悪役令嬢の苦悩 1
カサルス港に滞在すること四日。
荒れていた海の様子は落ち着き、グラストーナに向けて船が出航できるようになったが、ランドールたちはグラストーナに向けた船には乗らなかった。
ソフィアの捜索は依然続いているが、手掛かりになるようなものは何も見つからない。グラストーナ国王への報告もあるので帰らなければいけないのはわかっているが、ランドールたちは帰る気にはなれなかった。
ソフィアが見つからないのだ。彼女をおいて帰れない。
けれども、日が経つにつれてランドールたちの脳に「絶望」の二文字がよぎりはじめる。もしかしたらソフィアはもう――、口には出さないが、誰もがそう考えはじめたとき、ヴェルフントの軍の上層部からランドールに連絡が入った。
なんでも、今回のことで国王がひどく心を痛めているらしい。今後のことについても話がしたいため、王都に来てはくれないだろうかとのことだった。
グラストーナの王女が行方不明になったのだ。軍からヴェルフント国王へ連絡が行っているのは当然である。
国王からの要請であれば、ランドールたちも断ることはできない。
グラストーナ国王への報告のためにカイルが一人帰国することにして、ランドールたちはヴェルフントの王都へ向けて出立した。
王都アザルースまでは、カサルスの町から馬車でおよそ五日。馬車はヴェルフントの軍が用意し、丁重な扱いを受けたが、ランドールは彼らの気遣いに謝意を告げる気力もなかった。
ソフィアが海に落ちてからもう五日を数える。その間、ランドールは食べ物もろくに喉を通らず、すっかりやつれてしまっていた。
頭では、自分がしっかりしないといけないことは理解している。ヴォルティオ公爵家の当主として、また、ヴェルフント国王の甥として情けない姿はできない。いつでも毅然とした態度でいなければ――、そう、わかっているのに、心がついていかない。
(ソフィア――)
ソフィアは海に沈んでしまったのだろうか?
あの、暗い海の底に、ソフィアは――
ランドールは両手で顔を覆った。
あの夜、ソフィアから離れなければ。ソフィアと一緒に行動していれば。ソフィアの周りにもっと気を配っていたら、ソフィアは今隣で笑っていたはずだった。
ヴェルフントで観光したいという場所も上げて、楽しそうにしていたのに。
ガラガラと馬車の車輪の音がいやに響く。
カイルの話だと、セドリックは誰かに金で雇われたらしかった。
いったい誰がソフィアを亡きものにしようとしたのだろう。
カイルの話だと、金髪の女だという話だった。金髪の女なんて、グラストーナにはたくさんいる。ソフィアだって金髪だ。
(金髪……。ソフィアの父親を騙ったガッスールも、金髪の女にやとわれたと言っていなかったか……?)
ランドールの中で何かが引っかかる。けれども、憔悴しているせいか、考えがまとまらない。
馬車の窓の外には、憎らしいくらいに青い空が広がっている。
ソフィアと一緒に見るはずだった、ヴェルフントの空――
(ソフィア――)
――あとで後悔することになっても、知らないからな。
ふと、カイルの言葉が脳裏によぎる。
後悔――
そうか、自分は今、後悔しているのだ。
ソフィアともっときちんと向き合えばよかったと。もっと彼女を大切にすればよかったと。
ソフィアが海に落ちたあの夜、彼女を追って海に飛び込んでいれば何かが変わっていただろうか?
ランドールは祈るような気持ちで、目を閉じた。




