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悪役令嬢と船の上の陰謀 1

「君は何か、訳ありだったりするのかな、ソフィア嬢」


 マッキールが唐突に訊ねてきたのは、四日目の昼すぎ。ソフィアがオリオンとサロンでくつろいでいた時のことだった。

 ふらりとサロンに入ってきたマッキールは、ソフィアを見つけると微笑んで近づいてきて、近くのソファに腰を下ろすと、優雅に足を組んでコーヒーカップに口をつけた。そして、やおら訪ねてきたのである。

 訳ありとはどういうことだろうと首をひねっていると、彼は続けた。


「君みたいな若い女性が二人の男と旅だなんて、まるで物語のような面白そうな匂いがしてきましてね」


 なるほど。カイルが隣の部屋に宿泊しているのは偶然のことだったが、ほかの人の目からはそのように映るらしい。

 ソフィアは薄く頬を染めて俯いた。


「面白いことなんて……。し、新婚旅行なんです。カイルはたまたま隣に泊まっていただけで」


 自分の口で「新婚旅行」と言うのは照れくさくて、もじもじとドレスをいじっていたら、マッキールが目を丸くした。


「新婚旅行? ソフィア嬢は結婚していたのか」

「あ、はい」

「それはまた、早くに結婚したんですね」

「そう、ですね。少し早いかもしれません」


 グラストーナでの女性の結婚適齢期は十八歳から二十二歳ほどと言われている。十六歳のソフィアは確かに少し早いかもしれないが、貴族女性の中ではもっと早くに結婚する人もいるくらいなので、早すぎるほどではない。


「僕はてっきり、君は二人の男に取り合われているのかと思いましたよ」

「まさかそんな!」

「……あながち間違ってないけどね」


 ソフィアの隣でぼそりとオリオンがつぶやいたが、幸いというか、ソフィアたちの耳には届かなかった。

 マッキールは顎の下に指を添えて、「ふぅん」と思案顔になった。


「なるほどね。じゃあ、あれは違うのか……」

「どうかしたんですか?」

「いや、こちらの話です。それはそうと、ソフィア嬢は――ああ、夫人と呼んだ方がいいのかな?」

「どちらでもかまいませんよ」

「じゃあ、ソフィア嬢と呼ばせてもらいますね。ソフィア嬢は、今日のダンスパーティーには出席するのかな?」

「はい、そのつもりです」


 今夜のダンスパーティーのドレスコードは、緑とイエローと黒と白。朝からイゾルテが張り切って、レモンイエローのドレスを引っ張り出してきた。初日の夜は大人びた赤のオフショルダーのドレスだったが、今日のドレスは少女らしさを前面に出した可愛らしいデザインである。イゾルテは今夜のテーマを「妖精」と決めて、今からドレスにあわせる小物選びに余念がない。

 ソフィアも、先ほどまで化粧と髪型を何にするかにつき合わされていて、解放されたのはほんの数十分前のことだった。


「ヴェルフントが近いので夜もだいぶ暖かくなってきたんでね、今夜は甲板を解放してのダンスパーティーだそうですよ」

「そうなんですか!」

「ええ、この分だと天気が崩れることもなさそうなのでね、月の輝く夜の闇は、意外ときれいなものですよ」

「それは楽しみです」

「紅茶のお代わりはいかがですか?」


 ソフィアとマッキールが談笑していると、ティーポットを持ったセドリックがやってきた。ソフィアとオリオンは紅茶のお代わりをもらったが、マッキールはコーヒーを飲み干すと立ち上がった。


「それではソフィア嬢、僕はこれで。また今夜、ダンスパーティーでお会いしましょう」


 マッキールが立ち去ったあとに残されたさわやかな香りに、ソフィアはオリオンを振り返った。


「ねえ、マッキールさんってミントとかシトラスみたいな、いい香りがするわよね?」

「言われてみたら確かに」

「ヴェルフントの香水かしら? 訊いたら、どこで売っているか教えてくれると思う?」

「訊いてどうするの?」


 ソフィアはえへへと照れたように笑った。


「ランドールにつけてもらおうと思って」


 オリオンは鼻で笑った。


「つけないに一票」


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