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【書籍化】悪役令嬢の愛され計画~破滅エンド回避のための奮闘記~  作者: 狭山ひびき
魔女の遺産

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悪役令嬢と魔女の遺産 1

 ランドールはイライラしていた。

 まったくもって、理解できない。

 つい数時間前まで、ソフィアがいなくて後悔のどん底にいたというのに、そんな感情はあの瞬間にきれいさっぱりなくなった。


「ソフィアがシリルの恋人? フェルドラード国の公爵の妹? いったいどういうことだ。あれはどこをどう見てもソフィアだろう!」


 中庭で会ったのは、確かに、海に落ちたはずのランドールの妻だった。

 それなのにソフィアはランドールを見て「どちらさまですか?」と言い、シリル王子はそんな彼女を恋人だという。ソフィアをマルゲリータと呼んで妹だというカーネリアは、おそらく相手にしなくていいだろう。

 シリルがソフィアを連れていなくなったので。茫然としたまま与えられている客室に戻ったランドールは、苛立ちながら部屋の中を歩き回っていた。

 ランドールから事情を聞かされたヨハネスとイゾルテ、オリオンも、歩き回るランドールを見ながら茫然としている。


「ええっと、その方は本当に奥様だったのですよね?」


 イゾルテが困惑した表情で訊ねた。ランドールから話を聞いたイゾルテは、ソフィアが生きていたことを喜ぶべきか、それともこの状況に頭を抱えるべきかよくわからなくなってしまった。


「間違いない。あれはソフィアだ。疑う余地もなくな」

「でも、シリル王子の恋人だと……。どういうことでしょう?」

「知らん! 俺が聞きたい!」


 ランドールは部屋の中を歩き回るのをやめて、ソファにどかりと腰を下ろした。

 ソフィアが生きていたことは喜びたい。ひどく安堵したのも間違いはない。けれどもそれ以上に今の状況が理解できない。これが苛立たずにはいられるか。

 オリオンは腕を組むと、ランドールに静かに訊ねた。


「ええっと、旦那様? シリル王子の話では、ソフィアはダルターノの妹だと、そういうことですよね?」

「そうだが、何かの間違いだろう!」


 オリオンはふむと小さく頷いて、一人静に部屋から出て行った。


(……とりあえず、ソフィアに会ってみますかー)


 ダルターノが、『グラストーナの雪』の攻略対象者であるダルターノであるなら、なんとなく裏に何かありそうである。


(ダルターノの本名は、ダルターノ・フェルドラード・マッキール。あのオペラ俳優のマッキールと関係があるとみてよさそうだし)


 ソフィアがマッキールと海に落ちて、見つかった時にはダルターノの妹になっていた。これはどう考えてもおかしい。


(あんた、もしかして、何かに巻き込まれてんじゃないの?)


 ソフィアが聞いたら、「正解!」と叫ぶほどの名推理だった。






「さっそく遭遇してどうする!」


 中庭から部屋に戻ったソフィアは、シリルに怒られていた。


「だ、だって。カーネリアに無理やり中庭に連れていかれたんだもの」

「そもそもカーネリアの部屋に隠れようとした時点で間違っている」

「だって、さすがにあそこなら入ってこないかと……」


 ソフィアが滞在している客室は、ランドールたちが使うことになった客室のすぐ近くにある。つまり、うっかりこの辺りをうろうろしていたらランドールと遭遇することになるのだ。その点カーネリアはここから離れたところの部屋を使っているから、彼女の部屋で夕食までの時間をつぶせばいいと高をくくっていた。

 まさかこんなに早くにランドールに顔を見られてしまうとは。

 ランドールは聡いのである。あまり早くに遭遇してしまうと、カーネリアを帰国させる前にたくらみがばれてしまう。


「とにかく、これからはできるだけ部屋から出るなよ? うっかり遭遇しても『あなたは誰?』って顔をしておけ! そしてできるだけ余計なことは話すな。いいな?」

「うん、わかった」

「こっちも早くカーネリアをあきらめさせる方法を考える。……あの女、俺がいくらソフィアが恋人だと言っても聞き分けやしない。どうなっているんだ、あいつの思考回路」

(そうでしょうねー)


 カーネリアはしぶとい。『グラストーナの雪』のシリルルートでも、彼女をあきらめさせるのは大変だった。最終的に、シリルに惚れ薬を飲ませて自分を好きにさせて、その隙に婚約式をすまそうとまでしたのである。ヒロインがその婚約式当日に解毒薬を持って駆けつけてシリルが正気に戻り、婚約式に出席している人々の前で婚約式の無効を訴えるのである。『グラストーナの雪』全体の悪役令嬢はソフィアであるが、シリルルートに限って言えば、カーネリアはプチ悪役令嬢。中ボスくらいの位置づけだ。キャラ的に全然悪役令嬢らしくなくて、プレイヤーからしてみれば、愉快でちっとも憎めないから、あんまりそんなに感じはしないが。ちなみに、悪役令嬢のソフィアとは違い、カーネリアは破滅はしない。泣く泣く国に帰るだけである。


(まさか惚れ薬イベントを発生させないとあきらめないとか、ないよね……?)


 ソフィアはぞっとした。今のこの状況でシリルが惚れ薬を飲んでカーネリアを好きになってしまったら、ただでさえめちゃくちゃなこの状況がさらに混乱する。


「とにかく、お前は何も知らない体で俺の恋人を演じ続けろ。というか、いっそお前が本当に俺の恋人だったら楽なんだがな。さっさとお前と婚約してしまえば、カーネリアもあきらめるしかないだろう。グラストーナの王女なら身分的にも問題ないし、結婚さえしていなければ都合がよかったのに……」


 シリルは、アリーナが聞けば飛び上がって喜びそうなことを言う。

 アリーナでなくても、もしソフィアがランドールと結婚していなければ、その話に飛びついていたかもしれないが、ソフィアはすでにランドールの妻。何としてもランドールを「デレ」させてラブラブ夫婦になりたいのである。この様子だと、ラブラブ夫婦までの道のりはシリルが相手の方が圧倒的に近道だった気がするが、ソフィアはランドールを選んだ。ゲームではないのである。やり直しはきかないし、やり直すつもりもない。


(そういえばランドール、ちょっと痩せたみたいだったなぁ)


 痩せたというよりはやつれていた。もしかしなくとも、少しはソフィアのことを心配してくれていたのだろうか。

 ソフィアの胸が罪悪感でずきりと痛む。

 今回のことが片付いて無事に解放された暁には、ソフィアはすべてのことを話して素直にランドールに謝ろうと心に決めた。


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