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悪役令嬢、王子の偽の恋人になる 4

 部屋の中から、どうにかしてカーネリアとその侍女であるサーラを追い出すことに成功したソフィアたちは、すぐさま作戦会議を開始した。

 シリルも、ソフィアを恋人として紹介してカーネリアにあきらめさせることしか考えていなかったため、カーネリアの「どちらがシリル様のハートを射止めるか勝負!」という宣言は想定外だった。


「あの女、ネジどころか、脳の作りが常人とは異なるんじゃないのか?」


 シリルがソファの背もたれに体重を預けて、ぐったりと天井を仰ぐ。

 ソフィアもまさか「人形」と一緒にされるとは思ってもみなかった。カーネリアはどこまで正気なのだろうか。まさか、人形が人間になると本気で信じているわけではあるまい。


「まあ、マルゲリータ人形はともかくとして、ソフィアのその容姿がカーネリアの心の琴線に触れたのは確かだろうな。要は、ものすごく気に入られちまったってこったろ。あんなめんどくさそうな女に気に入られちまうなんて、シリルにしてもソフィアにしてもついてねぇなー」

「人ごとみたいに言わないでよ……」

「悪い悪い。まあ、逆を言えば好都合なんじゃねぇの?」

「好都合?」


 ソフィアとシリルはそろって首をひねった。

 ダルターノはソフィアが座っているベッドの淵に腰を下ろす。


「あのイカレたお姉ちゃんはこう言ったろ? 『どちらがシリル様のハートを射止めるか、勝負』ってな。つまり、その勝負にソフィアが勝てば何も文句はないはずだ」

「勝つもなにも、はじめから勝負にならないだろう。俺はカーネリアと婚約するつもりはない」

「であっても、カーネリアは『勝負』に負けないと素直に引き下がらないと思うぜ?」

「つまり俺に茶番を演じろと?」

「もともと、ソフィア使って破談に追い込む作戦も結構な茶番だろうが」


 茶番って自覚はあったんだー、とソフィアは内心でちょっと感心した。

 シリルは腕を組んで、


「まあ……、それでカーネリアが黙るなら」

「つーか、現段階でほかに手はねぇしなー」

「でも、勝負っていったいどんなことをするのよ」

「さあ? それはあの姫さんが考えるんじゃねーの?」


 カーネリアが考えた「勝負」? ソフィアは嫌な予感しかしない。シリルだってダルターノだって、カーネリアの思考回路がおかしいことくらいわかっているはずなのに、勝負することになるのはソフィアだと思って人ごとのように……。


(でもカーネリアよ? 勝負に負けたからと言って素直に引き下がるのかしら? それに、カーネリアが負けるような勝負をするはずは……)


 もちろん、カーネリアである。自分が負けるとはこれっぽちも思っていないだろうが、彼女は気に入ったものへの執着がすごい。負ける可能性が少しでもあるような勝負はしてこないはずだ。何が何でも、シリルを手に入れようとしてくるはずで――


(思い出した、『偽りの愛』スチル!)


 シリルルートで、カーネリアがシリルを手に入れるために用意していた奥の手「惚れ薬」。ゲームのスタート地点よりも前ではあるが、カーネリアがすでにその「惚れ薬」を入手しているのであれば、彼女が安易にソフィアに勝負を吹っかけてきた理由がつく。

 ソフィアはごくりと唾を飲み込んだ。

 シリルルートでは、シリルがうっかりカーネリア用意した惚れ薬を口にしてしまうのだ。この後分岐点があり、惚れ薬の効果が解けなければバッドエンド。惚れ薬の効果を解くことができれば次のストーリーに進むことができる。ソフィアはもちろん、惚れ薬の効果を消す解毒薬のありかを知っているが、あれの入手は現実世界で考えると非常にめんどくさい(ゲームなら、シリルの親密度が一定以上あれば、すぐに場面が変わるからなんてことはないが)。


(惚れ薬は何が何でも回避しなきゃ……!)


 ソフィアは早くこの面倒ごとを終えて、ランドールたちに無事を伝えて合流したいのである。惚れ薬の解毒薬を入手するための旅に出ている暇はない。


「あの、シリル……、念のためだけど、カーネリアが用意する飲み物とか食べ物とかには注意しておいた方がいいんじゃなかしら?」

「まさかカーネリアが俺に毒を盛ることを警戒しているのか?」

「そうじゃなくって、ええっと……ほら! カーネリアのことだから、変な薬とかを入れるかもしれないじゃない? 具合が悪くなったシリル相手に、お医者さんごっことか……は、しないかしらねー?」

(さすがに無理があったわ、わたしのばかー!)


 ソフィアはあははははと笑ってごまかした。

 けれども、シリルは具合が悪くなった自分にカーネリアがべたべた触るさまを想像したらしい。途端に顔色が悪くなる。


「なるほど、人形が人間になったと思うような女だ、ありえる……」

「確かになー、カーネリアならやりそうだ」

「そ、そうよねー?」

(セーフ! 怪しまれなかった!)


 ソフィアはほっと胸を撫でおろした。


「そうでしょ? 警戒するに越したことはないと思うのよ」

「そうだな。一応カーネリアが出したものには手を付けないようにしておくか」

「ごっこ遊びはともかく、眠り薬でも仕込まれて既成事実とか作られたら、相手が王女だけに逃げれねぇからなー」

「……やめてくれ。想像するだけで死にたくなる」


 シリルはため息をついて立ち上がった。


「まあ、予定よりさらに面倒なことになったが、どうにかするしかない。ソフィアも悪いが付き合ってもらうぞ」

「……終わったらちゃんと帰してくれるのよね?」

「ああ、約束する。このあと父上に謁見する予定だったが、さっきまで気絶していたんだし、ゆっくりしてろ。父上には俺から適当に言っておく」


 どうやら、ソフィアが寝かされていた部屋は、ソフィアのために用意していた客室らしい。

 シリルたちが出ていくと、ソフィアはもう一度ベッドに横になって、かわいらしい花柄の天井の壁紙を見つめて息を吐いた。


「あーあー、面倒なことになっちゃったなぁ」


 嘆息するソフィアは、まさかこの二日後、事態がさらにややこしくなるとは想像もしていなかった。


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