は軍資金を集めに行くか。その方法は・・・
「マスター。売りに来たぜ~」
「よう!マニー。なんだ、その嬢ちゃん?拉致って来たのか?」
「なわけあるか!それより、声いくらで買ってくれる?」
俺はカウンターにどっさりと銃の弾と銃が入った袋を置いた。これは、あの盗賊達から巻き上げた弾丸と銃だ。こういうのが俺の副業ってことになるのかな?マジでしょっぺえ話だ。
「ま~、質はいいとして。一発1ゴールドってとこだな」
「安すぎね?」
「こっちだって、商売だ売値と同じ額じゃかいとれねぇ」
「ここ一発、5ゴールドだろ。せめて2!」
「は~分かったよ。銃は一丁500な」
「マスターの太っ腹!」
「ほめても何も出ないぞ」
しばしの沈黙、マスターがカウンターの上で弾丸をサイズごとに仕分けていく。俺は、カウンターに寄りかかり、店の外で野良猫と遊ぶシンディーの姿を見ていた。
「・・・また長旅になりそうか?」
マスターがおもむろに口を開く。
「ああ、場合によっちゃあ、もう帰ってっこれねぇかもしれねぇ」
「俺は、お前がこの町に来た頃から知ってる。お前がどう思ってるかは知らねぇがな。俺は、この町はお前の親だと思ってる。孤児で、身寄りのなかったお前を、町のみんなで育てたよな・・・」
「ああ、感謝してる」
「でも、みんな考えてた。実の息子のように育ててきたお前も、いつかは町から出ていく時が来るって。だが、忘れんな。皓がお前の故郷だ。汚ねぇし、クズばっかだけどよ、俺たちは、お前をずっと待ってるよ」
瞳から、涙が頬を伝っていく。
「なんだよ急に。一生の別れでもあるめぇ。分かってるよ・・・帰ってくるよ」
俺は小さく、うなずいた。そしてまた少しの間の沈黙。この静かな店の雰囲気はずっと変わらねぇ。俺がガキだったころから。店主は変わったが、店はずっとこのままだ。ほこりかぶって、薄暗くて火薬と酒の匂い。俺の、故郷の匂いだ。
「さて、査定終了。弾丸は一律2ゴールドで、1535発。銃は7丁で3500ゴールドだ」
「そっから、6mmの弾丸400発分引いて」
「まいど、しかしお前もニッチだよないまどき6mmたぁ」
「俺もシルバーもこいつが手になじんでてね」
マスターはふっと笑うと、棚から弾丸の入った箱をいくつか取り出し、金の入った袋を差し出した。
「行ってこい」
「ああ、行ってくる」
俺はそう答えると。店を出た。
「ごめん、待たせた」
「いえ、猫ちゃんと遊んでましたから・・・バイバイ」
シンディーが抱いていた猫を下ろし、てをふった。
そろそろ一時間、シルバーを向かへに戻るか。
俺とシンディーはシルバーを預けたガレージに戻った。そこには」、人型になり体の節々の動作確認をするシルバーの姿があった。
「どうだ、相棒」
『ああ、相変わらずの仕上がりだ』
「さすがは、オヤジだな」
「けっ、次からは仕事は前日に予約しに来るこった・・・。長旅になりそうか?」
『何新規くせぇ面してんだよ。すぐに帰ってくるさ。なあ、マイ・スター』
「ああ、安心しろオヤジ。すぐ帰ってくる。心配してくれてありがとな」
「けっ、心配だぁ?誰もしてねぇつうの」
俺たちに背中を向けるオヤジの背中はいつもより小さく見えた。あんなこと言って、俺たちのことを心配してくれているんだな。ホント、この町は俺たちの故郷だな。
俺たちは、背中越しの親父に挨拶をしてその場を後にした。ついに旅立ちだ、西部への長旅が始まる。
《中央、西部間列車まもなく発射いたします》
「急げ!二人とも、もう行っちまうぞ」
「ま、待ってください~」
『お嬢さん、俺につかまりな!』
ヘロヘロになりながら、ホームを走るシンディーをシルバーが抱え上げ、走る。
そう、俺たちは、中央の駅に来ていたのだ。だが、シルバーとシンディーが汽車に夢中になっている間に買った切符の車両が出発間近となっていた!
「お前らが、汽車に見とれているからだぞ!」
「仕方ないじゃないですか~。かっこよかったんだもん。ね、シルバーさん」
『ああ、あの威厳ある姿に見とれるのは当たり前だ!』
「無駄口たたいてないで!いいから走れ!!」
ホームを疾走する俺たちは走り出した車両の最後尾に何とか飛び込んだのだった。
『ギリギリセーフだな』
「ギリギリアウトだろこれ」
「目が、ちかちかします」
車両の最後尾、その扉をたたき割ってシンディーが道にぶっ倒れていた。そう、飛び乗った際にシンディーが吹っ飛んでいったのだ。こりゃ、弁償もんだな・・・。出費がかさむ。
かくして、俺たち三人のこれから続く長い旅路が幕を開けたのだった。西野町に吹く風が俺達を呼んでいる。
初めまして、神奈りんです。
この度は、この話に目を通していただき、誠にありがとうございます。一週間ぐらいで続きが出ると思うので、続きが気になってしまったという方がおられましたら、気長に待ってくださると幸いです。
感想など自由に書いてくださると幸いです。