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悪役令嬢と魔女の遺産 3

 ソフィアはダルターノと城の図書室にいた。

 というのも、オリオンから、ランドールがソフィアに会いに部屋に来るという情報を入手したからだ。

 もしも怪しんだランドールに詰め寄られれば、ソフィアはうっかりボロを出してしまうかもしれない。慌てて部屋から飛び出したソフィアは、ちょうどソフィアの部屋に来る途中だったダルターノとともに図書室へ避難したというわけだ。

 ヴェルフントの図書室は広く、外の庭に面した窓際には等間隔に机と椅子が並んでいる。

 窓から差し込む日差しは暖かく、お昼ご飯を食べたばかりのソフィアは襲ってくる眠気に欠伸をかみ殺した。

 図書室に来たと言っても、特に本を読むこともなく、ダルターノと向かい合ってお喋りをしているだけだ。

 人は少ないが、それでもソフィアたち以外に人の姿があるので、あまり大声で込み入ったことは話せず、必然的にひそひそ話になる。


「俺が探ってる限り、カーネリアに妙な動きはなさそうだが、大人しすぎるのも妙だな」


 いったい何を考えているんだか――、とダルターノがため息をつくが、ソフィアにもカーネリアの思考回路はわからない。


「ねえ、そもそもカーネリアの婚約の話って、サラドーラから正式に申し入れがあったものなの?」

「サラドーラからの申し入れはあるにはあったらしいが、それは国王を通じて正式に断りを入れているらしいぞ。けど、それに納得しなかったカーネリアがごねて、しまいには押しかけて来たんだと」

「な、なるほど……」


 さすがカーネリア。やることがめちゃくちゃだ。

 でも、それならばなぜヴェルフント国王はこの状況を黙認しているのだろう。ソフィアが訊ねると、ダルターノは笑った。


「俺もそれは気になったんでシリルに聞いてみたんだが、国王は『これが政治的なことにならば口を出すが、ただの色恋沙汰なら知らん。自分たちで決着をつけるんだな』つって取り合わなかったらしいぜ。シリルがイライラしてた」


 ソフィアはまた一つ、『グラストーナの雪』の設定集に書かれていなかった事実を知った。だからカーネリアはヴェルフントに押しかけてきて自由にシリルを追いかけまわすことができていたのか。納得。

 しかし決着と言っても、シリルが単刀直入に「婚約できない」「恋人がいる」と言っても聞き入れないカーネリアである。ただの色恋沙汰だから知らないと言っていないで、ぜひとも国に強制送還してほしいところだった。


「でも、早く何とかして、わたしの記憶が戻ったことにして『もとのソフィア』に戻らないと、いつまでも無駄な創作活動が続くじゃない」


 そうなのである。実は「ソフィア」の捜索はまだ続いている。

 シリルはシリルで、他国の姫を巻き込んだとは国王に言えないし、ランドールもさすがに目の前のシリルの恋人が行方不明の自分の妻だとは言いづらい。ソフィアが記憶喪失のふりをしているのだからなおさらだ。

 そのせいで、ヴェルフントの軍の皆様は、いもしないソフィアを探して海や海岸近くの町を調べまわっているのである。


「そのあたりは、シリルも無駄な税金を使いたくないからそのうち考えるだろ」

「人ごとのように言うわね」

「実際俺は人ごとなんでね。俺がシリルに頼まれたのは、適当な女を連れてこいとだけだ。俺がここにいるのは依頼に含まれていない言わばただ働きだな。お前と連れてきたっていうのにすべて終わらないと報酬を支払わないとかいうから仕方なく付き合ってやってるだけだからな」

「なによ、充分巻き込まれてるんだから当事者じゃないの」

「巻き込まれてるのは確かだが、それが追加のただ働きをする理由にはならねーな」

「あ、そ。いいわね無責任で」


 ソフィアは机に突っ伏した。


「そう不貞腐れるなよ」

「不貞腐れたくもなるわよ。このままじゃ、解放されるのがいつになるのかわかりやしないわ」

「大丈夫だって。あんまり長引くようなら、俺があのお姫さんを海に沈めてやるから、な?」

「冗談でも笑えないわ」


 海賊ダルターノが言うと洒落に聞こえない。

 ダルターノは笑いながらソフィアの頭をぽんぽんと撫でた。


「あの姫さんはともかくとして、お前のことなら攫ってやってもいいぜ?」

「はいはい。面白い冗談ねー。ありがとう」


 冗談は笑えないが、ダルターノは彼なりにソフィアを励まそうとしてくれているのかもしれない。


「何か気晴らしに面白そうな本探してくる!」


 ソフィアが席を立つと、ダルターノはその後姿を目で老いながら苦笑した。


「あながち、冗談でもないんだけどねぇ」


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