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【書籍化】悪役令嬢の愛され計画~破滅エンド回避のための奮闘記~  作者: 狭山ひびき
セルキーの涙

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悪役令嬢とカラナの妹 2

 目を見開いていたオリオンは、次の瞬間、般若の面をかぶったかのように厳しい表情を浮かべた。


「ソフィア、あんた、人に散々心配かけて、こんなところで何をしてんの!」


 逃がすまいとするようにソフィアの手首をつかんだオリオンが怒鳴ると、隣でマッキールが額に手を当てて大きく息を吐き出していた。

 オリオンの怒鳴り声を聞きつけて、シリルやヨハネスまで部屋から出てきてしまい、「オペラ俳優マッキール」の格好をしたダルターノの姿を見つけると、次の瞬間、シリルは容赦なく殴りかかってくる。

 殴られる前にシリルの拳を受け止めたダルターノだったが、ここからソフィアを連れて逃げ出すのは無理だと判断したのか、特に抵抗は見せなかった。


「大人しくしろ! 縛り首にしてやるっ」

「おーこわ。悪かったって、そう怒んなよ。ソフィアがほしかったんだから仕方ねぇだろ」

「仕方ないわけあるか! 欲しければ取るは盗人の思考だ!」

「や、俺、似たようなもんだし」


 シリルとダルターノのやり取りを茫然と見ていたランドールだったが、話の内容でオペラ俳優マッキールが海賊ダルターノだと気がついたらしい。さっと顔色を変えて拳を握り締めたランドールを、ヨハネスがやんわりと止めた。


「旦那様、お気持ちはわかりますが、落ち着いてください。奥様が怯えられます」


 見ると、ソフィアはオリオンに怒られながらも、心配そうにダルターノの方をちらちらと振り返っていた。ヨハネスの言う通り、ここでランドールがダルターノに殴りかかれば、ソフィアは怖がって泣き出してしまうかもしれない。

 ランドールが深呼吸をして握り締めた拳をほどくと、目があったソフィアがほっとしたような表情を浮かべてちくりと胸が痛んだ。ソフィアはまだ、惚れ薬の影響でダルターノに心奪われているらしい。


「ソフィア、あんた、聞いてんの!?」


 珍しく本気で怒っているオリオンが声を荒げた時だった。

 オリオンの声にかぶさるように、ガターン! と階下で大きな物音がした。

 階下を振り返ると、玄関口に掲げていた宿の看板が倒れている。興奮した様子のディルバ子爵はその看板を踏みつけて、今にも女将につかみかかりそうな勢いだ。


「先にあっちの方を何とかしたほうがいいだろう」


 このままではまずそうだとダルターノが言って、進行方向にいたシリルを押しのけて階段を下りていく。シリルとランドールも後に続き、階段の上にはソフィアとオリオン、ヨハネスが残された。


「ディルバ子爵だっけ? どうしたのかしら、あの人」

「さあね。ま、シリル王子もいることだし大丈夫じゃない?  それよりもあんた、ごまかそうったってそうはいかないわよ。今まで何してたの?」

「う……、ごめん」


 いくらダルターノと一緒にいたかったとはいえ、オリオンたちに心配かけたのは全面的にソフィアが悪い。しょんぼりしていると、オリオンが大きく息を吐き出した。


「こういうのも薬が影響するのかしら。普段のあんたなら、さすがにここまで無鉄砲じゃないし」

「薬?」

「こっちの話よ。それより、ダルターノにくっついていたあんたがどうしてここにいるのよ。てっきり海でセルキーの涙でも拾い上げてるのかと思ったわ」

「どうしてそれを知ってるの?」


 ソフィアはびっくりした。

 オリオンは「やっぱりねー」と頷く。


「ダルターノの船をこのあたりで見たって目撃情報があったのよ。このあたりの海でダルターノが狙いそうなものって言ったらセルキーの涙くらいじゃないの。で、あんたたちはここで何してんの?」

「あ、うん。実は……」


 オリオンたちがいることには驚いたが、いるのであれば黙っている必要はない。事情を説明してカラナの妹を探す手伝いを頼むべきだ。龍神の怒りは日に日に膨れ上がっているようで、いつカラナの言う嵐が来ないとも限らない。

 ソフィアはオリオンにカラナの妹の件を説明しようとしたが、その前に階下から大きな怒声が上がって思わず口をつぐんだ。


「ここに俺の妻がいるのはわかってるんだ! 今すぐマナラを出せ!」






 ソフィアとダルターノ、そしてランドールとシリル、オリオンはシリルの使っている部屋に集まった。

 ディルバ子爵はシリルが追い返して、階下はようやく静かになったが、ディルバ子爵がそれまでに暴れてくれたせいで、看板のみならず割れた花瓶の破片なども散乱しており、後片付けが終わるまで部屋にいてほしいと女将に言われたためだ。


「それにしても、まさかディルバ子爵の妻がマナラだったなんてね。彼が結婚していたことも知らなかったが……、さすがにあれほど嫌がるマナラをすんなりディルバ子爵に渡すわけにもいかないね。彼、ずいぶん興奮していたようだし」


 シリルが言うと、ランドールが難しい顔で頷く。

 ソフィアにはマナラが誰なのかはわからないが、ディルバ子爵の妻はどうやらこの宿に本当にいたらしい。そしてシリルたちの知り合いのようだ。


「それで、ダルターノ。君はソフィアを攫ってのんびり旅行か? 捕まるのがよほど怖くないと見える」


 シリルがじろりとダルターノを睨みつける。

 ソフィアは慌ててダルターノをかばった。


「ダルターノは悪くないです! わたしが自分の意志でついていったんですから」

「ソフィア、そうはいってもね、君は今――」


 シリルは何か言いかけて、あきらめたように首を横に振った。


「いや、もとはと言えば俺のせいでもあるから、これは言わないでおくよ。それでダルターノとソフィアはこの町でいったい何をしているんだ? まさか本当に旅行じゃないだろうな」


 ソフィアはダルターノは顔を見合わせて、それからゆっくりと口を開くと、カラナから聞いた話を説明する。


「つまり、このままだったら、この町が流されてしまうってこと?」

「なるほど、それは穏やかじゃないが……」


 オリオンとシリルが眉を寄せる。


「でも、そのセルキーの妹を探すって言ったって、特徴も何もわからなかったら探しようがないわよ。どれだけの人がこの町にいると思ってんの」

「そうよね……」

「いや、待て」


 それまで黙っていたランドールが、視線をついと壁の方へ向けて口を開いた。


「アザラシの皮を奪われたセルキーは、海につかれば高熱が出ると言ったな」

「あ、うん」

「まさかとは思うが……、マナラではないのか?」

「え?」

「あ!」


 オリオンは立ち上がった。


「確かに高熱が出たわ! それに、無理やり妻にされたって言うのが本当なら、ディルバ子爵のところに帰りたがらないのもわかる」

「訊いてみて損はないかもしれないね」

「でも、さすがに『あなたはセルキーですか?』って訊いたら変に思われない?」

「それならカラナって名前のお姉さんいるって訊いてみればいいじゃない」


 さっそく聞いてくるわとオリオンが部屋を出ていくと、そのあとに「お前も来い」とダルターノを引きずったシリルが続いていく。

 ランドールと二人、部屋に残されてしまったソフィアが、気まずさに耐えきれず、オリオンたちを追いかけようと腰を浮かしかけた時だった。


「無事でよかった」


 ランドールがポツンと言って、ソフィアは耳を疑った。

 振り返れば、ランドールは真剣な表情でソフィアの顔を見つめていて――


(なんで、そんな顔するの……?)


 ソフィアは無意識に心臓の上を押さえた。心臓が、まるで誰かに握り締められたかのようにぎゅっと苦しくなる。

 戸惑っていると、ランドールは困ったような表情で薄く笑った。


「俺たちもマナラのところに行こう」

「あ……、うん」


 ランドールに促されて、ソフィアは彼と一緒にマナラが使っている部屋へと向かう。

 マナラの部屋にいたダルターノの姿を見つけたソフィアはほっとしたが、どうしてか胸の苦しさはなかなか消えなくて、隣に立つランドールをそっと見上げた。


(もしかして、心配……したの?)


 どうしてランドールがソフィアを心配するのだろうか。

 わからない。

 わからないけれど――


(なんだか胸がもやもやするわ……)


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