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【書籍化】悪役令嬢の愛され計画~破滅エンド回避のための奮闘記~  作者: 狭山ひびき
魔女の遺産

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悪役令嬢、王子の偽の恋人になる 3

 目を覚ましたソフィアは、そこに、心配そうに青い瞳を潤わせながらこちらを見つめているカーネリアと、あきれ顔のシリルとダルターノの姿を見つけた。

 ソフィアはがんがんと痛む頭を押さえながら状態を起こす。


(えっと、わたしどうなったんだっけ? カーネリアに抱き着かれて、そこからあとの記憶がない……)


 ソフィアは助けを求めるようにシリルに視線を向けた。

 シリルは肩を落として、それから見事な猫をかぶって極上のスマイルを浮かべた。


「大丈夫? ソフィア。痛いところはないかな?」


 ベッドサイドに歩み寄って、優しく手を握られて、ソフィアはうっかりドキドキしてしまった。演技とはわかっていても、シリルの王子スマイルの破壊力は満点だ。


「なかなか目を覚まさないから心配したんだよ」


 ソフィアは痛む頭を押さえたまま、必死にその演技についていった。


「心配かけてごめんなさい。わたしは大丈夫よ」


 本当は打ち付けた後頭部がものすごく痛かったが、ソフィアはできるだけ親密さを装いながらにっこりと微笑んで見せる。

 そうして手を握り合って見つめあうこと十数秒――、二人の空気を漂わせるソフィアとシリルの間に、「ストップですわー!」とカーネリアが割って入ってきた。


「先ほどから見ていたらマルゲリータちゃん! シリル様はわたくしの婚約者ですのよっ」


 ソフィアは微笑を浮かべるシリルのこめかみに小さな青筋が浮かぶのを確かに見た。


(いやいや、だからマルゲリータってなによ? わたしはそんなピザみたいな名前じゃないんだけど)

「あの、カーネリア様……」

「まあっ、マルゲリータちゃん、そんな他人行儀な! いつもみたいにお姉様と呼んでくださらないと嫌ですわ!」

「お……お姉様……?」


 お姉様ってなんだとソフィアは疑問を口にしたつもりだったが、カーネリアはきらきらと瞳を輝かせると、シリルからソフィアの手を奪い取った。


「なあに? マルゲリータちゃん!」


 どうしよう。なんだか異次元に迷い込んでしまった気がしてきた。シリルを見ても、ダルターノを見ても、ソフィアのことを「マルゲリータ」と呼ぶカーネリアに戸惑っているようだ。誰もこの「マルゲリータ」が何者なのかがわからない。途方に暮れていると、部屋の隅の方で控えていたカーネリアの侍女サーラが遠慮がちに口を開いた。


「カーネリア様、さすがにこの方はマルゲリータ様ではないかと……」

「なんてことを言うのサーラ! この子はマルゲリータよ! どこからどう見てもわたくしの妹、マルゲリータだわ!」


 なるほど、もしかしたらソフィアはマルゲリータというカーネリアの妹にそっくりなのかもしれない。それでそう呼んでいるのかと無理やり納得しかけたソフィアは、次のサーラの言葉に思考回路が停止した。


「カーネリア様、いくらなんでも、人形が自ら動いてしゃべりだすはずないでしょう!」


 しーん……、と。

 部屋の中に長い沈黙が落ちた。






「カーネリア様は子供のころより、ずっとずっと妹が欲しくていらっしゃいましたが、けれども一向に妹ができる気配もなく、弱った母君である妃殿下が苦肉の策として与えたのが、お人形のマルゲリータ様でございまして……、その、ソフィア様はそのマルゲリータ様のお人形に、驚くほどよく似ておいでなのでございます」


 長い沈黙ののち、サーラが申し訳なさそうな顔をしてそう言ったが、残念ながらソフィアの耳には入らなかった。

 ソフィアは――、いや、シリルもダルターノも、カーネリアを見つめたまま茫然としてしまっている。


(人形……、人形って……、いくらぶっ飛んでいるカーネリアでもぶっ飛びすぎでしょう!?)


 人形が自らの意思を持って動いてしゃべるはずがない。五歳児ならともかく、十八歳にもなった大人の女性が何を頓珍漢なことを考えているのだろうか。

 けれどもカーネリアはいたって真面目なようで、ソフィアの額を小突いてこんなことを言う。


「もう、マルゲリータちゃんったら、お姉様がいなくて淋しくなって追いかけてきちゃったのね。困った子」

(誰か助けてええええええっ)


 ソフィアは心の中で悲鳴をあげた。この状況、いったい自分にどうしろと? 途方に暮れていると、さすがにこのまま、このバカげた茶番には付き合えないと判断したシリルが、王子スマイルとともに言った。……口端がひきつっているが、これは仕方がないだろう。


「カーネリア王女。彼女はマルゲリータではなく、ソフィアです。私の恋人のね」

「まあ! いつの間にわたくしのマルゲリータちゃんがシリル様の恋人にっ」

「いえ、ですから……」

「マルゲリータちゃん、抜け駆けはいけませんわ! シリル様の婚約者はこのわたくしですのよ!」

「だから……」

「ああっ! でも! 姉妹で一人の男性を取り合うなんて、なんだか初めての姉妹喧嘩の予感がして、わたくし胸がどきどきいたしますわっ」

「………」


 さすがの猫かぶりシリルの笑顔も凍りついた。

 ダルターノはとうとう吹き出してしまって、腹を抱えて笑っている。

 ソフィアは、この中で唯一カーネリアを何とかできそうなサーラを振り返った。

 しかしサーラは、額を押さえて首を横に振るばかり。彼女でもお手上げ状態のようだ。

 カーネリアは一人盛り上がり。


「仕方がないわね、マルゲリータちゃん。どちらがシリル様のハートを射止めるか、勝負ですわ!」


 ソフィアはぱたりとベッドの上に突っ伏した。


(……カオス)


 カーネリアはただぶっ飛んでいる王女じゃなかった。「ものすごく」ぶっ飛んでいる王女だ。

 こうしてソフィアは、シリルとの恋人ごっこに加えて、よくわからない姉妹ごっこにも付き合わされる羽目になったのだった。


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