悪役令嬢と魔女の遺産 4
次の日――
ソフィアはカーネリアに呼び出されて、中庭に向かった。中庭の四阿には、ティーセットが用意されていた。お茶会をするらしい。
すでに四阿にはランドールの姿があった。ソフィアと目が合うと、もの言いたげな視線を向けてくる。ボロが出るのを恐れたソフィアは、ここ数日ランドールを避けまくっていたので、非常に気まずい。
「い、いいお天気ですね、ランドールさん」
ソフィアはひきつりそうになる口元に必死に笑みを張り付けると、ランドールから離れた席に腰を下ろした。
「まあっ、マルゲリータちゃん! そんな隅っこの方じゃなくて真ん中に座って!、ほらほら!」
せっかくランドールから距離を取ったというのに、カーネリアにぐいぐいと押されて、結局ランドールの隣に座らされる。
ランドールの視線が痛い。黙っているわけにもいかないので、近くで咲く薔薇の花の話題を振ろうとしたソフィアは、突然、ランドールに花を差し出されて驚いた。
差し出されたのは一輪のピンク色の薔薇だった。おずおずと受け取ると、ランドールは言い訳のように、
「先ほどそこで、庭師にもらったんだ」
と言ったが、うっすらと頬が赤くなっている。
ソフィアはますます驚いた。
(ランドールが照れながら花をくれた!)
これはいったいどういうことだろうか?
ランドールに花をプレゼントされたのははじめてである。
ソフィアは受け取った薔薇を見つめた後で、ランドールの顔を見上げた。彼の頬はまだ赤い。ランドールがそんな顔をするから、ソフィアまで照れてしまって、もじもじしていると、カーネリアがわざとらしく手を叩いた。
「まあ、マルゲリータちゃん! 赤くなっちゃって! もしかしてヴォルティオ公爵様のことがお好きなのかしら?」
「なっ――、な、何を言い出すの、お、お姉様。そんなことを言ったら、ランドールさんにご迷惑よ……!」
(何を言い出すのよカーネリア―――!)
ソフィアは耳まで真っ赤になった。ランドールのことが好き? ええ、もちろん好きですとも! でもここでそれを言われたらものすごく困るのである。なぜなら今のソフィアはシリルの恋人なのだ。
あわあわするソフィアに、カーネリアはにんまりと笑う。
「あらあら照れちゃって。ヴォルティオ公爵様、わたくしのマルゲリータちゃんはとっても可愛らしいでしょう? お嫁さんにしたくならない?」
「え、いや……」
お嫁さんも何も、ソフィアはすでにランドールの妻である。
ランドールもどう答えたものかと困惑した表情を浮かべていた。
「楽しそうだね」
ソフィアがこの状況をどう潜り抜けようかと考えていた時、にこやかに微笑みながらシリルとダルターノがやってきた。
「シリル、お兄様も遅いわ」
「おや、遅れちゃったかな?」
「遅れてはいませんわ。時間ぴったりです」
カーネリアが答えて、侍女のサーラが手際よく人数分の紅茶をいれる。
差し出された紅茶に蜂蜜を落としてかき混ぜて、ソフィアはさりげなくシリルの手元にあるティーカップを見やった。
(……飲み物には注意って言っておいたから、さすがにシリルは飲まないわよね?)
カーネリアの手元に惚れ薬が存在するのなら、いつどこでそれが盛られるかわからない。
シリルはソフィアの視線に気がついたのか、薄く笑って、ティーカップをさりげなく横に移動した。
(よかった、わかってるみたい)
ソフィアはほっと息をついて、自分の分のティーカップを口に近づけた。薔薇のフレーバーティーだろうか。ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
ソフィアが蜂蜜の甘みが足された紅茶を口に含んだ時だった。
ソフィアが使った銀のスプーンを見たダルターノが、ハッとしたように目を見開いて――
「待て! 飲むな!」
「え?」
しかしソフィアは紅茶をこくりと飲み下したあとで、駆け寄ってソフィアの手からティーカップを叩き落したダルターノの顔をしっかりと見上げて。
「―――っ」
ソフィアの心臓が、どくりと大きく脈打った。
頭がぽーっとして、まるで酒に酔ってしまったかのようにくらくらしてくる。
「マルゲリータちゃん! そっちじゃありませんわっ」
カーネリアがなにやら焦ったように叫んだが、ソフィアの耳には入ってこず――
「――――――好き」
ソフィアは両手を広げて、ダルターノに抱き着いた。
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